(事故で若返りトリップ、原作知識なし)

車が目の前を、いや、確実に車に轢かれた俺は地獄におちた。天国ではないのかって?あまり人として良い生き方をしてこなかったのだから、俺は確実に地獄行きだ。さて、生前は信じていなかった地獄は本当にあったらしく(だって子供になって生きているのだ)、生前に絵で見たことある赤い世界は無く(そんなんだったら確実に気が滅入る)、いがいと緑あふれる自然に満ちた世界だった(生前はこんな大自然は写真でしか見たことがなかった)。
でも地獄は地獄だ。見知らぬ「魔女」みたいなやつに緑あふれる自然から離され、なれぬ小さな部屋に缶詰にされ、そこで過ごすことを余儀なくされた。この小さな部屋は随分ファンシーで、ファンタジーだ。たまにくる「魔女」の話をきいたり、小さな部屋から出ることが許可されてからは誰もいないが返事はくるピンクと黒のファンタジーな世界(これはもしや海外の地獄か?最先端の地獄か?)に目を回しながら話し込んだりした。これは「魔女」に大きくなったら頭からバリバリいかれる某童話に似た系の地獄刑なんじゃないか、というのが地獄におちてから5年の間の見解、だった。過去形ということでそれは薄れてきている。
「今日は俺がオリジナルでブレンドしてみたんだ、ブリュレの口にあうかな?」
「AAAがァ?」
「ああ、俺が、だ。」
棚にたくさんある紅茶葉を何種か混ぜた俺ブレンドは色が濃いのにスッキリする後味だ。ほんとは緑茶が飲みたいところだが、このファンシーな甘いお菓子や飲み物に占領された小さな部屋にはない。できることならソースがべっちゃべちゃにかかった塩っ辛いお好み焼きか焼きそばが食いたい。できれば白米も。地獄故にそれは一切見られないが。
ブリュレは匂いを堪能してからゆっくりとそれを飲んでくれる。不味くはないはずですよ、と笑ってみせる。笑顔が引きつらないようにするのに何年かかったと思っている。
「まあまあだね」
少し笑って簡単な感想があたえられる。不味くなかったのならばよしとしよう。ここにきて覚えてしまったケーキ作りにより作りあげたレモン風味のシフォンケーキを大きめに切り1ピースをブリュレの前に差し出す。甘いものは飽きてきてるので、どんどん味が柔らかいものになったりわざと焦げをつけて苦くしたりしている反動でブリュレに出すケーキもそうなってしまった。機嫌が悪くならないことを祈りながらまた笑みを浮かべた。
「ゆっくりしていってね、ブリュレ」
早く帰ってくれとは口が裂けても言えないので。


戻る
TOP