少年の絵を描く彼は美しい瞳をしている。なんてドス黒い目をした私が言えたものじゃないけど。
「なぁ、AAA、昨日奴はなんだったと思う」
彼は筆を止め、珍しく私の方を向いて話をはじめた。いつもなら筆に集中して此方なんて見ないくせに、とは言えず、作業を止める。
昨日の奴、とは、彼のことを山科と呼びなにやらどうやら沢山話してきた男のことだろう。警察がどうとか、宝石がどうとか、死んだのではとか、そういった問いに対し彼はなにも返せずその男を見ていただけだったから私が割って入り、話を切り上げさせたのだ。もちろん無理矢理。
「そうね」
たぶんあれは貴方が「彼」ではない山科という人間だった頃の知り合いなんじゃないだろうか?私が貴方と出会ったときにはもう山科という人間では無くなっていたし、ずいぶん昔の話だったりするんだろう。昨日の話を要約すると山科は警察でなにかしらに巻き込まれ殺されたのに生きてた、ということだろう。前半の部分は聞き逃してしまい詳しいことがわからないがふわふわした要約になってしまったが、大方はわかってしまう。そう、わかってしまったのだ。
彼が元警察で、死んでいたかもしれないなんて。元であろうと、彼は真っ当であったということだろう。この真っ当でない隅にいる人ではないということだ。
「あなたの昔を知っていた、とかじゃないの?」
「そうだよなぁ」
「気になるなら今日も行けばいいわ。明日もくるって言ってたんだから、たぶん、会えるわよ」
これ以上、真っ当であった人とは一緒にいられない。もしかしたら、また、真っ当な人が彼に会いに来て、私を見てなにかなるかもしれない。彼が行くならば、もう、会うことはない。
「いや、行かないよ」
「は?」
「もう、会うことはないだなんて、言わないでくれよ。」
口から漏れ出ていた声を片付ける術を私は持たない。彼も少しばかり驚いたような顔をしたから、たぶん同じく片付ける術を持たないのだ。持たず、どうすることもできない私たちは目を合わせ、苦笑いをこぼした。
「ありがとう」
「いや、こちらこそ」
明日はまた場所を変えて絵を描こう。そうすれば私たちはまた苦笑いを合わせあうような、おかしな関係に戻れるから。


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