※捏造、自己解釈あり
「この月を、この夜空を、この世界を呪ったことはあるか」
マリアよりも細身の、しかしゲールマン並みに身長のありそうな女がふふと笑いながら階段があった場所に立っていた。この一階しかなく二階は倒壊した、その合間にある階段に立つなどありえないはずなのに、そいつは悠々と立っていた。女はゲールマンと似た狩人の姿をしており、しかしゲールマンの仲間内では見たことのない女であった。
恐怖がそっと足先からゲールマンを侵食するのに対し、大穴から入る月の光だけが唯一の美しい優しさである。
「何者だ」
ゲールマンの返答は女が臨むものではなかったらしく、狩人の衣装に身を包んでしまい唯一見える瞳がぐにゃんと歪んでしまった。歪みながらも変わらず同じように問いを繰り返す。
「何者だと聞いている!」
しかし、ゲールマンの返答も態度も変わらなかった。狩人の姿をした、しかし、知らぬ者がこの世の理である重力を知らぬものとし、あるはずがない階段だけに立っているのだ。不審者でしかない。武器に手をかけようとし、今にも女に飛びかかりそうなゲールマンを見ても女は変わらずふふと笑うだけ。
「答えよ、若きゲールマンよ。呪ったことはないのか?それを答えればお前の問いに答えよう」
「…ない。世界など呪ってなにになる」
「ふふ、ふふふ、若きゲールマンよ。純粋で優しい若きゲールマンよ。ふふふふふ」
「何者だ。」
「ふふ、あはは、ああ、答えよう、純粋で優しさに溢れた人間らしい若きゲールマンよ、ははは、ふはは」
女はなにが可笑しいのか笑いが止まらず、しかし瞳は笑ってはいなかった。その瞳は月の色だ。あの夜空に浮かぶ美しい月をそのまま瞳にはめ込んでしまったかのような。ゲールマンの中に浮かんだ思考はすぐに女の人らしい姿に惑わされその全ては消え去った。
「ああ、あはは、私は狩人。まだ貴方とは出会わない狩人。名はAAAだったようだ、そんな気がするだけだ。ひひひ。若きゲールマンが年月を経れば私に会うだろうよ、あはは、ふふふうふ。」
「は?」
「あははは、上位者になんてなりたくなかったのに、ふふ、どうして、あはははは、総てを、制覇できるとね、つまんなくなるのよ?ふふふ、宇宙だ、月だ、なんてね、ふふ」
言っていることがまるで理解できないゲールマンはやはり武器を構えた。理解しえない獣と戦ってきたのだ、その心得ぐらいわかっている。構えられた武器に怯むことがない女はその月の瞳を輝かせたまま足を組み替えた。やはり重力など働いていない。
「制覇してね、ふはは、過去を見れるようになったんだよ?なったから、なんだって話なんだけどひひひ、はははは、だから見にきたんだよ。若きゲールマンを、お前を。お前が幸せに浸っていたことを、見に。」
「幸せだと?この血が蔓延る世界が私の幸せだと?」
「ひはははははっ、そうだとも、そうだとも!お前の、狩人の幸せなど今だけだ!今だけ!可哀想に、ふふ、ふふふ、まだ見ぬ未来に、マリアが唯一の幸せであるはずのお前が、はははははは!」
その瞳は狂気だ。憤怒だ。世界だ。潜ませる気などざらに無い溢れんばかりのそれはゲールマンを縛って離さない。
笑い声がゆっくりと止み、ゲールマンを見る瞳が変わらず世界であるにも関わらずぐにゃんとまた歪んだのだ。憎しみに似た何かは世界だと言うのか。
「あんな、あんな、彼女を作り上げたくせに!彼女を放って置いて、貴様、貴様が!ゲールマン、貴様が彼女を置いていくだなんて!!ああ、なんてことを!マリアで得られないからといって彼女を得たのに、蔑ろにするのか?!あの、あの深き夢で彼女は1人だと、そう、1人で狩人を待ち望んでいるというのに!私は行けないというのに!!」
「??」
「はははは!!わからないだろうよ!」
いつの間にか女の姿は緩やかに見えなくなっていた。それと同時にゲールマンの記憶から今の女がザリザリと削がれ落ちて無くなってゆく。確かに笑い声は今も聞こえるのに誰のものなのか、これがどんな意味を含むのかがわからない。瞳に潜んでいた世界が消えてゆく。
立ち竦んでいたゲールマンの後ろから今しがた来たばかりのマリアが肩に手を置いた。弾かれたように反応したゲールマンの瞳にうつるマリアのなんと美しいことか。
「ゲールマン?」
「、マリア」
「はは、なんだ、ぼけっとして。変なものでも食べたかい?」
「馬鹿言うな」
どうして、なぜ、問うてはいけない気がしてゲールマンは真実を話せないままマリアに苦笑いを向けた。
手にしていた武器が元の腰の位置に戻り、その手に女物の髪飾りが握られていたのだがそれを証明するあの女はどこにもいない。
*ゲールマンがマリアに髪飾りを渡す→マリア死亡時髪飾り紛失→狩人が髪飾りを見つけ人形へ→狩人が上位者の支配者になり狩人の夢に行けなくなり人形が動かなくなる、髪飾りを人形の形見に受け取る→時間を彷徨いゲールマンに髪飾りを与える→はじめに戻る。
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