味がしない。嫌気がさして半分も減らないスープとパサつくパンを置く。味がしない。舌にのるのは生暖かい水と、砂埃のようで綿のような柔らかさももつ無味なものたち。味がしない。美味しくない。
「おい、お嬢さん。また食べないのかい?」
「…ええ、食べる気がしなくて」
皿を置いたために、ワイルドバンチを名乗る片方のキッドさんが此方を見る。髭が生えているせいか大人びて見えるその彼にせっかく作ったのに申し訳ないと苦く笑えば、もう一口くらい食べなと皿を押し返される。全てが味がしないのだとは、言えなかった。
味がしなくなったのは此方に来てから、気がついたらなにを食べても舌が反応しない。甘くも苦くも美味くもない。こちらに落とされた一時的なショックで味覚障害かと思っていたが、治る気配すら感じない。嫌な予感だけが頭をめぐり、身体を怖らばらせてゆく。
「食べなきゃ体力つかないぜ?」
キッドさんの後ろからブッチさんが声を上げる。その声を聞いて、私を見ていなかったはずのスキピオさんとハンニバルさんまでもが此方を気にして二、三声をかけつてくれた。小さく頭を下げておく。
「…やっぱり気がおいついてねぇんじゃねえの?」
「平和な時代からとんできたんだもんな、あんた」
「はい。戦争は他国ではしていたかもしれませんが、私の国は平和でしたし…」
「急な環境の変化に体も心もおいついてないんだ」
食欲も減るし、寝れなくなるだろうよ。と付けたされた言葉に目を丸くする。寝れてないのもばれていたのか。動かないように目を閉じていたのに、やはり時代が違うのだ。
じゃあスープだけでもと皿を手の内におさめる。あたたかなスープは湯気が出るほど熱々なはずなのに、やはり生暖かいような熱しか私には伝わってこない。熱を求めるように皿に添えた手の力を強める。ああ、どうしてこうなってしまうんだ。味がしない。熱が感じにくい。なんて、そんなことが。
なにを勘違いしたのか、否、間違ってはいない解釈から、寒いなら焚き火に近づきなとブッチさんがにひひと笑って気遣ってくれる。いい人、いい人ばかりで自分がひどく醜く見えてくる。なんで、どうしてなにも感じなくなっていくのだろうか。確かに私は、知らぬ事務員のようなメガネ男に出会ってこちらに来たというのに?なにも感じないなど、それは、廃棄物ではないのか?漂流物であると安倍晴明さんに言われたはずなのに、彼のもとを通ったならば漂流物だと言われたのに。
「バカみたいだなぁ」
考えれば考えるほど沼にはまるように深くなるそれから逃げるように生暖かい味のしないスープを飲み干した。ああ、明日になったら廃棄物になっちゃったりして
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