うつくしい世界だ。
暗くて青黒くて、光が届かない海底のようだ。
遺跡のようで、アンティークのようで、プラネタリウムのようで、廃屋のようで…。
ゆっくりと光が少ない空間に目がなれてゆく。この美しい、というよりか、鬱くしい世界とやらだろう。ホンモノの鬱とやらは見たことは無いからよくわからないが、そういうものじゃないだろうか?
最近、頻繁にこの景色を見る。夢だと分かりながらそこにいる俺は光の消された、なにも時間さえも動いていない世界に浸る。目覚めるのは時間の問題だが、目覚めるまではここにずっといる俺が問題じゃないだろうか?気にしたら負けか。…誰に?
二つある椅子に、挟まれるように置かれたテーブルに、動かない時計に、動かないエレベーター。
ここに光がついたら、ここに必要な何かがあれば、この時計もエレベーターも、このうつくしやかな世界も動き出すのだろうか。ここにいたかもしれない人も戻ってくるのだろうか。美しい鬱くしい世界ではなく、俺の知らない鮮やかな世界にでもなるのだろうか。
いつも、いつもこの夢を見るたびに俺は深く深く考え、目覚めを待つ。
「おはよう、AAA」
「…天田、なんで居んの?」
「もう放課後だからだよ。呼びに来た」
「嗚呼、悪い。」
身体を机から起こせば、辺りは暗く星が出る間近まで夜に近づいている。おそらく天田は一度寮まで確認してくれて、なんとなく察して教室まで迎えに来てくれたのだろう。最近、というよりか同じクラスになってから過保護な天田に頼ってばかりだ。教室のこの部屋のこの席での寝癖は酷くなっていく一方。
「今日も相変わらず気持ちよさそうに寝てたね」
「寮で寝るよりよく寝れる気がするんだ」
「ふぅん?」
天田に急かされながら立ち上がり、荷物を適当につめて鞄を持った。
「なぁ、天田、エレベーターを動かすにはどうしたらいいと思う?時計も電気も、全部」
「は?なに、ナゾナゾ?」
「いや、普通に」
普通ってなんだよ、と天田は困った顔をしたが少しばかり考えてくれたようで、呆れながら口を開いた。天田から紡がれる声は寝起きには丁度良い心地で、また微睡みそうになる。
「エレベーターは専門の人に任せる。時計は電池でも変えなよ、電気も付け替えるとかさ…。こんな答えでいいわけ?」
「うん、そうだよな、ありがと」
「役に立ったならいいけど、ほら、早く帰ろう。」
「ん」
専門の人、ねぇ?天田ならあのうつくい世界がわかるのだろうか。たぶん、おそらく、天田もそちらの専門ではないだろうか?
エレベーターは任せるとして、時計も電気ももしかしたら俺だけの力でうごかせることができるのではないか?単純な行為で、もしかしたら認めきれていない俺だけのなにかで進めるのではないか。
「おぅい、まだ寝ぼけてるのか?いくよ」
「ああ、悪い。今行く。」
一歩踏み出したとき、囁くような叫び声のような音が聞こえて可能性が向こうから近づいてきたのを感じた。
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