「スミレちゃん」
座り込んでうつむいていたスミレちゃんは、ぱっと顔を上げる。幼さを残した表情をしたまま無理してにこりと笑ってみせる彼女に見えるように手元を少しあげる、手に持ったカゴは彼女にも見えたようできらりと瞳が輝く。中はサンドイッチとジュースを入れてきたのだ。スミレちゃんの手を借りながらゆっくり座りサンドイッチを手渡す。
「お腹へったろ?」
「…うん」
「ほら、食べな。今日はおじさんも休みなって言ってたし…ゆっくりしときな」
頭を二回ほど撫でるとくすぐったかったのか身をよじり、小さな口でサンドイッチを食べる彼女の目がゆらぐのが見えた。あたたかい昼間の日差しと海の冷たい潮風にゆられている。彼女はいつまでも待ち続けていた、長い間、海底で眠っている彼が目覚め自分を愛おしく抱きしめてくれることを願い過ごしていたのだ。
「もう、私、明日で17よ?」
「うん」
「やっと会えるって思ったら…なんだか、怖くて…」
ぶるっと身震いした彼女は、すぐに自分の体を抱いた。俺にはその男がどんな容姿でどんな奴なのかを全く知らない。わかっているのは彼がスミレちゃんを救いスミレちゃんが彼を救っていたのだと察するぐらいだ、もちろんスミレちゃんからある程度彼の話は聞いているが、実際は会っていないから俺にとって彼の姿はふわっとしている。
「AAAは、私が育朗とどこかに行っちゃったら寂しい?」
「…うん、寂しいよ。でも、スミレちゃんが大好きな彼と一緒にいるなら俺は嬉しいよ」
「…ほんと?」
「本当さ。俺は嘘はつかない」
おじさんの家で世話になってるスミレちゃんは俺がおじさんの遠い親戚で少々足が悪いのを知っている、自分が居なくなればおじさん達にも寂しい思いをさせて迷惑をかけてしまう、そう思っているのだろう。スミレちゃんには話してないが彼が目覚めたあとは彼女の好きにさしてあげようと話はついている、無論俺だって足は悪いが動けないわけじゃないので大丈夫なのだ。
「大丈夫、彼はスミレちゃんをやさしく抱きしめてくれるよ」
恥ずかしそうに顔を赤くした彼女に笑ってしまったら、俺のサンドイッチは颯爽と奪われてしまった。


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