「元気だったか?」
久しく鳴っていなかった電話が鳴り久しく聞いていなかった声が私の耳に響いた、この声にはドラッグでも含まれているかのような依存的な感情がぐるぐると心中に渦巻きその中央に甘い甘い砂糖菓子がおかれているような気にもなる、これは私だけでなく結城に関わりすぎた者達によく訪れる感情だ。
私はぐっと息を詰まらせ、すぐにはいた。鳥肌に、気だってしまった心内はなおりそうにはなかったが、それでもためていけるほど私は身を保てないでいた。
「なにか、ご用ですか?」
つまらないようにと気を使った返答もうまくいかず、苦い顔になってしまう。
「いや、最近連絡も対面もしていなかったからな、寂しがっていないかと思って」
「随分といい思考回路をお持ちで」
「そうか」
本当はドラッグが足りなくなる患者のようなかわきがスッとなくなった気がした、だけだ。だけだなんて、言えたものではない。
声から結城が高価な椅子に座り手にはペンを持ったまま杖を置き、書類をチラチラ見ている姿を描きほくそ笑んだ、いつだってそれが私にとっての結城なのだ。もしかしたら違うかもしれないが結城の幻想はいつの時代、今の戦時中も変えることができそうになかった。
「随分と声がかすれているな、風邪をひいたか?」
「いえ、そんなことはありません」
「ふむ、まぁ体は壊さないようにするんだな。今壊されたらたまったもんじゃない」
「…」
ああ、また、私をも巻き込んで何かするつもりなのか。苦しくなければ協力は惜しまないが、痛いと気が滅入って仕方ない。
「ご用は…?」
「一度上からの呼び出しで帰ることになかった、期間は2日あればいい方だ。会えそうなら会いに行く」
「…はい」
「行くときは連絡をいれる」
声が途切れた、電話が切れ静かになった部屋に私の悲鳴に似た笑いが零れ落ちる。
あのなんでもかんでもを自分の思うままにひっかき回す男が帰ってくるとなると政府も大層な悲鳴をあげそうだと、笑ってしまう。しかし今の日本状勢で上から呼ばれたとなるとよほど面倒くさい時に帰ってくることになる。受話器を置いてもう一度だけ小さく笑った。
ゴンゴンと強めの音を立てて戸が叩かれ、AAA隊長失礼しますと高らかに宣言した若い芋のような兵士が部屋に入ってくる。
「やあ、どうした。」
軍にスパイとして入り込んでいる身として、結城さんの行動は頭が痛い。
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