「アレックス、最近どうだ」
「軍に戻りたいんだ」
また的外れなことをブツブツ話し出した彼の頭をぱこんとたたく、はっとしたように顔を上げて目を輝かせた。
「上官、」
「俺は上官じゃない」
「…俺が軍辞めたからって冷たいですね」
「……アレックス…」
俺は精神を病んでしまったアレックスのために駆り出された専属医なのだが、アレックスは俺のことを軍の上官だと思い込んでいる。困ったものだ、近くにいるもう一人の精神担当医にむかってダメだと言えばそいつもため息をついた、アレックスのこの状態は無理矢理なおすよりも継続させる方が簡単で最悪で精神的にもいい判断なのだが、医者としてそれは受け入れにくいものがある。
「アレックス、」
「なんです上か……AAAさん」
「OK、アレックス、そう、そう呼ぶんだ。いいな」
「…しかし」
「アレックス、わかれ。俺は上官じゃない」
「それは…そう、ですけど…」
お前の思っている「上官じゃない」と俺が思っている「上官じゃない」は違う意味が含まれているのだろう、これは話が噛み合う以前の問題だ、それも酷く難しい問題。カルテに問題ありと赤い字で書いてからはぁと息をはく、これでは一向に改善の余地は見いだせなさそうだ。アレックスもアレックスで俺みたいな筋肉の薄い男をどうやって軍の上官と思い込んだのだろうか、俺は彼の頭の中で軍を辞めたことになっているのだろうか、軍にすら所属していないが。もう一人の医者が耳に口をよせてくる。
「アレックスとあうのは控えた方が…」
「ああ、そうしよう。これではダメだ…改善の余地が無い…。一週間だけ間を開けさしてもらう」
「名医と名高いAAAさんでさえ無理な話だったんですよ」
「…」
わかりやすい嫌みだ、なら貴様に変わってやるという言葉を飲み込み苦笑いをこぼす、椅子から立ち上がりアレックスと視線を絡めように彼の顔をみる、口がゆっくり動き出した。
「また、召集ですか?」
「……用事だ、一週間後にまたくる」
「はいっ」
こんなに患者に気に入られるとは思っていなかったため頬をかきながら逃げるように部屋を去る、ガラス窓ごしに泣きそうな顔をする彼に軽く笑った。
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