捏造妄想幻覚過多



規則的な電子音が頭を揺らす。耳のなかに鐘の音みたいに反響してるのがうざったくてぐっと目を閉じる。
白い部屋の中で眠る青白い顔した友人が目を覚さなくて早くも1ヶ月がたった。
友人の両親は泣きながらオレに電話をくれて、駆けつけたときには粗方手術は終わっていた。でも、数週間ICUから出られない状態だった。
呆然とした、なんでだ、とも思った。
オレとナカヨクしてる時点でその辺の不良たちに手出しされる恐れはあるが、そういう奴らは大体返り討ちにできる腕っ節を持ち、逃げ足も早い奴だ。どうして、が頭にぐるぐる回って視界がぱちぱち弾けてみせやがるのが気に食わない。
友人の両親から聞いた話では、バイク屋の強盗にかち合ってしまい後頭部をぶん殴られて出血多量で一時心肺停止、だそうだ。バイクなんて興味ないこいつが?となった。両親もそう思っていたらしく何か別の理由があるのではと心配そうに顔を歪めていた。
何度も何度も見舞いに行って、目覚めない友人を見て、両親となにげない話をして、帰る。
繰り返して、繰り返して、なににもならない。
途中で加害者が見舞いにきたらしいが両親がおいかえしてしまったらしい。一発殴ってやればよかったじゃないか。
友人の両親がどんどん痩せていくのが苦しくて見てられなくて、隣に並んで座るだけで話すこともしなくなっていた。たまに嘆くように友人の名を呼ぶ声が病室に落ちてくるだけ。
どうして、だけが頭に巡って、殺してやろうかと思った。このまま眠り続けるぐらいならオレがしっかり殺して…やっちまえばいいじゃないか、とぴくりともしない指を見て思う。笑った顔の記憶が時間をかけて削り取られていく。
どんどん痩せてどんどん暗くなる友人の両親。医者も看護師もかける言葉を失って気遣わしげにこちらをみるばかり。イライラして、手当たり次第に絡んできた奴らを殴り飛ばして気がつけば自分も傷だらけになっていた。この病室だけずっと白いのに、暗くて重い。
正解が、わからない。ないのかもしれない。
花を見舞いで持っていって気分をかえても結局友人は目を覚さない、意味がない気がして数回でやめてしまった。
目を覚ましたときに喜ぶんじゃねぇか、と思ったオレにとってはガラクタの品々は途中で虚しくなって全部一旦引き取った。ゴミ袋に詰め込んで、結局捨てられないままオレん家のベッドの脇に置いてある。
知らないクラスメイトからの寄せ書きや千羽鶴は無茶苦茶にして捨てた、こんなこの中の誰一人として見舞いにこない奴らの思いなんていらないだろうから捨てた。これには友人の両親も苦い顔をしていたが、届けに来た教師以外この部屋に入っていないことを思い出したのかなんなのか…なにも言わなかった。
今日もまたなにもなく帰るのだろうと、かさつく唇を噛む。血が滲んで鉄臭い。
立ち上がって、ふと、指が動いたのを見た。嘘だと思った。いつも見る幻で、何回指が動いたと錯覚しては友人の手を何回握ったと思っている。そのたびに動きもしない体に何回愕然としたと思っている。
それでも確かめずにはいられなくて手を握りしめ、ぐっと近づく。消毒の匂いと病人の独特の匂いが鼻を刺してくる。眠る前の友人の匂いはもう忘れかけていた。
………まつ毛が震えている。
まさか、そんな、嘘だろう。
やっとなのか?
咄嗟にそこで頭を下げてうなだれていた友人の母親を大声で呼び、2人で取り囲む。白いシーツが友人の体を寝たきりにしておさえつけているバケモノに見えて、そんなわけないとあたまをふる。
悲痛に友人の母親が名を呼んでは涙を目からあふれさせていた。
やっと、だ。話したいことも、聞きたいこともたくさんある。馬鹿みたいに笑って馬鹿みたいにはしゃいで、隣にいてくれないとおちつかなくて、はやく、はやくいつもみたいに声をかけてほしかった。
ゆっくり、何分かかったのかわからないが、体感では1時間ぐらいに思えるほどにゆっくりと、唇が動いて「は、」と小さな声が病室に落とされた。これだけでオレは歓喜の声を上げ、友人の母親は咽び泣いてナースコールを押した。
友人の瞳を見たのは2ヶ月とすこしぶりだ。オレとは違うキラキラした大きな瞳が瞼からあらわれて、ゆる、ゆる、とゆっくり焦点がこちらに合わされ、たしかにぱちんと目が合った。







「だ、れ…?」






ころしとけばよかった、そうおもった。

















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「わははははっ死んだかと思ったよ!」
「一回死んでんだよ、アホ!!!」
「え?!マジ?!?」
「クソアホ!!!!!!!!!!」

ぼすん、と病院のベッドを力強く叩く顔がととのいすぎてキマっている友人ことサンズくんがはーっと息を吐いて勢いよく椅子に座る。
怒ったような呆れて言葉もでませんみたいな顔を混ぜた表情に「わはははっ」と笑って頬をつっつく。鬱陶しそうに手を払われてしまった。残念。
私、頭を殴られて2ヶ月半ぐらい寝たきりだったらしい。
まじで〜?ってなった。だって、そんなかんじがまーったくない。寝不足がなくなった感じがする程度で、お目目がパッチリ頭はスッキリしている。体はちょっと動かしにくいが寝たきりになっていたため筋肉がおちてるだけらしいので、問題ないことも教えてもらったらなんか気にならなくなったし。なんたら効果ってやつだよね。知らないけど。

「だって仕方なくな〜い?」
「は?」

こっっわいよ〜???あ、いや、サンズくんのお顔めちゃくちゃ好みなんだけど、ガンつけてるときめちゃくちゃ怖い。アイドル顔負け系の顔にこれされるとピャッと跳ね回る勢いで逃げ出す。
今はベッドから動けないから逃げ出せないけど、体はぐいっと後ろにのけぞらさせていただいた。

「いやぁ?なんか?今あそこの店に入らなきゃいけない!って急に思って入ったら、頭、がーんよ。がーん。血だらけだったね?」

その日は、明日の苦手な理科のテスト勉強をと頭をはたらかせていたら、なんだか急にお腹が空いた。冷蔵庫には明日の朝ごはんぐらいしかなくてなんとなく両親を起こすのはなぁ、と思ってコンビニに走ってみた。夜にコンビニなんて初めてのこころみだ。
夜だし暗いし人気はないしで怖かったが、空腹すぎて頭の中はおにぎりとかパンだらけだった。なんなら甘いものも食べたかったからアイスも浮かんで消えていた。ちょっと冒険みたいでワクワクもしていた、と思う。
目的のコンビニに入ろうとして、ふと、振り返った。よくみるバイク屋、家の近くのバイク屋、用事なんてひとつもないし、あったこともないバイク屋。なのにその日はなんだか気になってぴょこぴょこ近づいて、窓が割れているのに気がついた。
入れちゃうな、と思ったら足は動いていた。
あぁ、なんだか危なそう、と頭では思っているのに体はどんどん中に進んでいく。なんだろう、どうしてだろう、嫌だな、恐々暗い中を歩くのはおばけ屋敷みたいでどこかふわふわして、誰かの声と、私が「あ、」と思ったときには、体に熱さと痛みが走った。
ぬるっとしたなにかと、誰かのうるさい声と、電気なんてついてないはずなのに目の前がチカチカした。花火を目の前でみたらこうなるんだろうか?
最後にチカッと大きく光って、真っ暗になって………次に目を開けたら2ヶ月半経っていた。
そんなことあるんですね。ドラマみたい。

「クソアホ、まじでアホ!バイク興味ないくせにアホ!夜中にひとりで出歩いてんなアホ!はよ寝ろアホ!お前、一回心臓止まったんだぞ?!わかってんのか?!」
「まじですか?!?心の臓が停止を…?!心肺停止ってやつ?!えっ死じゃん?」
「だからァ死んでんだよ!医者がなんとかしてくれたんだワ!アホ!」
「ご、ごめんって〜マジそんな、は〜?私、ゾンビとかじゃない?」
「クソアホ!」

ダンッと床を踏み鳴らしたサンズくんは顔を歪めながら「で?!」と大きな声を出す。

「記憶はしっかりしてるか!」

そうなんだよ。ついでにいうと、目覚めて数日間記憶を無くすというとんでもよくばりセットになってしまったわけです。びっくりびっくり、何も知らない赤ちゃんみたいな私がいたってワケ!
やっぱりドラマじゃない?月9とかで超大恋愛ヒロインみたいじゃない?
言ったら怒られるから言わないけども。ヒロインに私もなれそうじゃない?

「うん!あれさ、なんか記憶混同?して混乱?してたらしくて一時的なもんだったんだってさ〜。親もわかんなくなってたからあのままだったらヤバかったよ、今は大丈夫!」
「はーっそうか」
「うん、そうなんだわ」
「なんだよにやにやしやがって」
「だって、思い出したってきいてとんできてくれたんでしょ」

お母さんがサンズくんに私の記憶が戻ったことを電話してくれてたら、すっ飛んできてくれた。記憶を無くして2週間ぶりのサンズくんは息を切らせながら病室に飛び込んでくれた。
嬉しくて、来てくれてからずっとサンズくんの手を離せないでいる。さっきはたきおとされたけど、もう一度手を伸ばせばゆっくり握ってくれた。あったかくておちつく手は傷だらけ、たぶんまた喧嘩したんだろう。でも、嫌いじゃない手だ。
髪もサラサラしてて、目もくりくりの大きくて、強くてかっこよくて、私より頭が良くて、一緒にいて楽しくて、ドキドキする人。はじめましてのときから怖いのに優しい人。

「あのね、サンズくん、好きです。」

目が覚めて、なんでかわからないけど言わなきゃと思ったの。と笑うと、サンズくんは呆れた風に笑ってくれた。
たぶん死にかけたから思いを言葉にしなくちゃって思ったんじゃ、ないかなぁ?両親にもいつもありがとうぐらい言えたらいいな。


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