バカラ、と亜光の馬が足を鳴らしながら近づいたAAAはゆっくりと横に目線を向け並んだ馬をみて上へと視界を上げ、亜光をとらえる。
甲冑と鎧を着て亜光将軍の顔をした彼に、AAAは砂埃を遮るために布で覆われ隠れている口元に笑みを浮かべてみせた。
「亜光」
「久しいな、お前が後方にいるなんて」
亜光はにまりと笑い、馬上から見おろされていようと不満などを持たず特に変わりないAAAを揶揄ってみせた。口元が見えずとも長い付き合いからAAAが可笑そうに笑っていることなど見通している。
前線、とにかく前線、最前線、たまに後方支援に戻ったかと思って顔を出せばそこはもぬけの殻になっており、また前線へと帰っていく。そういう男だ、AAAという奴は。そのため大きな戦がひと段落しても小さな火種を目ざとく見つけてはまた前線に飛び出していくので、出会えるわけでもない。
だからこそ、亜光は自分と久しぶりに顔をあわせているAAAが前線ではなく、後方、それもこんな前線から遠く離れた補給場にいることに驚きが隠せなかった。
その驚きを揶揄いに転換させてしまうのは、これまた長い付き合い故の甘えが含まれている気がしないでもない。それに見ないふりをしている亜光は弾みそうになる声をおちつかせながら、口を開いた。
「今回はお呼びがかからなかったか?」
「まさか、俺は引っぱりだこだからそんなことにはならない」
揶揄い混じりの亜光の声にケッと吐き捨てるように返したAAAは、擦り寄ってきた亜光の馬をゆっくり撫でる。
生暖かく生きた温度を保つ生き物は今ここに我々が生きていることを思い出させてくれているようで、AAAは好きだ。歩兵として意地汚く生きていることをまるで「生き様」のようにしているため騎馬隊には入らないし、戦場で騎馬にすら目も向けない男が生きていることを実感するのが誰かの馬であるのが、とても亜光には理解できず、しかし尊重はしていた。
奴なりの生き方だ。亜光が亜光将軍として王翦の元にいる生き方となんら変わりがない。王翦の元に行く前は尊重すらできていなかったので、これでも随分マシになったのだ。
AAAをよく知らずにいる周りからは色々と言われているらしいが、それを気にする男でもない。
ただ意地汚く生き延びて前線に駆け、また命を燃やしてひた走る。それだけの男だ。
戦場に必要とされ、平時には嫌悪される。ただ、それだけの生きづらい男。
亜光の視線に優しさが混ざったことを感じ取ったAAAは、むずがゆそうに首を振り、馬から亜光へと視線をずらした。眉間に寄った皺と鋭い瞳は照れ隠しだと知っていたので、なんら怖くも痒くもない。
「なんだよ」
「いや?」
「くそっ王翦将軍の元にいってからその目をよくするようになって!はー気持ち悪い」
「お前は相変わらず変わらないな」
「そうやって言えるようになってる亜光「将軍」は変わったんだろう」
将軍の地位を貰い受ける前からの長い付き合いは細い糸ながら続いている。あんなに小さかった童がこうも伸び伸び育つなど、誰も思わなかっただろう。
変わった変わらないは再会するたびにする戯れのひとつだが、周りはそうではないので緊張がはしっているようだ。くすり、とAAAが悪戯に笑う。
「で?」
「嗚呼、お前が随分深手を追ったらしいじゃないか?それを見にきた」
「……」
「元気そうで、なにより」
「………お前が増えてくれたらいいと言ったのは、誰だったか」
照れ隠しくん発言はあまりにも強引で、今度はAAAがにまりと笑う。
「さぁな、文官の奴らは俺を見た後口々にそう言うんだ。だれか根源がいやがるだろうよ」
本当に困っているから文官の奴らには会いたくないと顔を歪めているAAAに亜光は声を上げて笑った。前線にいる男はもっと平時に帰りたくなくなっているらしかった。
根源は疲れきった昌平君含む文官たちです。そう安安とは消えない噂話。
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