「はい、手を紙に合わせて」
「はぁい」
型紙になるであろうそれにぺたりと手を添えると、江渡貝さんがすーっとペンを走らせて私の手形が書かれてゆく。どこから見てもイケメンである江渡貝さんは真剣な目をしたまま此方を見て、にこりと笑う。
「ありがとうございます。もう終わりましたよ、これで花女ちゃん専用の手袋つくりますからね」
「はい、こちらこそ、よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げて紙から手をはなし、線でざっくりかかれた私の手形。別紙に書き込まれた細やかな指の長さや幅の数字。それらはこれから私専用の手袋になる。
買い物にいく時に随分寒いのに手袋が無い私に江渡貝さんが気づいたのが手袋を作ってもらうきっかけだ。鶴見さんは惜しみなくモノを与えてくれるが気づかいができる人ではないし、私も全てにおいてに無頓着、月島さんや二階堂さんらはどうかは知らないがあまり私の身につけるものに対して口にすることは憚られる立場だ。だって私の身につけるものは彼らの上官の与えたものだから。江渡貝さんは爽やかな笑みのまま、もちろん私の身につけるものが鶴見さん性とは知らないだろうから、寒いだろうし作ってあげよう。と言ってくれたのだ。
「おかしなものは作りませんよね」
「もちろんですよ、月島さん!」
訝しげにこちらを見ていた月島さんの一言に江渡貝さんがギャア!と声を上げる。おかしなもの、と濁したものは人皮だろう。人皮のことを詳しく知らないために上手く表情がつくれないまま二人のやりとりをぼんやりと見る。
「女の子なんだしかわいくてふわふわしたのがいいですよね」
一般的なかわいらしいフワフワしたキラキラした手袋が想像されたが、私は素直にはいとは返事できずに少しだけ笑ってみせる。彼がどう解釈したのかはわからないが、任せて下さい!と声をあげたのでよい方にとってくださったのだろう。
さっそくとりかかるぞ!と奥に引っ込んでいった江渡貝さんを確認してから月島さんに預かっていただいてた上着を着なおし、マフラーもすぐにしてしまう。前山さんにも挨拶をと思っていたが、もう帰ろう。
「お帰りになられるんですか?」
「はい、今日よったのはお土産を任されただけなので」
鶴見さんから持たされた江渡貝さんに渡す菓子はおいしい餡子の菓子だった。月島さんも食べてくださいね、と付け足しておく。
「そうですか。お気をつけて」
「はい。月島さんも頑張ってくださいね」
なにが、とは言わず江渡貝さんのいるであろう奥をちらりと見てすぐに玄関口に逃げるように行く。月島さんは返事はせずにこちらをじっと見るだけだ。たくさんの剥製たちも彼と同じようにこちらを見ている気がしないでもない。だから剥製は苦手だ。
「お待たせしました」
戸口にいる私の護衛として鶴見さんにつけられた名も知らぬ軍人さんに声をかけると、にこりと笑ってくれた。これこそ、私が鶴見さんの血縁として特別扱いしてくれる奴の笑顔だった。月島さんのなにかを暴こうとする視線は嫌悪感があるから、こっちのほうがマシだ。

戻る
TOP