君という海に抱かれて

その日は酷く疲れていた。
朝、出発直後に敵のスタンド使いとの交戦。
なかなかに苦戦を強いられ、気付けば昼食を食べ損ねて…。
仕方が無いからそのまま次の街へ行くことになったのだ。
そこでどうにかホテルの部屋を確保出来て、やっと一休み。

僕は自然とななしの部屋に足を運んでいて、彼女に縋るように抱きついていた。

「花京院?」

腕の中から、心配そうな声が僕を呼んだ。

「大丈夫?まだどこか痛むの?すぐに、ちゃんと治すわ」
「いや……どこも痛くないよ。僕らの傷は全部、君が癒してくれたじゃないか。どこも痛くなんかない」

何故だか、絞り出すような声しかでなかった。
我ながら情けない。
ななしを余計に心配させてしまっただろうか。

「でも…」
「いいんだ。少しだけ、もう少しだけこのまま抱きしめさせてくれないか」

そう言うと、彼女はもう何も言わなかった。
何も言わず、そっと僕の背中に腕を回してくれた。

ああ、ななしがこんなに近い。
彼女の優しい香りがする。

疲れも、隠している恐怖も、すべて癒してくれそうな。

「はぁ…こうしてると、落ち着くよ」

僕は目の前にあったななしの艶やかで、誘うような香りのするその髪に顔を埋めた。

ああいっそ僕のこの瞳を、君の色で染めてくれないか。


君という海に抱かれて