メリークリスマス、僕

クリスマスはあまり好きじゃない。

虹色に輝き出す街、大切な人と過ごすその日を想って浮き足立つ人々、ここぞとばかりにサンタに何か願う子供たち。

これらが嫌いなわけじゃない。

それぞれ楽しもうとするのは良いことだ。

僕もそうでありたいと思っていたこともあった。

僕は自身で築いた「みんなとは違う」という壁に圧されていた。
熱をあげる街に対して、妙に冷めた僕の心。
もしかしたらあの頃も、本当はもっと純粋に楽しみたかったのかもしれない。

そんなこんなで、僕にはまともにクリスマスを祝った記憶が無い。
でも、ある日彼女が言ったんだ。

「きちんとクリスマスを祝ったのは本当に幼い頃のことで、もう殆ど覚えていないの。素敵なクリスマスって、例えばどんなふうなのかしら」

イタリアの田舎にある小さな赤い屋根の家。
可愛らしい佇まいの彼女の実家で、窓の外に広がる冬の景色を見つめながら、ぽつりと呟いた。

部屋の中は暖かくしているけれど、それでも窓際に立つと外の冷えた空気がじんわりと伝わってくる。
彼女が呟いた言葉は、白い息に変わって部屋の中に溶けていった。

それを聞いてから僕と彼女はまずは形から…と部屋の中にツリーを置き、天井には赤と緑、それに金に輝くテープをわたして飾り付けた。

「これはこの位置につければいいの?」
「ツリーのてっぺんは、星と天使どちらにする?」

質問の耐えない彼女は、始終笑顔だった。
彼女は興味を持ったことに対してしつこいくらいに何でも聞くけれど、それは今がとても楽しいということ。
僕は盛大に口元が緩んでいたことだろう。

そして、ドアにはリースを飾り、玄関脇のポールを赤い実のついた柊で囲った。

こんなにきちんとクリスマスの準備をしたことなんて無かった。
楽しめないものだと思っていたのに。


「そういえば、君はサンタに何を頼むんだい」

飾り付けが終わって、キッチンでココアを飲みながら一息ついていた。
熱いココアを必死に覚まそうと息を吹きかける彼女に、ふと思ったことを聞いてみた。

「…………サンタ?」


ああ、そうか。思った通り。
彼女はサンタの存在も知らないようだ。

世界には、日々良く過ごしている人をきちんと見てくれている存在がいることを説明すると、彼女の瞳はいっそう輝いた。

「それなら、私もお願いしたいことがあるわ!」

僕は、ココアを一口飲んだ。
彼女は、熱さを恐れてまだ口をつけていない。

「はじめてきちんとお祝いするクリスマスだもの、貴方と笑顔で過ごしたいの」

その瞳が、いつになくきらきらと煌めいている。

僕はココアをテーブルにおいて、期待に満ちた表情を浮かべる彼女へと手を伸ばした。


メリークリスマス、僕。