望まぬ結婚

自分なら絶対に選ばないような、格式張ったウェディングドレス。
普段は厳かな空気で街を見下ろす荘厳なこの場所に、クラシックを貫き通したつまらない装飾が施されている。

全てが自分の趣味ではなかった。

本当ならば見知った者達に祝福されるべきバージンロード。
神聖なその場所には、上辺だけの祝言と形だけの拍手が縫い付けられている。
それにも増して突き刺さるのは好奇の視線。

「廃れた貴族崩れがよくこんな場所を貸し切ってまで」
「そのくせ花婿は幼すぎる」
「相手の素性を誰か調べたか?」

何を思っているのかは手に取るように分かる。
参列者の心の声が、その蓋のできない耳から溢れ出ているようだった。

貴族という血筋に縋り付きたい両親がみせた虚栄心。
その塊が今日の挙式なのだ。

自身の親しいものなど一切いない中で、言いたくもない「I do」を言う。
目の前の男…幼すぎる花婿も、その心地よい声で同じように誓うのが無性に癪に触った。

普段なら神父様の言葉を聞く時には、それを曲げることなく受け入れるために心を空にする。
しかし今日に限ってはそうは出来なかった。



「こんなつまらない式なんて!私のそれじゃないわ!」

全てを終え、親からも開放された。

花婿であったジョルノと二人だけになった時、私の怒りは爆発した。

トスする気にもなれなかったブーケを石の床に叩きつける。
血液が飛び散るかのようにパッと広がった花びらを見て、少しだけ申し訳ないと思う。だが、その色があまりにも自分の好みではなさすぎて、また怒りがこみ上げてきた。

「ななし…貴女の両親に認められたいという僕の我儘のせいで、貴女を犠牲にしてしまった」

すっかり眉尻が下がった表情をして、できるだけ優しく私の頭を撫でようとする。
その顔を見ると、どうにもやり切れない気持ちになり、誤魔化すために彼の背中に腕を回し、その胸に身を預けた。

「分かってるわ。貴方のせいじゃないの。これは、あの親への最後の反抗なのよ。私の勝手だわ」

驚くくらいに声が震えた。
自分で理解している以上に、心は怒りに満ちていたのだろう。

「……ななし」
「なに、ジョルノ」

名前を呼ばれても、顔は上げられない。
悔しさで歪んだ表情を自分の夫に見せられるほど図太くはない。

「僕らが作る式は、君の好きな色で飾って、君の好きな曲をかけて、君の好きなドレスを着てください。そして、君は僕の隣でずっと楽しそうにしていてほしい」
「……私の希望ばかりね。貴方の希望はないのかしら?」

少しだけ顔を上げることができた。
ジトっとした責めるような視線を向けて、いつものように茶化すことも出来た。

「僕の希望は…僕の好きな君が最後に『これこそが私達の式だ』と言ってくれるものにすることですから」

そう言って少し口角をあげて笑う顔は、惚れた弱みなのかとても男らしく見えて。
先ほどの親に対する悔しさなど何処へ行ったのか、今度は彼の方が一枚上手だったというのが悔しくてたまらない。
思わず、自分の表情を見られるのが嫌で、彼の胸板に顔を埋めた。

もう、知らない。
どうでもいいから、今日はもう眠ってしまいたい。
そして朝起きたら、その時は次の「私達の結婚式」について話し合おう。

それまでは、もう少しこの胸板にたっぷり化粧を擦り付けてやる。


「ななし?僕の服に化粧を擦り付けるのはやめてくれますか」
「……知らないわよぉ!!」