01.シーイズマイヒーロー

彼女はオレの中で永遠のヒーローだ。

あんな可愛らしい子にヒーローだなんて失礼なのかもしれないけど。

それでも、彼女はいつだってオレを護ってくれる。
ほら今もきっと、すぐそばにいて……

【シーイズマイヒーロー】

「貴方がプロンプト・アージェンタム?」

それは小学三年生の頃。
段々と陽射しが強くなりはじめ、空の色が「もうすぐ夏だぞ」と告げてくるような時期だった。

何ともおかしな季節にやってきた転校生は、教壇に立たされ軽く自己紹介をすると教師の制止も聞かずに歩き出した。
背筋をぴんと伸ばし、胸を張り…美しい姿勢と歩き方で。あまりに堂々としているから、まるで神話かと思うくらいに教室内の空気が割れていくのを感じた。

そしてあろう事か彼女はオレの机のすぐ横で立ち止まり、こちらへ身体を向けたのだ。

(無駄な動きが一切ない…この子、動く時に布擦れの音すらしないって何者なんだろう)

自分の方を見られているにも関わらず、その完璧な動作に呆気に取られたオレはそんな事を思っていたような気がする。

「もう1度言うわ。プロンプト・アージェンタムなの?」

そう言われてハッとした。
もう1度ということは、オレは既にその時話しかけられた後だったのである。彼女の振る舞いに見惚れていて全く気付いていなかった。

「えっ!?あ、ぼ、ボク…が?どうか…したの?」

まさか自分が話しかけられるなんて思っていなかったので、何とも情けない応え方になってしまった。
そんなたどたどしい受け答えに呆れてしまったのか、彼女は深いため息をついた後、一瞬だけ眉間に皺を寄せた。
だが、すぐに元の冷静な顔に戻ってこう言う。

「さっきも名乗ったけれど、私はななし。突然だけど…貴方、私の友達にしてあげるわ」
「……?」


ものすごく高圧的だった。これまでに出会った誰よりも。あれだけ人数のいる教室の中で、オレにそう言ってくれたのは少し嬉しかったけれど。
それでも何を言われているのか理解するまで多少時間がかかったのは事実である。


「聞いてるの?」
「えっ!?あっ?」

大きくて丸い、けれど少しつり上がった瞳がこちらを覗き込む。教壇にいた時の立ち姿は凛としていたけれど、そうやって間近で見ると小学三年生にしては少し幼くて可愛い顔をしていた。

「友達にしてあげるって言ってるのよ!」
「ひいっ!」
「どうなの?友達になるの!?ならないの!!」
「な、なる!友達になるから!!」

半ば脅しのように迫ってくる彼女に対して、ほかの選択肢など無かった。何よりその頃のオレは、面と向かって「ノー」と言えるほど強くなかったから。
オレが友達になることを了承すると、彼女は満足そうににっこりと笑ってこう言った。

「そっか!じゃあ、よろしくねプロンプト。私のことはどうかななちゃんと呼んで」

先程までの、怖いほど冷静な声色はどこへ行ったのやら。彼女は明るい笑顔と明るい声でオレを安心させると共に、機嫌よくその右手を差し出してきた。

「友達になったんですもの。握手しましょ」

首を少し傾けて、女子っぽい可愛らしさを振る舞う。正直先ほど凄まれてその恐怖を知るオレからすれば、その変化すら少し怖く感じた。

「ね」
「あ、あの…」

念を押すように少し前に差し出された、握手を待つ右手。
しかしオレは、手を出すことを躊躇った。
季節は夏になろうとしている。
ふっくらとしたオレの手のひらは、じんわりと汗ばんでいた。対して彼女の…ななちゃんの手は小さくて、指はとても細い。
こんな可愛らしい女の子がせっかく友達になろうと言ってくれているけれど、きっとオレの手を握ったら嫌になってしまうかも。ベタベタで気持ち悪いとか思われてしまうのかも。
そう思うと、なかなか手を差し出せなかった。

「もう!無理にでもしてやるわ!…えいっ!」

机の上で固く握られていたオレの手を無理やり広げると、ななちゃんはその両手で包み込んだ。
触れた感触がくすぐったくて、そしてなんだか暖かい。

「ほら、これでもう友達よ」

ななちゃんは嫌な顔一つせず笑った。


「先生、私プロンプトくんの後ろの空いてる場所がいいです」

先に用意されていた空席など一切無視して、ななちゃんはオレの後ろの席を指定した。
この日から少しの間、オレにとってのななちゃんは少しややこしい友人≠セった。