昔から、わたしのすきなひとはただ一人だった。両親や幽くんももちろんすきだったけれど、それとはちがう感情を彼に抱いていた。両親や友達は理解してくれなかったけれど、それはたしかに異性に向けるような恋情で、わたしは兄に、平和島静雄という男性に恋をしていた。まわりに本気にされることはなく、お兄ちゃんが大好きな妹という認識をされ続けている。それが不満だといえば嘘になるけれど、周りにどう思われているかということは微々たるものだと知っていた。平和島由愛は平和島静雄がすき。その事実がいちばん大切だった。なによりも。
「ゆめはシズちゃんがすき。……でもみんなからそれはお兄ちゃんだからあたりまえなんだよって言われるの。ゆめにはよくわからない。だってシズちゃんがお兄ちゃんじゃなくてもゆめはシズちゃんがすきだし、幽くんはすきだけど……シズちゃんのすきとはなんかちがうんだもん……」
淡々と紡いでいく言葉を、相談役であるイザヤくんが聴いているかはよくわからなかった。相槌を打つわけでも、助言をいうわけでもなくただソファに座ってわたしを見ていた。イザヤくんがシズちゃんと仲が悪いことは知っていたけれど、この手の相談をする相手というのが彼しか思いつかなかった。だれよりも色んな事を知っているイザヤくんならきっと答えを知っていると、漠然とした希望を彼に抱いていた。それにクラスメイトの女子が彼の助言はよく当たる、と言っていたのを聞いたことがあった。どれくらいの信憑性があるのかなど調べる余裕もなかったけどその言葉を信じて。どうしても確実な答えが欲しかったのだ。
「イザヤくんはどう思う?ゆめの気持ちを言葉で表すとなにになると思う?ゆめはこの気持ちに言葉をつけたいだけなの」
「由愛はおかしなことを言うね」
「どういうこと?」
「もうでてるじゃないか。シズちゃんが好きだって。由愛は自分の気持ちに言葉をつけたいと言うけれど、好きってだけじゃ駄目なのかい?日本語には好きと似たような言葉がたくさんあるけれど、それを聞けば満足になるのかな?」
イザヤくんが言ってることは間違ってない。わたしの感情、という定義をだしてしまえば好きでいいはずなのだ。ただ、わたしのなかで燻っている違和感と、みんなが言う「それは違う」さえなければ。
「……好きじゃ、駄目。みんな分かってくれないから。幽くんやイザヤくんに対する感情は好きでいいけど、シズちゃんに対する好きは違う言葉に置き換えたい。みんながわかってくれるように」
「まず根本的なものから違うんだよ。由愛はみんなに分かって欲しいって考えているけれど、そんなもの必要ないんだ。由愛が好きって思ってるならそれだけでいい。周りがなにを言おうがそれは変わらない事実なんだから、それを信じればいい。