「イイイイイイィィィ」
「じゃあな、流仙蟲」
「イ…」



破裂し、キラキラと輝きながら消えていく流仙蟲。桶川姫乃が、その光の群れを一生忘れないと思った同時刻。
少し離れた場所で、1人の女がその場所を目指して走っていた。

「ちょ、待ってってば!」

手に持っている三味線が明らかに邪魔だが、それをどうこうするという発想すら出てこない。
それほど、女は焦っていた。

「せ、折角の大物がー!」

女は、泣きそうな顔で、バタバタと音をたてながら駆け抜けた。
誰も、女に気付いていない。



女が駆け付けた時には、もう光の群れは残りわずかになっていた。

「遅かった……」

女は膝から崩れ、地面に手をついた。何故もっと早く気づかなかったのか。
後悔で頭がいっぱいになる。

「まったく……明神め……でかい獲物は私を呼べって言ったのに!」

後悔を怒りに変換させた女は、涙目になっていた目を擦りその人物がいる場所へ走り出そうとした。

「あ、いけない」

女は、光の群れへくるりと身体を向けた。

「これしかなくても、一応大物だしね」

女が両手をかざすと、光の群れが集まりサッカーボールくらいの玉になった。

「これだけかぁ……」

顔をしかめながら呟いた女は、その光を二つに割り、一つをブレスレットに付いた赤い玉へ近づけた。
瞬間、光は吸い込まれるように赤い玉の中へ消えていった。
それを見届けると、もう一つの玉を口に運びちゅるんを飲み込んだ。
女は目を閉じ、手を合わせ、頭を下げた。

「いらっしゃい、私とともに」

そう言ってすぐ、女は駆け出した。

「アホ明神!うたかた荘で待ってろよー!」