巡BD
春が来て、夏が来て、
四季がめぐり、記憶が思い出となり、いつしか記憶は薄れ、人はそれを過去と呼ぶけれど、なお得てして忘れられないものがある。
それが温かなものであればあるほど、人は幸せだったと微笑うのだ。
「……今日は、天気がいいな」
ALIVEが提携している病院の一室。そこに白百合の少年、斎樹巡はいた。
彼は管がたくさん繋がっている女性に話しかける。たとえ返事が返ってくることはないと分かっていても、これは毎日欠かさず行っている行為だった。いつか答えてくれればいい。そう柄にもなく願いながら、滔々と一人で物言わぬ身体に話しかけ続けていた。
斎樹はおもむろに窓際に近づき、強い陽射しから彼女を隠すようにカーテンの半分を閉めた。こうすることによって彼女の顔面に直射していた日光が妨げられる。「女性にとって紫外線は、シワやシミの原因になるから天敵なのよ」と話していたのは彼女の担当看護師だ。それを当初聞いた斎樹は太陽光はビタミンDの生成を助ける、人間にとって必要不可欠なものだと反論した。だが、「斎樹さんの考えも尤もだけれど、でも彼女が起きたとき自分の顔にシミができてたら悲しむかもよ?」と女性ならではの視点で諭されてしまって、悲しむ顔を想像しては、閉口してしまった。
もう暗い顔はさせたくない。涙に歪んだ顔も、絶対に見たくない。そうした思いから、以来、一応斎樹も気にするようにはしている。だってベッドの上で昏々と眠っている彼女は、今や自分で肌の手入れをすることは疎か、一年前から意識すら戻らないのだから。
ぼうっと傷一つない綺麗な彼女の寝顔を見つめる。本当に息をしているのか、脈は打っているのか。白い頬に手を這わせて斎樹が確認しようとしたとき、ふと病室の扉がノックされる。その音にスッと手を引いて彼女の代わりに返事をすると、現れたのは斎樹の幼馴染みでもあり、彼女の指揮下のもと共に戦っていた戦友でもある――ラ・クロワのリーダー、頼城紫暮だった。
「巡、来ていたのだな」
「頼城。……ああ、ついさっき」
色とりどりな花束を抱えた頼城は、窓際の椅子に腰掛ける斎樹を一瞥して「そうか」と呟いてから彼女――指揮官のほうへ歩み寄る。そしてベッドの住人である彼女が使うことはまず無いので足下に追いやられているサイドテーブルに花束を置き、「後で花瓶も持ってきてもらおう」と微笑んだ。
その言葉に頷きつつも、今日の花はガーベラか、と斎樹はぼやく。花言葉は己の記憶が正しければたしか……希望。それは彼女の目覚めを待っている、我々は諦めないという頼城の確固たる意思表示にも思えた。
きちんとアレンジメントで彼女好みに仕上げられているところに“らしさ”を感じる。斎樹はふっと頬を綻ばせた。
「お前らしいな」
「そうか? 指揮官くんが目覚めたとき、何もない部屋というのも味気ないものだろう。……もっとも、そう考えているのは俺だけではないようだが」
「ああ。だから“らしい”と言ったんだ」
この病室には頼城が頻繁に持ってくる花だけではなく、他のヒーローズが持ってきた物も山のようにある。一年生組が折った千羽鶴。二年生組がバラバラに選んだクッションやぬいぐるみ、彼女の好きそうなコーヒーカップにドラマのブルーレイ。三年生組はローテーションで花束や貰い物のハーバリウムなど。
それらは全て、そこに置かれたきりそのままだけれど。
「ところで巡、今月の16日の件だが」
「俺は行かない。……どうしてもやるというのなら、お前たちだけで」
「何を言っている。主役を欠いたパーティーなど華々しさに欠けるだろう。……第一、指揮官くんが喜ぶと思うか?」
「ッ!」
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