掻き抱く幻想

立ち尽くすこの場所でただ、優しい幻を信じていたかった。
ただいまを言えない虚しさも、おかえりが聞けない寂しさも、伝えたい相手はもういない。
泣くという行為が感情を押し流してくれたなら、或いは良かったのかもしれない。
掻き抱く幻想、降り積もる帰心。この場所だけはどうかあの日のままでと願った愚かな自分。
冷たくなっていく掌に悲しみは感じなかった。ただ降り積もる雪が僕らを覆い隠して、まだ遠い春の訪れまで静かに眠らせてくれたならそれで良いと思った。
どこで人が死んで、どこで人が殺して、どこで人が泣いて、どこで人が傷ついているのか。
終わらない償い、不死の代償、たとえその身が果てても続く拷問。
何もかもを絶やさないでいるのは大変なことですよ。なにか、捨てないと。

いちばん望んでいるものを、君は、何を失って手に入れますか?
簡単なことなんて、本当はどこにも無いのかもしれない。
この世を知る前から、この世を知ったつもりで語る。私の悪いくせ。
どんなに大勢の人があなたを許しても、あなたがあなたを許さないとなんの意味もないじゃない。
純粋や優しさなんて、失うものだと開き直って。
この手を見るたび、僕は思い出す。これが生きてる証拠で、これが裏切りの証拠で、僕をこの世界に縛りつけてくれる。
私が存在すること、私が心を持つこと、私が声を発すること。
僕に笑いかけたきみ。僕のために泣いたきみ。僕のせいで怒ったきみ。きみはいつもひとのために。
他人の痛みを本当に理解できる者なんていない。自分を理解できるのも自分だけだ。
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