果つとも消えぬ、我が想い。
 背負い散りゆけ、桜雪。


「姫、……お体に障ります」

 そろそろ自室へお戻りください。そう縁側に腰を掛けていた私を促したのは、やはり変わる事のない彼の気遣いだった。
 花菱草の栞をくるりと小手先で回し、散りゆく桜を見上げ首を振る。申は梃子でも動こうとしない私の様子に嘆息を落とし、せめて体を冷やさないようにとあらかじめ用意していただろう羽織を私の肩にかけた。
 ふわり。香の匂いが辺りに漂う。この羽織は幼馴染みである″彼″から頂いた物だ。
 ────申の主でもある、私達にとって大切な、然れどとても不器用な、ひと。

「……今日は大分調子が良いの。起きれる時は起きておかないと、体が鈍っちゃうわ」
「しかし、…いえ」

 そうですね。
 申がそう言って微笑ったのを気配で感じた。分厚い覚醒具に隠された瞳は、一体どんな色をしているのだろうか。
 なんて焦がれても意味を成さないこと。だから私も薄く微笑って誤魔化した。

 先日京(みやこ)を離れこの栞の花、花菱草を摘んだ翌日から、私は謎の不調に見舞われていた。といっても、自分で原因は判っている。
 ──何度も何度も、己が朽ち果てる夢。所謂、我々生まれ変わりの間で覚醒夢と呼ばれるものの影響だろう。
 慟哭し、芯から腐り、肉を削ぎ、それでもなお満たされることのない餓えた渇き。幾度も繰り返されてきたのであろう、惨い光景の数々。いつか私も、ああいう風になる刻が訪れる。
 ……その時は、どうか申に殺してほしい。
 私の命令ならば、彼はきっと引き受けるだろう。最期のその時まで、私は申と共に居ることが出来るのだろう。

 ──申の記憶に、色褪せず鮮明に残ることが出来るのだろう。

 考えて、やめた。
 私が望んでいるのはそんなことじゃない。
(でも、ごめんね)
 私が消えた後も、「あなたには幸せになってほしい」なんて綺麗事を言える程、私は優しくなんてないの。
 私を背負って、忘れないで。
 私の影を、追い続けて。

 そんなドロドロと醜悪な独占欲が心の中を渦巻いて、申の未来までも縛りつけようとする。
 嫌な女。ふと自嘲を零した。
 すると一際大きな風が吹いて、薄桃色の髪を揺らす。風が落ち着くと桜の花びらが雪のように宙に舞って地に落ちていく中、ふいに申が私の髪に触れた。

「……少々妬けます」
「 え?」
「いえ。……さあ、風が強くなってまいりました。そろそろお部屋へ戻りましょう」

 髪についた花びらを取りながら囁かれた言葉を、私は聞き逃す事が出来たら良かったのに。
 そしたら、こんなにも切なくて、苦しい思いをしなくても済んだのに。

 ねえ、申。あなたは、
(──あなたも、私と同じ気持ちだと)

 知ってもどうすることも出来ない。ただ二人の距離は、溝は、埋めることの出来ないまま。
 刻は、刻一刻と迫りゆく。
ALICE+