これが流行りの異世界転生!?

その日、彼女は思い出した。
パワハラ上司共(ヤツら)に支配されていた恐怖を…。
会社(とりかご)の中に囚われていた屈辱を……。

「(これってもしかして流行りの異世界転生ってやつ!?)」

アリーチェ・カンメッロは4歳の誕生日、別荘の寝室で前世の記憶を思い出し、そんなことを考えた。

「(パワハラ上司のいつもの嫌味にイライラしながら家に帰ってる途中で酷い頭痛に襲われて………それで死んだのかな?蜘蛛膜下出血とか?よく分からないけれど、今日まで普通の3歳児として生きてきたのにまさか前世の記憶を思い出すなんて……。)」

アリーチェは母に髪を梳かれながら、そんなことを考えていた。

「(ここが異世界と決めつけるには早いけど、どう考えても時代はちょっと古いのよね……。ガラケーもパカパカしたやつじゃないし、みんな電話としてしか使ってないし。パソコンやテレビもなんか古いし。)」
「アリーチェ、さっきから百面相をしてどうしたの?」

母にそう指摘され、アリーチェは少し顔を赤らめなから慌てて答えた。

「えっ?あ、ちょっとかんがえごとを……」

発音してみてアリーチェは驚く。
そもそも前世と違う言語とはいえ、大人と話すペースが全く異なり、かつたどたどしい自らの喋り方に。

「(4歳だから仕方ないけど、なんか嫌だなぁ……)」
「ふふ。4歳になったのだから、考えることもたくさんあるわよね。今日はね、あなたの誕生日を祝いにお友達が来てるの。」
「おともだち?」

アリーチェは首を傾げた。
アリーチェ・カンメッロとなってから、友達ができた記憶がないからだ。

「ええ。同い年の子よ。お父様の上司の息子なの。後でお父様から紹介されると思うわ。失礼のないようにね。」
「わかりました。」

アリーチェは少しだけウキウキした。
この人生での初めての友達だからだ。

アリーチェ・カンメッロの置かれた状況は特殊だ。
彼女は前世では日本に産まれたが、今世ではイタリアに産まれていた。
家は家政婦が雇えるほど裕福で、父が留守にしている間は必ずガタイの良い護衛が家にいる。
父は仕事で忙しいらしく、アリーチェとなかなか会う機会はないが会えば優しく接してくれる。
母は逆に外では働いていないようで、基本家事をこなしているが掃除や洗濯は家政婦任せなので、やることといえば料理と裁縫とお金の管理ぐらいだろう。
その料理や裁縫も趣味の範囲のようだ。
暇な時間が多いのか、わざとそういった時間を設けているのか、彼女はアリーチェの教育に最も時間を割いている。

支度が終わるとアリーチェは母に手を引かれ、食堂に移動した。
食堂に入るとクラッカーが鳴らされる。

パァーン!
パァーン!
パァーン!

「「「アリーチェお嬢様、お誕生日おめでとうございます!!」」」

皆が口々に祝いの言葉を述べ、アリーチェは満面の笑みを見せた。

「みんな、ありがとうございます。」

アリーチェは感謝を述べた後、母に手を引かれ食堂の奥へと向かった。
そこには父と見知らぬ大人の男性と同い年ぐらいの男の子がいた。
彼が母の言っていたお友達だと認識したアリーチェは、男性の後ろに隠れる彼に微笑みかけた。

「アリーチェ、誕生日おめでとう。」

改めて父から祝福の言葉を受け、アリーチェは礼を述べる。

「ありがとうございます」
「アリーチェ、紹介しよう。このお方がキャバッローネファミリー第9代目のボス、私の上司にあたる方だ。」
「アリーチェお嬢さん、お誕生日おめでとう。」
「おいわいしていただいてありがとうございます。わたしはアリーチェです。よろしくおねがいします。」

キャバッローネファミリーという単語を聞いてアリーチェは内心首を傾げた。
どこか聞き覚えのある単語だったからだ。

「ああ、アリーチェお嬢さんはしっかりしているね。……ディーノ、ほら前に出なさい。」
「でも……」
「大丈夫だよ。」

幼い男の子は不安げな表情で男の前に出た。
金髪が綺麗で成長すればモテそうな容姿をしている。
アリーチェはディーノという名前と彼の金髪に心当たりがあるような気がしたが、残念ながら思い出せなかった。

「私の息子ディーノだ。アリーチェお嬢さんと同い年なんだ。仲良くしてくれると嬉しい。」
「…………」

ディーノは父親の前には立ったものの、彼のズボンを掴んだままだ。
精神年齢は29歳、すなわちアラサーのアリーチェはそれを愛らしく思い、ふわりと笑った。

「アリーチェです。よろしくね、ディーノ。」

アリーチェが手を差し出すと、少しだけ警戒を解いたディーノは彼女の手を握った。

「お、おれはディーノ。よろしく、アリーチェ。」

俯きながらアリーチェとチラチラ目を合わせつつ彼は自己紹介した。
それを最も嬉しそうに見ていたのはアリーチェの母で、彼女は手を合わせてニッコリと笑って意味深な発言をした。

「……良かった。子供同士仲良くできそうで。これならあの約束も果たせそうだわ。」
「「やくそく?」」

ディーノとアリーチェの声がハモる。

「ええ、実はね、ディーノ君のお母様と私は親友でね、同じ年に妊娠したものだから、もし産まれた子供達が男の子と女の子だったら結婚させましょうって話していたの!」
「!?」

アリーチェは目を丸くして言葉を失った。
一方のディーノは首を傾げている。

「むずかしい……」

アリーチェの母の発言の意味が読み取れなかったディーノは一言そう呟いた。

「そうよね、あなた達にはまだ難しい話よね。ボス、そしてあなた、私達の約束果たしても良いでしょう?」

アリーチェの母は2人の意思は関係なく、話を進めようとした。

「ああ、構わない。」

ボスが答える。
それを見てアリーチェの父も頷いた。

「私も良いと思う。10代目の妻ともなればアリーチェの将来も安泰だ。ボスが良いと言うならこんな良縁はない。」

アリーチェは冷や汗をかいた。

「(異世界転生早々婚約って……!前世では3人付き合って3人共に振られてるのに、結婚の話なんか勝手に決められても…!)」

アリーチェはこの婚約を回避できないか考えた。
精神年齢を不審に思われないような言い訳を頭をフル回転させて考えた。

「お、おかあさま、おとうさま、わたしけっこんするならつよくてかっこいいはくばにのったおうじさまがいいです。」
「あら、ディーノ君は次期10代目だもの。強くてかっこいい王子様確定じゃない。白馬に乗るかはわからないけど……ディーノ君では嫌なの?」
「そういうわけではないです。ディーノとはいいおともだちになれそうです。ただ、けっこんってそんなかんたんにきめることじゃ……」
「あらあら、4歳になって賢くなったのね。とりあえずディーノ君と過ごしてみなさいな。きっと彼を好きになるわ。」

これ以上理屈を捏ねて反論すると怪しまれるかもしれないと思ったアリーチェはしぶしぶ頷いた。
そして決意した。

「(当面の目標は婚約破棄!結婚相手は自分で見つけてみせる……!!)」

× × × × × × × × × × ×

その夜の就寝時、アリーチェは唐突に思い出した。

「(キャバッローネファミリーのディーノって、友達が大好きだった漫画、家庭教師(かてきょー)ヒットマン リボーンの登場人物じゃん!!確か主人公ツナの兄貴分で、友達の推しの咬み殺ろすの人の師匠!!)」

アリーチェは頭を抱えた。

「(お父様がキャバッローネのボスの部下ってことは、私マフィアの家に産まれてるー!!やばすぎ…!!やっぱり婚約破棄は必須!!絶対一般人として就職しよ!!)」

アリーチェは改めて婚約破棄への決意を固くしたのだった。

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