「キミって奴は、頭が高いね」
この世界に来て数週間が経った頃、わたしはリドル寮長にそう言われた。
頭が、高い。
わたしは彼に横柄な態度をとっただろうか、なにか失礼なことを言っただろうか。首を捻りながらそう考えていると、「このボクを前にしても、ちっとも恐れないその姿勢。まったくお見それするよ」と彼は呆れたように両手を広げた。
「えぇと…誉め言葉、でしょうか」
「もしそう捉えるのなら、キミはかなり神経の図太い人間だと言えるね」
「………」
さっきからずっとわたしに絡みまくるこのハーツラビュル寮の寮長が、何を言いたいのかまったく分からない。
「…うぅん、申し訳ありません」
「キミ、自分が何に謝罪しているのか分かっていないだろう?」
「はい」
「まったく、これだから教養のない人間は……!」
やれやれと首を振りながら溜息をつくリドル寮長を眺めながら、この話に終着点はないのだと思った。
「あの、リドル寮長。そろそろ失礼してもよろしいでしょうか。でないと、次の授業に間に合わないのですが…」
「ああ、そうかい。引き留めて悪かったね。出来の悪い生徒を正してやるのも、寮長の仕事なもので。つい指導に熱が入ってしまった」
リドル寮長は相変わらず眉を吊り上げながら高飛車な物言いをする。結局わたしに何を言わせたいのか、どうしてほしいのかちっとも分からない。
「はぁ、それはご苦労様です」
「キミ、ボクを労う気持ちがちっともないだろう」
「はい。……あっ」
「まったく、キミって奴は……!!」
再びお説教がはじまりそうだったので、慌てて頭を下げてその場を後にする。ちょうどエースとデュースが通りかかったのも幸いした。彼らに声をかけると、2人は機嫌よく挨拶してくれる。そして、ぷりぷりしながら去っていくリドル寮長の姿を見つけると、エースはニヤリと笑った。
「まーた寮長に絡まれてたわけ?あの人も好きねーほんと」
「よく分からないけど、今日も怒ってたよ」
「おい、ローズハート寮長に対してそういう言い方はよくないぞ、エース」
「だってほんとのことじゃーん。監督生がこの学校に来てからというもの、リドル寮長ったらずっとこいつの尻追っかけまわしてる」
そしてエースがわたしの首に腕を回す。
「で、どうなの?監督生チャン。うちの寮長は男として、アリ?ナシ?」
「悪い顔になってるよエース、せっかくの男前が台無しだ」
そう言って重たい彼の腕を外すと、エースは悪戯っ子のように笑った。
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しかし、実際エースの言っていた通り、学校では”わたしとリドル寮長の関係”は多くの生徒たちの注目の的らしい。
わたしはリドル寮長を怖いとは思わない。たしかに高圧的ではあるけれど他寮の寮長だし、彼にきつくなにかを強いられる機会もそうそうない。そしてわたしは魔法が使えないので、彼のユニーク魔法にビクビクする必要もなかった。
よって、リドル寮長はわたしにとって恐れるに足らぬ人物なのだ。
だからと言って彼を見下してやろうとか、馬鹿にしてやろうとか、そういうつもりは一切ない。けれど、彼を特別視しないわたしの態度や挙動は、周りの生徒にとって新鮮に見えるようだ。そしてリドル寮長本人は、それを大変面白くない、と感じているらしい。
だからなのか、わたしはリドル寮長によく絡まれる。
わたしが彼に屈する”フリ”をできればよかったのだが、あいにくそんな演技力は持ち合わせていない。そうなると、毎度突っかかってくる彼を上手にさばいていくしかなかった。しかし、結局そういうわたしの態度がまた彼を刺激することになり、周りの生徒はますます愉快そうにわたしたちを眺めるのだった―――。
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