言葉遊び(前編)

「…キッチン、キッチン、キッチン、キッチン!」
「鳥は英語で?」
「チキン!!」
「ぶっぶー!正解は”バード”でしたぁ」
エースが意地悪く正解を発表すると「た、たしかにその通りだ」とデュースが恥ずかしそうに唇を噛む。

わたしたちが大食堂で『10回クイズ』なんて平和な遊びをしているのは、次の授業までにそこそこ時間があったからだ。『10回クイズ』は同じワードを10回言ったあと、クイズに回答するという単純明快なゲームだが、デュースだけは頑なに回答に引っ掛かり続けた。その様子が面白く、エースも容赦なく次々とクイズを出す。
「んじゃあ次はプリンスって10回言って」
「次こそは正解してやるぞ!よし、プリンス、プリンス、プリンス、プリンス……」
「シャンプーのあとにかけるのは?」
「リンス!!!」
「ぶっぶー!シャンプーのあとはお湯に決まってんでしょ!それともデュースくんは、シャワーせずにリンスに行っちゃうのかな?」
「……っクソ!!!」
デュースが悔しそうに呻く。そのうえ「デュースったら馬鹿すぎるんだゾ」とグリムに煽られ、彼はますます悔しそうな顔をした。


「ちょー盛り上がってんじゃん、なにしてんのぉ?」
わたし以外のメンバーはすぐに反応したのに、その声を聞くのが久しぶりすぎたわたしは一瞬ぼうっとしてしまった。その人、フロイド先輩はわたしの隣に座るエースの頭に肘を置き、こちらを覗いていた。
「小エビちゃん、久しぶりぃ。元気してた?」
彼はへらへらと笑いながらわたしに手を振る。仲間であるエースたちがいるからか、彼に怖さを感じることはなく、むしろ「そうか、あの日からもう1ヶ月が経ったのか」と少し懐かしさを覚える余裕があるほどだった。

「あ、フロイド先輩、ちょーどよかった。”10”って10回言ってみて」
そんなフロイド先輩にエースがクイズを仕掛ける。
「は?10?」
「いいから10回言ってくださいよ、ね!」
「意味わかんねー。10、10、10、10………」
「じゃあ90の次は?」
「91」
「っはぁー、正解だけどつまんねー!!」
「100って言うと思ったぁ?てか、こんな問題に引っ掛かる奴とかいんの?」
「ぐっ……」
デュースが顔を赤らめながら声を詰まらせる。そんな中、フロイド先輩は当たり前のようにわたしとエースの間に割り込み、長椅子に座った。

「えー、てかさぁ、オレしりとりしたい気分〜」
「しりとり、ッスか?」
「はい、じゃあカニちゃんからどーぞ」
「え?!え、えーっとじゃあ…しりとりの”り”からで……り、りんご!」
急に始まったしりとりに戸惑いつつも、まずはエースが単語を紡ぐ。フロイド先輩の視線がデュースに移ったので、彼も慌てて「ごま!」と叫ぶ。グリムは「マグロ!」と続き、”ろ”という普段あまり使わないワードの頭文字がわたしにまわってきてしまった。
「ろ……ろ……」
ブツブツと呟いていると、フロイド先輩が「さん、にぃ…」とカウントダウンをはじめたので、慌てて「ロース!」と叫ぶ。
「あは、全部食べ物でウケる。じゃあ、スナフグ」
「はぁ?!”ぐ”って難易度高すぎでしょ!」
「3秒以内に答えねーと負けね」
「ちょっ……ぐ、ぐ………グリム!」
フロイド先輩が妙な単語でパスしたり、制限時間を設けたりするせいで、異様に緊張感のあるしりとりとなってしまった。

そしてしりとりが4週目を迎えた頃、早速デュースがダウンした。エースにパスされた”ま”という頭文字を受け、すぐさま「マロン!」と言い放ったのだ。
「はーい、サバちゃん負け〜!じゃあ罰ゲームとして、オレにコーヒー買ってきて」
ここでわたしたちは、このしりとりに罰ゲームが存在することを初めて知る。抵抗することが得策でないと分かっているデュースは、悔しそうな顔をしながら椅子から立ち上がった。しかしその直後、デュースは食堂脇の廊下を歩いていたクルーウェル先生に見つかり、捕まる。何事かをいろいろと申しつけられているようで、やがて2人は並んで食堂を出て行った。もしかしたら前回提出した課題に何か問題があったのかもしれない。

こうしてテーブルに残るメンバーはデュースを除いた4人となった。
「マンボウ」
急にフロイド先輩がそう言う。まさか………という顔でわたしとグリム、エースが顔を見合わせた。
「カニちゃん、”う”だよ。早くしないとぉ、さぁん、にぃ…」
「う、うさぎ!」
こうして今度は4人でのしりとりが始まった。

+++

次に負けたのはグリムだった。”つ”でパスされた際、「ツナ缶!」と迷いなく叫んだのだ。
「じゃあ、アザラシちゃんがオレにコーヒー買ってきてぇ」
フロイド先輩はニコニコしながらグリムに罰ゲームを申しつける。グリムは渋々と言った様子で椅子を立った。しかしその直後、デュースのときと同じように、グリムに話しかける人物が現れる。今度は学園長だ。1人と1匹はいろいろと何かを話し込みながら、食堂を出て行った。
「あーらら、行っちゃった…」
エースが呟いたあと、フロイド先輩が「ツブガイ」と言った。エースはギョッとしたあと、すぐに「イカ!」と言った。ついに3人でのしりとりとなってしまった。

+++

エースが負けた。
しりとりはなぜか徐々にスピードアップし、1秒と経たないうちに次の人へパスしなければいけない雰囲気になっていた。そんなプレッシャーに耐えられず、エースは「メロン!」と言ってしまう。潔く負けを認めたエースは、フロイド先輩に罰ゲームを宣告される前に立ち上がった。
「コーヒーでいいんスよね?」
「カニちゃん、分かってんじゃーん」
エースは少し膨れっ面でテーブルを離れた。しかし、ほどなくしてハーツラビュル寮の寮長であるリドル先輩が食堂に入ってくる。足早にエースに近づくと、ガミガミと何かを捲し立てた。エースは”マズい”という顔をし、逃げるように食堂を出て行った。そのあとをカンカンになったリドル先輩が追いかける。

……一体これはどういうことだろう?
しりとりで負けた人がコーヒーを買いに行く流れになり、買いに行こうとすると途中で別の人物が現れ、当人を連れ去ってしまう。そのタイミングはどれも完璧だ。まるで仕組まれているみたいに、一人ずつその場から退場していく。

わたしは恐る恐る隣のフロイド先輩を見た。すると、すでに彼もこちらを見つめており、わたしと視線がかち合うとにっこり笑った。
「じゃ、2人でやろっかぁ」
わたしは無意識に唾を飲み込む。フロイド先輩が「メダカ」と言った。わたしは間をあけずに「カモ」と返した。


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