「露伴ちゃんが、いけない、んだよ?」

そう言って目の前の女が泣いた。震えた声を絞り出して発せられた言葉に、ぼくは納得できない。何がぼくが悪い、だ。どう考えても悪いのはぼくじゃあない。目の前の女、ナマエだ。どんなことが理由であれ、他人の家の中を鉈で壊し荒らしまわっていいわけがないし、動物を殺すなんてもっての他だ。おかげでぼくの家の中は災害にあった後よりもよっぽど酷い。ソファは中の綿が飛び出しているし、壁紙や床も裂かれて傷だらけ、しまいにはどこの何を連れ込んだのかわからないが生き物の惨殺死体。多分、猫か犬かのどちらかだろう。しかも飼われていたものをどこからか浚ってきたらしい。むっとした異様な匂いが立ち込める部屋に入った際、動物用の首輪を踏んだ。ただ幸いにしてナマエはぼくの仕事場だけには手を付けなかったから、それで良しとすべきか。

「ナマエ」

ぼくが名前を呼ぶとナマエは身体をびくりと震わせる。初めから自分が悪いことをしているという自覚があるのだから、余計質が悪い。もう一度ぼくは名前を呼ぶ。こっちに来い、という意味を込めたつもりだったのだが、ナマエは俯いたまま動こうとしない。今までの経験上、ナマエは自発的にこちらには来ないだろうことはわかったので、仕方なくぼくが足を進める。ねちゃりとした何かの血液が足の裏に染み込むようで不快だった。俯いているナマエの顔を無理やり上げさせる。青白いと言っても過言ではない肌には何度も泣いたことが伺える涙のあとがくっきりと見て取れた。今もそのあとに沿って涙が伝っていく。それを乱暴に拭ってやる。

「風呂に入って着替えろ」

「え、……露伴、ちゃ、」

「どうせぼくのいない間、まともに食事してないんだろ? リビングがこれじゃ飯なんて食えない。外に食いに行くぞ」

「ご、ごめんなさい……」

「謝るのは後でいい。とにかくその汚い服を脱いで風呂に入って来い。いいな?」

ビニール袋を渡してその中に詰めるように指示を出す。なんの動物かもわからぬ血がついた服を洗濯機に入れられたら困る。おずおずとリビングを出て行ったナマエの背中を見送って、ぼくはため息をつく。何度、この片付けをすればよいのやら。ひとまず死体と血液、首輪だけは片付けておかねば後々面倒なことになるだろう。この先のことを考えて焼却炉でも作った方がいいだろうか、と考えたけれど、街中で死体なんか燃やしたら面倒なことになるのは目に見えてる。仕方ない。いつも通りに廃棄するか。

右に同じく

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