拝啓から始まる堅苦しい挨拶で綴ります。膨らんだ蕾が咲きそうな暖かい日々ですがどうお過ごしでしょう。 父さん、母さん。おげんきですか? 上京して早五日となります。聞いていた都会は思ってたより異世界でした。 <center>・・・</center> 「・・・やっていけるかな」 遠くに見えるターミナルと呼ばれる筒状の大きな建物を眺めてぽつりとこぼした。ぼうっとした視線の先の空には見慣れない船が浮かんでいて、驚愕の眼差しで見つめたそれらは今では普通に見れるようにまでなった。 この世界に少し目が慣れたようで、忙しく移ろう様をぼんやりと見ていた。子供たちが楽しく駆け回る公園のベンチに座りながら。 <center>・・・</center> 故郷を出て滅多に乗らない電車をいくつも変えて着いた場所はここ江戸の町。めまぐるしい文明開化に戸惑いを覚えるのは私にとって無理もない話だった。 私の故郷は、ここまで発展した大きな世界より時代に遅れている小さな村。そんな世間一般的なことがいまだに疎い村から出てきた私には行き交う人々や建物などすべてが驚きの連続だった。服装は慣れ親しんだ着物ばかりでほっとしたけど、人じゃない人が平然と歩いているのは知ってはいるものの驚いた。故郷ではあまり見ない人、天人と呼ばれる空からやってきた人たちが我が物顔で歩いてる光景は私からしてみたらやっぱり珍しい。 見るものすべてが驚くことばかりだけど興味を引くのも中にはあったから、私は村を出てずっとあった恐怖と不安がほんのひとかけら分だけわくわくとしたものに変わっていた。 紐の先を耳につけてるあれは一体なんだろう? なぜか電信柱にぶつかってたけどどうしてだろう? あ・・・よくわからないけど恥ずかしそうにキョロキョロした目と合ってこっちまで恥ずかしくなった。見てませんよー私なにも知りませんよー。そう装って赤くなった顔からさりげなく目を逸らした。 そうして目を行ったり来たりさせて、先に上京した幼馴染が来るのを待った。ひたすらに。 (全然来ない・・・!) 着いてから結構な時間になったことにようやく気付けたのは道行く人を見ているのがいい加減飽きてきたころ。近くにあった時計を見上げて時間の経過にまず驚いた。無意識に暇をつぶしていたがこれはずいぶんと待たされている。 電話口で交わしたやり取りでは、場所はここで間違いない。問題は時間。指定された時間よりもう2時間は過ぎている。 仕事かもしれないけどいくらなんでも遅い。上京して早々にこれはない。忘れていた不安がぶわっと溢れてくるのがわかって目元が熱くなった。ああ泣きそうだ。 (バカ・・・早く来てよ) 「あっ! おーい!」 雑踏に紛れそうになる声を拾い顔を上げて、こちらに向かって来る人をじっと見つめると、次第にその人が幼馴染だとわかり安堵で大きく息をした。駆け寄って真っ先にグーパンチをお腹に入れた。 大して痛そうじゃないのに痛がって、久しぶりと笑う顔は最後に見た時より成長していたけどそれでも懐かしい気持ちを思い出す。「何泣きそうになってんの?」ぽんと頭に置かれた手に照れ臭くなってもう一度、今度は強めにグーパンチしてやった。 遅れた理由はやっぱり仕事のようだった幼馴染の部屋に泊まり、役所へ行ったり買い出しに行ったりあれよこれよと今日で五日。 生きるために必要な仕事を探さなくてはならないと公園のベンチで無料で頂いた求人雑誌を読み漁って一息ついてた。ぼんやりとしていると頭の中はこれからのことを考えていた。 いつまでもあの部屋にいれないから自分で部屋を借りて、その前に仕事を見つけて、それから私は。・・・・・・。 住み慣れた土地からわざわざ遠くまで来たからには私は、絶対に。 上京する前からの決意を思い直して、さっき買ったみだらし団子を袋から取り出す。ここに来て初めてハマった甘い一品に思わず頬を緩ませた。 元々そんなに食べないものだったが味に惚れ込んでここに来てもうこれで9つ目。部屋に買い込んでおいたこのお団子がまだあるくらい好きになっていた。あいつはたかがコンビニのお菓子如きで、とバカにしたように言っていたけど! 故郷にはもちろんないコンビニは大袈裟かもしれないけれどすごいの一言に尽きる。24時間営業の上、何でも売っている。しかもこのみたらし団子3本セットでこのお値段。その安さもあってついつい買いすぎてしまうのはダメだな〜と軽い反省をして、たっぷりついたタレが光るみたらし団子を口に入れた。やっぱり何度食べてもこの味はおいしい。 「そんなにうめーの? どこのヤツ?」 もぐもぐと至福を噛むように食べていると隣から聞こえた声に顔を向けた。そこにはカラフルな絵柄の表紙をした分厚い雑誌っぽいのを読んでいる男がいた。 いつから隣に座っていたのか気付かなくて口の中のものをごくりと飲み込んだ。一体いつからいたんだろう? そんなに自分のことしか見えてなかったか? 私に話しかけたのかなと変にドキドキして向けた顔を下げて視線だけを隣に送る。全体的にハネた白っぽい髪、熱心に読みこむ気の抜けた目、片膝に足を乗せるその男は不思議な空気を持っているようないないような曖昧な人に見えた。なんなのこの人。 だけど、確か話しかけられたはずなのにこちらを見てないとなると話した相手は私じゃないのか? そう思って周りを見回した。が、離れたところで子供たちが遊んでいて近くに人はいない。 やっぱり私か! 確認するように再び隣を見ると、あの気の抜けた目と目が合ってビクッと肩が震えた。 「人を幽霊見た時と同じ反応しないでくんない? あんたに話してんだよ」 「えっ・・・あぁすみません」 あまりの気さくさにドギマギとしていると「で。それどこの?」彼は手元の食べかけのお団子にやたらと興味があるようだ。引き気味にコンビニと答えるとへぇーふーんとお団子から視線を離さない。お団子を見る目がきらりとして見えて、どうやら彼はこれがお好きのようだ。 さすがに食べかけはあげれない。その前に初対面の相手に私が好きなものをあげるなんてイヤ。けどこの物欲しそうな目・・・正直鬱陶しい。 はぁっとため息を肩でして手を付けてない残りを容器ごと彼に渡した。くれることに一瞬だけ驚いた顔をしたけどすぐに元に戻って、あげたみたらしだんごを頬張り始めた。有り難いと言う割にがつがつした食いっぷりであげなきゃよかったかなーとちょっとした善意を恨めしく思う。遠慮する素振りが見えない食べ方だ。 「いや〜なんか悪いねェ。まさかくれるなんて思ってなかったけどよォ。気前良くくれるとかあんた結構いいヤツじゃね?」 (・・・お団子二つでそこまで喜んでくれるのもすごいな・・・) 「ここのスイーツもすげーって聞いてたけどこりゃあ甘党の俺も頷けるわ。うんマジで」 (お団子好きじゃなくて甘いもの好きなんだ) 「『拙者のスイーツ』もレベル高ェからオススメするわ。一度食ってみマジで」 「はあ・・・そうなんですか」 上機嫌だからなのかよくしゃべる、元々かもしれないけど。食べると喋るを同時に行う男はどうでもいいように打った相槌も気にならない様子で一つ目を食べ終えた。そして二つ目。 それにしても、さっき読んでいた雑誌を小脇に挟んで咀嚼する男は何だかんだと嬉しそうだ。だからかわからないけれど、私の好きなものが人に食べられる光景は嫌な気分になるかと思ってたけどそうはならなくて(ただ呆れてるだけなのかもしれないけど)。むしろ遠慮もなく食べる姿に感心してしまうくらい。その所為か安心こそはしていないが警戒で身構えた体の力は今はあんまり入れていない。 変なのと笑って私も食べかけのお団子を口にした。やっぱりおいしい。 「あんた ここらでは見かけねー顔だな」 「ええ。ついこの間上京したばかりなんです」 食べ終えて満足した男は串を咥えたまま上空を仰いでベンチの背凭れの上に腕を乗せた。こちらまで伸びる腕の近さが気になって悟られないように距離を取る。端の、もうお尻が少し出てしまうくらいに動いたからもうこれ以上は気にしたらいけないと自分に言い聞かせて求人雑誌を開く。 それでも、男が話しかける前まで気付かなかった存在が視界に否が応でも入るものだから集中は途切れまくるのは仕方ないことと、これも自分に言い聞かせてページを捲る。無我の境地ってどうやったら辿り着けるんだろう? それってどこにあるの? 「・・・・・・・・・」 話しかけてこない。けして待っていたわけではないが、どこかで構えていたバットにボールが来ないことを変に思い、目を求人雑誌から隣に動かした。 近くて気にしていた腕はもう戻っていて、さっきまで一人でよく喋っていた男は黙々と読書を再開させていて脱力する。えぇー・・・ (・・・えー・・・) 話してくるだろうと踏んで構えてたのが見事に敬遠されたこの気持ちをどこにぶつけようかと熱くなる顔を求人雑誌で隠した。自分が思う以下のこの現状がとにかくはずかしい。 たしかに会話を終わらせたのは私だと思う。せっかく話しかけてくれたのに二言で終わらせたのは私だ。バットを構えても相手を見なきゃ打てない。だけど、ね・・・。 (ペチャクチャ話してたからまた話してくるんじゃないかって思ったのに・・・!) もしかしたら求人雑誌を読んでる私に気を遣ったのか。だったら最初からしてほしい。お団子を見る目とか、目とか目とか。 余計に考えたからこの短時間で一気に疲れた私は出そうになったため息を噛み殺した。さすがに人前でため息を吐けない。 もう帰って作りかけの履歴書に専念しよう。お団子もあることだ。昨日より捗るはずだろうと考えて求人雑誌を閉じてゴミをまとめた。 ビニール袋を縛る直前に「これも頼むわ」と男が渡してきた空っぽの容器を反射的に受け取ってしまいあっと思うのもすでに遅く。なんだそれ。アンタにあげたんだよ。中身も容器も。 引き攣る顔を向けると男は読みながら人前で鼻をほじっていた。男に倣って私も人前で大きなため息を吐いた。 「それじゃあ、私はこれで失礼します」 言わなくてもいいんだろうけどこのまま黙って行くには気持ち悪いので一言口にして立ち上がる。横目で見た男の反応は「おー」と相変わらず雑誌に顔を向けたまま片手をあげるだけ。もうこの男にはなにも望まないし求めない。そもそも望んでもないし求めてもないけど! それだけ!? 憤りを越えた呆れが回りまわって憤りにまた戻ってきた。だから口を開いた男を気にする余裕がなかった。 気前よくお団子をあげた結構いいヤツの私は帰るんですよー。ラッキーな出来事をもう忘れるぐらい雑誌優先かこの。 「ボサボサ白髪」 見た目、特に目立った頭のことをぼそりとつぶやいて歩き出す。後ろから何か聞こえたが振り返らずに公園を後にした。 これぐらいの悪口は許されるはず。たとえ思ってもみなかった言葉を不意にもらっても。 「がんばれよ」 冷静になった今にして思うと、白髪は言い過ぎた。気にしてたかもしれないのに。 名前も知らない人の何気ない言葉から温かみを感じて鼻がつんとなった。春なのに吹く風がまだ冷たいからかな。 <center>・・・</center> 最後の聞き捨てならない言葉に青筋が浮かび遠ざかる背中に向けて反撃するも無視を決め込んだらしい。歩調を緩めることもない姿がどんどん小さくなった。 ちっと舌打ちしたが見ず知らずの自分に団子をくれたことを思い出して仕方ないと大人な対応を見せる。しかしそれでも納得いかない顔でぶつくさと文句を言いながら立ち上がった。 「しらがじゃねーっつの。どう見たら銀さんのコレが白髪に見えるワケ? アイツの目おかしくね? ・・・・・・あれ? 白髪?」 ガシガシと頭をかいて自分の髪を摘まんで見た時、脇に挟んだジャンプと書かれた雑誌から一枚の紙切れがひらりと落ちた。手を伸ばして拾い上げるとそれは写真だった。 一人の人物にピントを合わせた古びた写真。意図的に顔だけを写して楽しそうに笑っているこの被写体は―― 「笑い方は変わってねーんだな」 さっきまで埋まっていたベンチを一瞥した後、その写真を適当に開いたジャンプの中に挟んだ。 <center>・・・</center> 父さん、母さん。おげんきですか? 上京して早五日となります。聞いていた都会は思ってたより異世界でした。 けどこの町もそこで暮らす人も捨てたものじゃないって思えてきました。 だから何とかがんばっていけそうです。 それでは、また。 <center>・・・</center> その次の日、バイトの面接帰りにあの男とばったり会ってこんにちはと声をかけたら。 「んー・・・どっかで会った? ていうか誰?」 昨日のことをきれいさっぱりと忘れられて、作った握り拳を何とか抑えた私は何もなかったように男の横を通り過ぎた。殴りそうになった自分を落ち着かせて今日の面接を思い浮かべる。 緊張してちゃんと答えられた覚えがないから不安だな。 「・・・・・・あー! 思い出した! 昨日の団子女だ・・・っあれ? いない?」 (都会の流行が遅れて届くような故郷を飛び出して新しく生活を始める主人公) (先に上京した真選組所属幼馴染がいたり、いなくなった家族を捜したい願望があったり) (落ち込んだりするけどわたしは元気です・・・みたいな) 17.04.17 20:03 gintama(bun) |