夏休みが明けて、半日授業で終わる今日。

そんな日は早く帰れるはずなのだけれど、文化祭実行委員は集まりをかけられていた。いくつかある委員会の中でそれだけが。
1年9組の文化祭実行委員である私ももちろん参加しなければならなくて貧乏くじを引いてしまったかもと思わずにはいられなかった。

(明けて早々の集まりとかツイてない)

夏休みの間は目覚まし時計の休暇期間でもあって、昨日までの夏休みはほぼ毎日自発的に起床していた私には夏休みボケの残った体に鞭を打って登校したに等しいものだった。だからこの結果がこれなんて「ツイてない」の一言に尽きる。
早く帰れると思って頑張って来たのに。

そんな億劫な気分で集まりがある3年2組の教室に足取り重く向かっているとマナーモードの携帯が震えた。歩きながら弄った携帯のディスプレイには理由は違えど同じように残る羽目となったはると表示されていた。
中身はメール、内容は『どうしよう! 終わらない!』。プラス切羽詰まった感を表わした絵文字。あの課題は私も苦戦した上に、課題を出した先生は何故か提出物だけ厳しいで有名だから本当に大変そうで短い文面からそれはアリアリと伝わった。

(・・・『ご愁傷さま』)

人のツイていないことを笑うから自分のツイていないことに泣くのだ。因果応報。自業自得。
返信内容をポチポチ打ちながら3年の教室がある廊下に出てきて後ろのクラスから順を追って2組を探していると目的地の教室を見つけた。
けれど入り口を塞ぐように「なんだーお前も実行委員か」と教室の中に向けて喋る男子、とその前にはその男に驚いたのか肩をビクッとさせた女子がいた。どうやらふたりは知り合いらしく、なぜか入りもせずにコソコソヒソヒソと何かをやりとり。
そんな男女ふたりを少し離れた位置で携帯を握りながら邪魔だなーという目で見て(もう前の扉から入ろうかな・・・)と思い始めていたところ不意に女の子が振り向いた。

「・・・。」

見覚えがあって思い出そうとしたところ彼女は慌てた様子で私に謝った。「ご、ごめんなさい! 私たちのせいで入れなくて」「あっ!」その子と同じようにこちらを向いた隣の男が彼女の言葉に被せる形で声を上げた。

「キミははるちゃんと一緒にいるかわいい友達!」
「・・・・・・は?」

この男がはると同じ中学出身で仲が良いという『安堂拓海』と知るのはこの5秒後。
そしてふたりの間からチラッと教室の中を覗いた時にあの『一ノ瀬蓮』がいたことを知るのは安堂がうざったい笑顔で携帯を手にした後だった。「アドレス教えて(略)」







しつこい安堂に辟易しているとタイミング良く委員会の担当教師がやってきて何とか逃れることができた。
けどそれも時間の問題かもしれないと思うのは安堂がしつこいからだろう。
次しつこく言われたら聞き流す自信は・・・やっぱりないかも。

「蓮のトナリ行こーかな」
「あっ」

焦ったように安堂を止めて自分の隣の席に引っ張って座らせる(さっき謝っていた)彼女の積極的な行動にちょっと意外だと思い、私はざっと教室内を見渡した。
空いている席は所々に点々と。そしてここから近くに空いている席は、安堂が言っていた場所。(べつにいっか)
ほかにも空いてる席はあったけど好奇心に負けた私は友に向けての後ろめたさ半分から心の中ではるに手を合わせて一ノ瀬蓮の隣の席に近付いた。

「ここ、いい?」
「うん。どうぞ」

愛想良く答えてくれた一ノ瀬蓮は私が誰なのか何となく知っているようだった。話したのは今のが初めてだけど安堂と同じようにはるを通して知っているみたい。

(『一ノ瀬連もおんなじ委員だった』)

お礼を言って引いた椅子に座り、話し始めた先生の目から隠れて机の下で携帯を手早く操作する。打ち終えてあとは送るだけだったメールの内容を全部消去して真っ白になった文面に羨ましがられること間違いない文に書き直して(あ、名前まちがえてた・・・まっいっか)送信ボタンを押した。
まだ四苦八苦しているはるの元に私が送ったメールはもう届いたことだろう。私のメールを開いたはるの顔がぱっと想像がついておもしろい。はるのことだからまず絶句して、しばらく穴が開くほど見てそう。ほんとわかりやすいんだから。
携帯を仕舞った私はふと隣の男が視界に入って(みんなこの物言わぬ顔がいいのかしらねぇ・・・。)と横顔を見ていると私の視線に感付いたのかこちらに向いた目がさも不思議そうに何?と言っていた。

用も何もないけど。・・・・・・。

「今ね、はるも残ってるんだ」
「え?」
「正確には残らされてるんだけどね」

目が合ってこのまま無視っていうのも何だか嫌だったから、適当にはるのことを持ち出して小声で話しかけてみると「どうして?」と聞いてきて、正直驚いた。(あれ? なんか食いついてる・・・?)
同中の友達に対して当然の反応なのだけど、どうしてか私は違和感を覚えて、そのモヤっとした部分に心の中で首を傾げながらざっとはるが残るようになった経緯を話した。

「全然終わんないみたい」
「・・・・・・」

相槌もなく、それきり。一ノ瀬は考え込むように黙ったからそのまま会話は終了した。(愛想が良いんだか悪いんだかわからん)
そう思っているとスカートのポケットに仕舞った携帯が震えたのに気が付いた。
きっとはるからだろうと軽く考えるだけにしてあまり聞いていなかった先生の話に耳を傾けた。


「じゃこれで委員会は終わりまーす」

終わりを告げる先生の言葉に席を立つ生徒たちを視界に入れながら机の上を片付けていると、後ろの席に座ったあの子が一ノ瀬に声をかけていた。
振り返って見たその時の顔付きでやっと思い出す。夏休み直前に一ノ瀬に告白した子だ。
私と目が合うと私にも声をかけてくれた。

「バイバイ! ・・・あ・・・」
「伊岡エリコだよ。バイバイ仁菜子ちゃん」

安堂が彼女のことを「仁菜子チャン」と呼んでいたのが聞こえててそう返すとにっこり笑って、隣の安堂に向けた顔は一変して嫌そうにそれでも律儀に声をかけて出て行った。一見差のあるような冷たい態度だったけどその気持ちが私にもわかる。
「エリコちゃんかー。そういえばはるちゃんはエリーって呼んでたよね」ほらこうして馴れ馴れしいところとか何だか鬱陶しいもの。
出会って数十秒で苦手カテゴリーに分類された安堂の声を右から左へと流しながら私も席を立った。「伊岡さん帰るの?」

「え? ・・・うん。もう終わったし・・・、なんで?」
「・・・、ごめん何でもない。じゃあね伊岡さん。それと安堂も」
「おー」
「じゃーね、一ノ瀬」

「ねえ俺には? エリちゃん俺にはっ?」
「・・・安堂クンもさよーならー。願わくば永遠に」
「ヒドっ!」

それにしても何だったんだろう?今の。

私より先に教室を出て行く一ノ瀬の姿を横目にさっきの問いかけを訝しるもののあまり気にも留めないで、私も持ってきておいたカバンを肩に提げてさっさと教室を出た。
昇降口の方向に向かいながら携帯を取り出してみるとやっぱりはるからのメールで、内容は『なにそれ! うらやましい!』と羨望感たっぷりのものだった。そして我に返ったかのように『ヘルプミー!』と救難要請の2通目がその後受信していた。

(・・・やれやれ。)

しょうがないお気に入りジュースで手を打とうじゃない。それでもめんどくさいなという思いから小さくため息を吐いてはるがいる教室に足を進めた。「!?」
しかし途中の階段に差し掛かったところ、先に帰ったはずの一ノ瀬が階段を上っている後ろ姿を見つけて咄嗟のことから身を隠した。音が遠ざかったのを確認して私は隠れた場所から出てきて一ノ瀬が上ってった階段を見上げる。
彼のクラスはこっちからだと遠回りなはずだけど、どうしてわざわざこの階段を使うの? そういえば今見た一ノ瀬はカバンを持っていた。
忘れ物を取りに? それとも待たせている友達のところに行っている?
すべては憶測でしかないけれど、今までの彼の様子を思い出してみるとどれもこれもなんか違うような気がする。

もしかして。いやいやいや突飛すぎてる。でも・・・あの妙な感じは、もしかすると、もしかする・・・?

「・・・・・・・・・ふふっ」

どうやって考えてもドラマのような展開にしか結びつかない。まー何にせよ私は行かないほうがよさそう。
もし私の考えすぎだったら終わらなくて困っているはるには申し訳ないけどその時はお詫びとしてジュースくらいはおごってあげようか。
くるりと踵を返す形で歩き出す私はそれでもつい忍び笑いをする。

この変な感じはなんだろう。
ソワソワのような、ドキドキのような、それらとは全く別のもののような。
そんな言いようのない高揚が自分の中で起きているのがわかってまた笑った。



3.5 ロマンチカル・ロマンチカ
12.0915