「全然決まらないなー・・・」
腕を組んで悩ましげにつぶやく先生に(当然でしょ。だれがこんなめんどーなことするか)と心の中で毒ついた。
来たる文化祭に向けて各クラスの実行委員が集まった教室は、誰が買い出し係になるかで今現在揉めていた。これが決まれば集まりは即終了というわけなのだが誰も立候補をしない状態が続いている。
準備で必要な材料なんて学校側が用意すればいいのに。と思ったがこの何ともめんどーな係りは年々あるらしい。去年も実行委員になったことのある2年の先輩が「去年やったから俺パス!」といち早く輪から抜けようとしていたからそんなところなのだろう。(その先輩は結局、そうはいかないと同学年に押さえられていた)
そんな私も自ら進んで手を挙げられるほどイエスマンではないのでやる気もなく押し付けあっている輪の中にいた。そばにはなぜか安堂がいたから隠すこともなくため息をついているが、当の本人は気にしちゃいないようで。しまいには、「何? 恋煩い? 俺に?」なんて言い出す始末。当然無視。
(・・・それにしても遅いなふたりとも)
輪の中にいない、同学年ふたり―――仁菜子ちゃんと一ノ瀬が気になって壁に掛けられている時計を見上げた。30分遅れで始まったこの集まりにまだ来ていないということは完全なる遅刻だろう。しかしふたり揃ってなんて・・・。
どういうことだろうと不思議に思っていると教室の扉が音を立てて開いてそちらに目を向けるとその二人が慌てて入ってきた。それに気付いた先生に注意され、挙げ句決まらずにみんなで押し付け合っていた買い出し係が遅刻した罰として二人に決まった。中々決まらなくて先に進まなかったこともあったのだろう。少しイライラしていた先生はどこかほっとしたように見える。
(あらら。運が悪い)
買い出し係がようやく決まり押し付け合いをしていた人たちもやはりどこかほっとしていた。そんな私も自分じゃなくてよかったと思っている。やっと帰れる、とため息交じりに思っていたところ突然そばにいた安堂に腕を掴まれた。そして何を思ったか買い出し係となった二人のそばまで連れて行かれ「面白そうだよねっ。だから俺たちも行くっ!」と二人の間に入って言い出した。・・・『俺たち』?
「え? それって私も?」
「もっちろん! 4人で買い出しとかなんか楽しそうじゃーん」
何を勝手に・・・。自分じゃなくてよかったと思っている私まで数に入れようとする安堂に思わず呆れ果てる。この男は出会った当初から苦手だ。
「安堂。無理に押し付けるのはやめろよ」
「そうだよっ。エリちゃん困ってるじゃんか」
「えーなんで! みんなで行ったほうがいいじゃん! 楽しそうだし! ねっ行こう?」
「・・・、そうね。確かに楽しそうだし、この量は人手があったほうが良さそうだし。行くよ」
「さっすがエリちゃん!」
そんなこんなで、半ば巻き込まれる形で(最終的には本当に面白そうだと思って)加わった私を含め4人で買い出しに行くこととなった。そしてスケジュールの問題で今週中に行って来てほしいという先生の申し出に日程をどうしようかという話に。仁菜子ちゃんも一ノ瀬も今週は特に用事もないというわけなのだが。
「私、明日か木曜日しか無理だ」
「えっ!俺は水曜日以外はムリだよ」
「・・・・・・」
「じゃあ安堂くんは来なくても・・・」
「えー! 4人で買い出し部隊なのにっ!? しかもそこ俺っ!?」
「あーもうわかったよ。私の予定が変更できるはずだからちょっと電話してくる」
あーだこーだと延々続きそうで埒が明かないと思った私は教室から出て開いた携帯からアドレス帳を引っ張り出す。そこでふと思いつく。私の代わりにはるを行かせる手もあるのか。水曜はヒマだろうし、あの男子ふたりとは同中だし、それに。
(起爆剤になってあげようかしら)
ここ最近のはるがヤツを見るときのあの表情を思い出しながらボタンを押してはるのアドレスを画面に出す。「蓮くんは・・・・・・」けれどなぜかそこだけ妙にはっきり聞こえたその声が現実に引き戻すように、ボタンの上の親指は躊躇いを覚えていた。
(・・・・・・。やっぱやめよう)
クリアボタンを連打して待ち受け画面からやり直した。そして当初掛けようとしていたアドレスを引き出し通話ボタンを押した携帯を耳に当てる。滞りなく水曜日の予定を空いている木曜日に変更できて電話を切った。(迷惑かもしれないし)人のアレコレに首を突っ込むと碌なことがないだろうし、色々と考えてやはり思い直して正解だと思った。
(あーすっごくモヤモヤする。これも一ノ瀬のせいにしよう・・・あと安堂)
★
「あと買うものって何?」
「えーと。あとは『フーセンたくさん』だって」
「アバウトだなー」
「俺つかれたよ」
水曜日当日。授業すべてを終えた放課後、書き出されて渡されたリストから順を追って買って行き、残すはフーセン多々・その他もろもろ。リスト表を手にしている仁菜子ちゃんからそう聞いたあと、どうしてか自分の心身状態を報告した安堂。私たちが呆れて物も言えないのをいいことに子供のように駄々を捏ねてうるさい安堂に私たちは(仕方なく)近くのファーストフード店に寄って行くこととなった。「レッツゴー!」さっきとは打って変わって調子のいい安堂に呆れた視線を送るのは私だけではなかった。
注文した物を食べたり飲んだりしながら喋って一通り休めた頃。安堂の携帯が鳴り出した。「先に外に出てる」そう言ってトレイを片手に持ち携帯を耳に当てて席を立った。その時に「はるちゃん?」と安堂が電話の相手を呼ぶのが背後で聞こえて思わず振り向いた。
(はる・・・?)
ちがうちがう。自分で言った名前にあとから気が付いたのか、耳に当てる携帯を指さしてから手を振るジェスチャーをしたあと、なぜか勝ち誇ったような笑みを浮かべて店を出た。(なにいまの)顔を前に戻すと向かい席にいた一ノ瀬が俯く顔に片手を当てていて、今度はこちらに眉を寄せる。こっちも一体なんだ。
隣の仁菜子ちゃんに小声で聞くと肩を寄せて教えてくれた。いきなり驚いた表情をしたかと思えば急に俯いてああなった。どうしてなのかよくわからないと首を傾げる仁菜子ちゃんの話を聞いて合点がいく。つまりこういうことだろうか。
(私と同じところで反応して、違う相手と知った安心を見抜かれて、ああなった。こんなところかしら)
それにしてもおもしろい。噴き出しそうなのを何とか抑え込む私にジトっとした視線を寄越す一ノ瀬の印象がだいぶ変わったとこんな時に思い知った。
3.8 コバルトピンクの関係
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