ただ言いたかった。伝えたかった。

言ってしまいたい。衝動にも似た熱が体を駆け巡ったその時、勢いという言葉がぴったりな行動を起こしていた。

「あのねっ! 私ねっ蓮くんのことがすきなの!」

駅のホームで。人にする初めての告白。ドキドキと弾む胸が周りの音より大きく聞こえる。
ダメで元々だってわかってる。でも、言いたいの。
だけど返ってくる言葉が頭でわかってても、気持ちはちゃんと追いつくかな。

思いもしなかった私の告白に驚いた顔がだんだんと変わる様を見て、次第に体中にこもった熱が抜けていくのを感じた。弾んでいた胸の音もゆっくり沈んでいって周りの音も戻ってくる。

まっすぐに目を逸らすこともなく唇が動く。最初の言葉はきっと、・・・。

「ありがとう。でもごめん。忘れられない人がいるんだ」

断られることはもうわかってた。それに伝えるだけでよかった。
だからありがとうと潔く笑うことができた。これからも友達でいてほしいとワガママまで言って。困ったような微笑を浮かべて頷いてくれたから、フラれてもそれが嬉しかった。だから。

頭の中から抜けていた。蓮くんが言った「忘れられない人」のこと。

いま思えば『気になる人』とも『好きな人』とも違う言い方をしていた。
「忘れられない人」・・・まるで死んだ人をまだ想っているみたいな。ドラマのセリフから引用したような、そんなことを。

(どういう意味だろう?)

断りたいためのウソ?
だったら、そんなまどろっこしい言い方しないで「好きな人がいる」と言ったほうが手っ取り早いはずなのに。ウソにしては手が込みすぎてバレバレなウソみたい。

そもそも蓮くんがこんなウソを言うかな? ・・・言わない気がする。

(なら、・・・ホントのこと?)

『気になる人』でも『好きな人』でもない「忘れられない人」。

意味はよくわからないけど、特別な意味がありそうでその人が羨ましかった。
蓮くんにそう想われている特別な人。いいなぁ。

(・・・・・・やっぱりまだ好きだな〜)

フラれても簡単にはこの気持ちを捨てられなくて、思わず吐いたため息が余計につかさちゃんたちを心配させてしまった。
「今日こそカラオケ行こう!」私を思って誘ってくれるみんなに元気よく答えた。


「うん!」







高校生になって初めての文化祭もあって楽しくて仕方なかった仁菜子は率先して動いた。
(渡されたコスプレ衣装は思ってたのと違ってたけどかわいかったからいいや!)でも思った以上に重たい頭でびっくりしたけど、と仁菜子は特に不満に思うこともなくすれ違う人に呼び込みをかけていた。

そうしてわざわざ訪れた蓮たちを見つけて声をかける。人が全然来ない旨を伝えると客になろうかと願い出てくれて、仁菜子のクラスに初めてお客さんが入ることとなった。

だけどそこで起きた事≠ノ仁菜子ははっとした思いをするのは、このあとすぐのこと。

「飴谷ちゃーん!」

蓮の友達――三好学は開けた窓から身を乗り出して下に向かって声を上げていた。見つけた知り合いを呼んでるみたいで手を振っている。「がっちゃん危ないって」同じ中学出身のつかさの声にも耳を貸さずに、蓮ともうひとりの男子――寺田裕太郎の制止にもなんのその。聞く耳持たず。
はしゃぐ姿に仁菜子もどきまぎしていると、諦めてもう呆れ果てている蓮が窓をのぞき込んだ。学と同じように下を見つめる瞳が窓ガラスに映り込んで見えている。(あ、目元がやさしくなった)

そして右手が顔の近くまで上がって、左右に揺れ動いた。

蓮が手を振る相手が誰なのか気になった仁菜子はカエルの頭を外して、窓に近づき下を見る。そこにはこちらに向かって大きく手を振り返す女のコがいた。
なぜかブンブン振り動く手がぎこちなくなった。どうやらあまりの視線の多さに恥ずかしくなったらしい。
ピタリと動きを止めた彼女は脱兎の勢いで走っていく。

(もしかして、あのコなのかな・・・)

人から鈍いと言われる仁菜子にも何となく理解できて、カエルの頭を被って顔を隠した。
狭まった視界で蓮を見ると突飛な行動をした彼を呆れた顔で見ていた。「あぶねーだろ」「あはは。飴谷ちゃんを見つけたからつい」「みんなに迷惑かけたんだから謝れ」そんな会話をして、騒ぎの元の学がみんなに謝ってる最中、蓮だけは名残惜しそうに窓の外を見つめていた。

探すような瞳がやはり窓に映り込んでいたのを仁菜子は知っていた。



4.5 チョコレイトガール
14.0214