「・・・やっぱり無謀だよねそうだよね・・・」
(やさぐれてる)
誰に言うでもなくぽつりとつぶやくはるに気晴らしになるだろうと雑誌を渡した。眉間に寄った皺が薄まるのを確認して、私にも見えるように広げた雑誌を一緒になって見る。パラ、パラ。一定のリズムで捲られるページがピタリと止まった。
見開き1ページに名前の画数で運勢を占う、ありがちな姓名判断のようなものが載っていた。これからのこと、病気や結婚。この手の占いは様々だから当てにならないだろう。だけど。
興味のない視線を一度はるに向けて小さく息を吐く。机の下で隠すように動かす人差し指を発見して実際に占っている姿にマジかと思ったからだ。
誰でもできて相手との関係度合いがわかるという胡散臭い占いをやっている友人には悪いが紙面や画面の占いなんて信用ならない。昨日のテレビで私の星座は最下位だったが悪いことは起こらず一日は無事に終了した。最悪な運勢は何度も見聞きしたがそうなったことは一度もない。だからこの占いもそれと同等の当たらない占いだと思うのにはるの縋るような瞳にまたため息が出そうになった。
好きな相手と自分の、それぞれの画数を足して引いて・・・かけて割って、めんどくさい計算をして出した合計を3つの結果に照らし合わせて運命の人かどうかがわかるという。3つの結果は下からイマイチ、フツウ、バツグンと分けられる。これに似たようなものを小学生の時にやった記憶を薄ら思い出して、目の前でわかりやすく肩を落とすはるの様子から一番下の結果だったことが窺えて頭を軽くたたいた。「たかが占いでしょ」なに本気になってんの。
バカみたいに落ち込むはるの手から雑誌を取り上げてページを捲った。はぁー・・・やれやれ。今季一押しアイテムを眺めながら先ほどの占いをやってみることにした。
当たらないとわかればはるの気は少しは晴れるだろう。とりあえず私と、相手は弟の名前を使おう。頭の中でさっきの計算をして、出た結果はバツグン。(・・・・・・まぁ当たりだわ)実際仲良し度合いはその結果で正しい。これでは意味をなさない。もう一度。次はほかの人を・・・・・・
そこで浮かんだ名前に躊躇ったがハズレることを大いに期待して、先ほどの計算を繰り返す。出てきた結果にページを捲る指先がピクリと固まるけど、やっぱり当たらないことだけがよくわかった。この占いは当たらない。(だって想い合ってるのにイマイチって当たってないじゃん)
がっちゃんに誘われたバイトの件をはるはひどく後悔していた。誘われる前に、すでにほかのバイトを始めていたはるのどんよりした顔はしばらく取れなくて。そしてここに来て起き始めた不遇なズレに思い悩んでいるようだ。
本人も自覚したタイミングの悪さを客観的に考えると計ったようなカンジに見えてきて、何か大きな力に邪魔されているような、カチリと合わないもどかしさからテレビ脳がそんな推論を立ててくる。ありえないんだけど、そんなことを思う。
どうしてこうなった。この疑問に真っ先に浮かぶ場景があの見下ろすはるの姿。しかし見え隠れしていた感情を前面に出して見据えた姿勢を、あの日から見せるようになったのだ。驚くべき変化だ。挨拶をしてくると以前はしなかった前向きな行動には本当にびっくりした。(いきなり積極的になった)まだはずかしさを伴って無理している感じもあったけど。どんなキッカケで変わったのだろうと不思議に覚えつつもこれはうまくいくと自分のことのように嬉しさがこみ上がる。
だけど、事はそう簡単にはいかないらしい。生じたズレに、今こうして思いつめているのがその証拠。気休めにもなれなかった占いがより一層マイナス思考を強くさせてしまっている。
確かな気持ちをお互い持ち合わせているのに背中合わせのままなんて。ここまでくるとかわいそうだと思う。いっそのこともう言ってしまおうか。第三者が言えば・・・もしかしたら・・・
ダメだ。ここずっと現れる過去の自分が往復ビンタをする勢いで必死に手を横に振っている。ダメだって。よかれと思った行動ぜんぶが裏目に出たあの頃を思い出しかけて雑誌で顔を隠す。ぎゅっと瞼をつぶって(わかってるよ。・・・)そう言い聞かせるがやっぱりという思いが顔を覗かせて細い息を吐き出した。
私の机に突っ伏して肩でため息をするはるを尻目に冬服の着回し術と題した特集ページを読む。あ、このブーツとスカートの色合いちょっといいな。(・・・・・・・・・やれやれ)机に頭を乗せたまま落ち込んでいるはるに言葉をこぼした。
「あんまり深く思いつめるのはよくないって」
「・・・、えっ?」
「はるは自分本位でいいんじゃないかな」
良い方向に行っている。でもうまくいかない。その原因は真っ直ぐ走ろうとしているはるではなくて。(なんなの。一体何してんのあの男)おかしくさせている原因にこの苛々をぶつけにいきたい。と、そこでひとつ思いつく。
(・・・仕方ない。うん。だって見てられないし。うん。大丈夫。必要最低限を弁えて、うん)
騒ぐ心を鎮めるように呪文を口の中で唱えながら携帯を開く。(あーもうっ雑念きえろ)さっきの占いがチラついたが――開いたアドレス帳の中からた行の4番目に並んだ名前を取り出してたった今思いついた内容をメールに送った。チャイムが鳴る前に返信が届き中身を読むと、予想通りの返信にほっとする。早速前にいるはるにこの話を持ちかけた。
「ねぇはる。悪いんだけど今日の掃除当番代わってくれない?」
我慢強くないわたしの、小さな賭けと大きな期待を込めて。どうか結びついて。
6.5 ハートの色を聞かせてよ
15.0312