何々くんがすき。秘め事を打ち明けるその子を見て密かに意気込む。わたしがなんとかしてあげる。わたしがなんとかしてあげなきゃ。きゃあと盛り上がる輪の中でひとり使命感に燃えてぐっと拳を握る。共働きの両親に何かと頼られて育ち自発的に雑用を請け負い頼られることに最上の喜びを得ていた彼女はその後友達の好きな人から好意を持たれたりある男女を別れさせたり色々とやらかすのだが今はさておいて。

幼少期からのお節介焼きをぐっと隠し通し友人の恋を手も口も出さずに見守る――ことができなくて重たいため息を一言言って軽くさせようとしたりメールで繋げた場を取り持ったり。その自らの行動を振り返ったアルバイトの休憩時間。んー!と声にもならない葛藤がエリコの中でまたぶり返していた。掃除当番を任せてよかったのだろうかと掃き掃除の手間よりもそこに生じるであろう出来事を慮る。最初はこれで間違いないと思っていたが秒針が進むごとにそわそわと落ち着かなくなってきて、とにかく不安だった。余計な行動がまたダメにしたらと思えば思うほどに。忙しくしているときは考える暇もなく忘れられるが休日ならともかく今日は平日であった。だからか慣れた業務のちょっとした合間におしゃれな壁時計を気にする様子は周りの目にも些か怪訝に見られどうしたのかと心配され、シフトが同じ仁菜子にも具合を心配される始末で何でもないと愛想笑うのが精一杯で申し訳なく思っていた。「あの伊岡さんがおかしい」「オーナー、早退させた方がいいのでは?」片隅でそんな会話があったことを気が漫ろのエリコは知らない。

その次の日。押し付けてからずっと感じていた焦燥を悟られないように掃除の代行を感謝してそれとなく何かあったか尋ねることにした。「ノブナガと遊んだりしてダラダラしてたよ」いや聞きたいのはそこじゃなくて。久々のもふもふを堪能して嬉しそうに笑うはるに追及していいのか迷っていたら席に着けとチャイムに合わせて先生が教室に入ってきて話は打ち切られた。
なんで私が悶々としてる。取り除けないモヤモヤに少し眉間に力が入ったので、授業から解放された生徒が動き出し、聞きそびれた話を思い切って聞こうと席を立ったら廊下から呼び出しを受けて仕方なく向かうと驚きで思わず声が出た。裕太郎と学、それに蓮がいた。何事だとつい意識が後ろを窺う。教室のざわめきからはるの気配を探すも朗らかに笑う彼に緊張してわからなかった。

「なんか入れ替わってたみたい」

そう言って先ほどの授業で返却されたワークブックが差し出される。確かに返却時に自分のだけ戻って来なくて不手際でほかのクラスに紛れ込んでしまったようだと言われていた。受け取って名前を確認する。「わざわざどーも」放課後までに戻ってくるだろうという先生の見立てに向こうの落ち度だからとすんなり頷いたがこうしてすぐに手元に返り良かったとほっとして、そしてちらと見やる。たぶんこれだけではないのだろう。何かを探すように視線が揺れ動くのを見てそう思っていると学が「あれ〜? はるちゃんは?」と不自然すぎる尋ね方をする。内心でヘタクソと笑いながら答えようとした時。向き合う彼らがエリコの後ろを見ているのに気付き振り返ると深刻そうな顔をしたはるが歩み寄って来る。そしてじっと蓮を見つめて眉を曇らせた。

「一ノ瀬くん大丈夫? もしかして具合悪いんじゃない?」

えっ。思いがけない指摘は本人よりもまず周りが驚いた。朝からずっと一緒にいた2人はもちろん様子を気にしていたエリコも。何かの勘違いではないかと男ふたりは蓮を見る。いつも通りに見えていた蓮の顔はみるみるうちに赤くなりその指摘は正解だとわかった。

「うん。朝からボーっとして寒気もバーってあったけどガーって学校来ればなんとかなると思ってそしたら今は心臓がドーって」

今なんて言った?! 変なオノマトペを使って不調を伝える姿に大変だと慌てるはるとは裏腹に3人の胸中は同じだった。最後のは一体・・・。意味をはかりかね戸惑って蓮を見て固まった。心なしかはるに向ける眼差しが熱っぽい。具合で片付けられればいいのだが先ほどの発言が引っかかり反応できずにいれば「保健室行かないと!」その声にはっとしてようやく動き出す。
付き添う形で同行したエリコの目に映ったのははるの袖口を指先で掴む蓮の姿だった。



6.8 ミントブルーの窓から
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