黒子くんとお付き合いするお話
「会いたい・・・。」
ぽつり、と呟いた。
テツヤくんとどれくらい会ってないんだろう。
・・・三週間ぐらい前?
つまらない。・・・違う、寂しい。
会いたいー・・・、よー。
うーん、電話してもいいかなぁ。
でも、でも・・・め、迷惑かも。
いやいや、でも、気を使わないでって言ってくれたし。
・・・よし、五回だけ、五回以内のコールで、出なかったら、諦めよう。
カチカチと操作して、アドレス帳を開く。
カ行・・・黒子テツヤの文字を見ると、ドキンっと胸が高鳴った。
カチと発信を押す。
プルプル プルプル
心臓が走ってるときみたいに、ドクドクって鼓動を打って、携帯を握る手に力が籠った。
「・・・・はい、もしもし?」
プツっとコールを音が切れて、ずっと聞きたかった声がすっと耳に入って来た。
声が聞けたことが嬉しくて、泣きそうになった。
「・・・もしもし?名前ちゃん?」
テツヤくんの心配そうな声に、ハッと我に返った。
「・・・あ、も、しもしもし?ご、ごめんね。急に電話して・・・」
「いえ、大丈夫ですよ。何かあったんですか?」
「えっ・・・、いや、ただ、その、」
「はい。」
なるべく、優しい声で相槌をしてくれるテツヤくんの声に、変な緊張感とか寂しさがふわぁーと風が通るみたいに、消えて行く。
だから、素直に舌が動いて、私の気持ちが、本心が、電波に乗って、テツヤくんへ伝わる。
「テツヤくんに、会いたい。」
「・・・・・・。」
少しの沈黙のあと、ガチャとドアを開くようなが音がした。
「い、言いたかっただけ、ほんと、それだけ、だから。
気にしないで、ほんと、ごめんね。」
「じゃあ、」
「うん?」
「会いましょうか。今から。」
「え、今っ!?」
部屋にある時計を見ると、十時三十四分を差していた。
「あ、遅すぎますね。」
「そいう問題じゃなくて、テツヤくん、疲れてるでしょう?」
「・・・まあ、否定しませんけど。
そんな事より、あんな寂しそうな声で、会いたいって言われたら、会いたくなります。
今すぐ抱きしめたいです。」
「なっ!?」
テツヤくんの発言にびっくりしながら、さっきからどことなく、いろんな音が聞こえる。
コツコツと歩く音、ひゅーひゅーと風の音、ざわざわと揺れる何か・・・葉っぱの音?・・・というか、この音って、もしかして、
「テツヤくん、今外に居る?」
「はい、そうです。居るっていうか、名前ちゃんの家に向ってます。」
「現在進行形!?」
「現在進行形です。」
「え、あ、ちょっと、待てっ!すぐ、私も、出るから!」
今の私の格好は、ロングTシャツに、ジャージを履いている。
これじゃあ、寒いから、ジャージの上を羽織って、自室を出て、玄関へと静かに、だけど、急いで、向う。
普段ドタドタと降りる階段も、スッスッとなるべく音を立てないようにする。
玄関を開けるのが、ちょっと、難しい。
「名前、どこ行くの?」
(おうふ・・・、ママン。)
後ろから、少しだけ尖った声で、お母さんが聞く。
「・・・て、テツヤくんに、会いに。」
(・・・私の口って、ほんと素直なんだから。)
「・・・そう。あんまり遅くなっちゃダメよ。」
そう言って、寝室に戻ろうとするお母さんに私は、きょとんとして、聞き返してしまった。
「え、いいの?」
「ふふ、最近寂しそうだったものね。
名前の、そんな会いたくてしょうがないって顔されたら、止める気も失せるわ。」
お母さんはにっこり笑って、娘の恋路を邪魔する気はないものと言った。
「お母さん・・・、うん、遅くならないように、帰ってくる。」
「気を付けてね。母さんたち、もう寝るからね。電気お願いね。」
「うん、分かった。」
今度は堂々と扉を開けて、外に出た。
道路に出ると、「名前ちゃん。」と声がした。
左を振り向くと、暗い視界の中に水色の妖精のテツヤくんは「こんばんは。」と言って、ふんわりと微笑んだ。
その笑顔に、きゅんと胸が疼いて、もう、我慢が出来ず、「こんばんは。」とも返せず、すぐに、テツヤくんに抱きついた。
ここが家の前のことなども気にせずに。
「名前ちゃん・・・!」
「テツヤくん、テツヤくん、テツヤくん。」
「はい、僕はここに居ますよ。」
ぎゅうううっと背中に腕を回して、力いっぱいテツヤくんを抱きしめる。
テツヤくんも私のことをぎゅうと優しく抱きしめてくれた。
*
「ご、ごめんね。急に。」
「いいですよ。僕も会いたかった。」
玄関の小さな階段に二人で座りながら、話す。
私は少しでも、テツヤくんに触れたくて、手を繋いでもらった。
「テツヤくん、明日も部活あるよね?」
「ありますよ。」
「・・・ほんと、ごめん。」
自分で会いたいって言ったけど、やっぱり申し訳ない。
ほんとに、テツヤくんどう思われるじゃなくて、ほんと申し訳ないです。
会えてうれしい。でも、ごめんなさい。
我まま言って、ごめんなさい。
でもね、正直ね、心のどこかで、分かってた、期待してたの。
テツヤくんに、会いたいって、言ったら、会いに来てくれるだろうって、来れなくても、我まま言っても、
私のこと嫌わないって、迷惑だと思っても、聞くだけ聞いてくれるって分かってた。
ずるい、私で、ごめんなさい。
一々こんな、めんどうで、ごめん。
「名前ちゃんは可愛いですね。」
「えっ・・・!?」
「僕ために、自分のために、こうやって、会うだけのなのに、たくさんたくさん考える、名前ちゃんは可愛いです。
そいう所好きですよ。」
「・・・テツヤくんの、そいう、優しさに助けられております。」
「僕は名前ちゃんだから、会いに来たんですよ。」
「・・・うう、ありがとう。」
一人で勝手に考えて、傷つこうする、でも傷つきたくないって不安に思って、
テツヤくんはそんな私を可愛いって言って、受け止めてくれる。
めんどくさい女なのに。
安心させてくれるように、頭撫でて、笑ってくれる。
(ありがとう、テツヤくん。)
「でも、ほんと、我まま聞いてくれて、ありがとう。」
私が苦笑いしながら言うと、ふむと考え込むように、目線を上に上げた。
その様子を不思議に思いながら、私も同じように視線を上げた。
目に映ったのは真っ暗な空だった。
星も特に見えない、夜の空だ。
ぼーっと見上げていると、繋いでる手がぎゅうっと力を込められたことに気付いて、
テツヤくんの方を向くと、テツヤくんも私の方を向いていた。
「テツヤくん・・・?」
「思いつきました。」
「何を?」
「名前ちゃんが我まま言っても、大丈夫になる方法があります。」
「う、うん?」
テツヤくんが何が言いたいのか、イマイチ分からず、首を傾げた。
「名前ちゃんは我ままを言う事に抵抗があるんですよね?」
「え、あ、うん、まあ・・・テツヤくんに迷惑かけちゃうし。」
「それを考える必要がないようにする、方法を思いつきました。」
「・・・そんな方法あるの?」
人に迷惑をかける、我ままを言うのに、相手を気にしなくて良い方法なんてあるんだろうか。
「はい、あります。」
「なになに、教えて?」
じっとお互いに見つめ合って、テツヤくんが口を開く。
「僕と名前ちゃんがそいう関係になればいいんです。」
「え?・・・そいう関係?」
「はい。つまり、僕たちが恋人同士になればいいんです。」
「うん!?え、どうして、そうなったの・・・?」
「だって、彼氏は彼女の我ままを聞くのが役目でしょう?」
「えっ!?・・・そいうもの、なの?」
「違うんですか?」
「いや、・・・知らないけど。」
「・・・僕はそういうものだと、思っていました。」
「でも、女の子からしたら嬉しいかも。けど、」
「けど?」
「彼氏の我ままを聞くのは、彼女の役目になるね。」
「・・・確かに。」
「ふふ、でも、彼氏だけ我まま聞くより、お互いの方がいいよね。」
「・・・そう思いますか?」
「うん、どっちかに寄りかかるだけじゃ、嫌じゃない?
相手の重荷になりたくないし、お互い様なら、我まま言うのも、抵抗ないと思うの。」
「そうですね。じゃあ、僕も我まま言います。」
「うん!?」
「名前ちゃん、僕と付き合って下さい。」
「え、えあ、あえ?」
「彼女は彼氏の我ままを聞くのが役目でしょう?」
「え、でも、私今、テツヤくんの彼女じゃないよ?」
「・・・・・・細かいことを気にしたら、負けです。」
テツヤくんはうっ、と一瞬眉をしかめて、開き直ったように、真顔でそう言った。
「ふふ、そうだね。気にしたら、負け・・・だよね。
じゃあ、お付き合いさせてもらいます。」
「はい、今から名前ちゃんは僕の彼女ですから、我まま言いたい放題です。」
「それを言うなら、テツヤくんも我まま言いたい放題だよ。」
「・・・これじゃあ、名前ちゃんを甘やかせれないです。」
「えっ・・・十分、甘えてますよ。」
不満そうにするテツヤくんに、笑いかけて、白い頬に軽くキスをした。
「・・・えっ。」
「あっはは。テツヤくん可愛い。」
不意打ちにきょとん、とした顔して、私を見るテツヤくんが可愛いくて、声を出して小さく笑った。
「・・・。」
「・・・?」
ずっと繋がれていた手が解かれて、その手が私の肩を抱き、
そのままテツヤくんの方に引き寄せられて、テツヤくんが耳元で囁いた。
「て、テツヤくん?」
「言い忘れてました。」
「な、なにを?」
「名前、好きですよ。」
「・・・なっ!?」
「赤いですよ、顔。可愛いですね。」
クスクスといたずらっ子のように笑う声が耳元で聞こえる。
意地悪な音色の笑い声だけど、その笑い声に心臓が早くなった。
「・・・テツヤくん、不意打ちは卑怯。」
「最初にやったのは、名前ちゃんですよ。」
*
「じゃあ、僕行きますね。」
「うん、今日はありがとう。おやすみなさい。」
「はい、おやすみなさい。」
「・・・。」
「・・・。」
別れの言葉を口にしたのに、お互い見つめ合ったまま、その場を離れなかった。
頭ではこのまま別れて、明日のために寝なければならないと分かっている。
でも、少しでも二人で居る時間を共有したくて、中々自分からは離れれない。
「テツヤくん。」
「名前ちゃん。」
名前を呼び合って、二人で苦笑いをした。
「離れがたい・・・って、こいう事ですね、きっと。」
「そうだねぇ。」
「最後に抱きしめて、別れましょうか。
明日も学校があります。」
「うん。」
おいで、と言うように、広げられた腕に飛び込んだ。
背中に回される腕、頭を預ける胸板、テツヤくんに触れるところから、力が抜けるように、ほっとした。
(ああ、このまま寝てしまいたい。)
「・・名前・ちゃん。」
「うん?」
「そんな気持ち良さそうな顔しないで下さい。
余計に離れがたいです。」
「・・・それは無理な相談です。」
またお互いに、苦笑いをしあって、今度こそ、手を振って、別れた。
一人になって、寒いと感じた。
でも、心は温かくて、我ままを言って良かったと思った。
prev もどる next