一日目


「わあ、ギリギリだったね」
「そうだね」

弾む息を整えて、私は空いている席に腰を下ろした。
お昼を急いでかき込んだ友達はお腹をおさえながら、辛そうにしているので、
気休めだけれども背中を撫でてみた。

「ありがと。このガイダンス出ないと、参加出来ないからね。必死だった」
「だよね、二限あんなに伸びるとは思わなかったし」
「ほんとね」

そんな会話を挟んでいる内に、説明を行う人が話し始める。
急いで配られた資料に目を通しつつ、メモを取るためにペンを筆箱から出す。

説明に耳を傾けているつもりだが、
頭の中では別のことを考えてしまっていた。

***

「お姉ちゃん何か疲れてない?」

夜の世界で働いている、私のお姉ちゃん。
朝方に帰ってくるから生活リズムは真逆だけど、それなりに上手くやっている。
詳しいことは分からないが、いつもよりも疲れた顔をしていれば、心配もする。
お姉ちゃんは髪を崩しながら、へらりと笑った。

「んーん。何でもないよ」
「ほんとに?」
「うん。ほら、朝の支度あるんでしょ」
「え、うん…」

お姉ちゃんは私の背中を押すと、お風呂場へ直行してしまった。
基本的にお姉ちゃんの仕事の愚痴は聞いたことがない。
やっぱり、妹だから頼りにされてないのかな…。
そりゃあ、話聞くくらいしか出来ないけど。

嫌な予感が的中したと言えばいいのか。
お姉ちゃんの大事な商売道具がちょこん、とテーブルの上に置いてある。
お客さんの個人情報がいっぱい詰まった手帳。
接客する際にはとてもとても大切なものらしい。

こんな凡ミスのようなことをするとは…お姉ちゃんは大分疲れているみたい。
私は以前お姉ちゃんにもらった名刺を財布から取り出して、脱ぎ掛けた上着を着直した。

「さてと、行きますか」

***

お姉ちゃんに無事手帳を届けて、お礼を言われながらも早く帰れ帰れと背中を押されて、
帰ろうとしたまでは良かった。
押されて勢いのまま、誰かにぶつかった。固くて、何だか体温が熱い。
そして、何か大人な香りがした。少しくらくらする。
香水か、何かだろうか。

私は謝りながら顔を上げた。私の後ろで、お姉ちゃんが小さく悲鳴を上げた。
若干苛立ったような外国人さん…てか、白人さんが目に入るまでの呑気な思考回路はそこで停止して、
あ、本能的にヤバい人だ。
そう思った瞬間、目を逸らしてエレベーターと続く廊下へ一目散に行こうとしたが、
無理やりなのに嫌味なほど似合う手つきで、綺麗な笑みを浮かべながら、外国人さんは私の肩を抱いた。
大きな手に触れられて、ぞわぞわと寒気のようなものが走った。
心臓もばくばくして、思わず服の上から胸をおさえる。

「おい、今夜はコイツを付けてくれ」

口ごもる黒服を予想したように凄みでビビらせて、私を庇おうと外国人さんに甘い声を出すお姉ちゃんは
もう一人の白人さんに捕まってしまった。

慣れないメイク、ドレスを身にまとって、白人のお兄さんの隣に座らされても、
何をしたらいいか…。
華やかな空間に、ただ石のように固まって座っている私は異質だ。
お姉ちゃんは私を気にしながらも、ちゃんと接客をしていて、素直にすごいと思った。

ナッシュ、と呼ばれる白人のお兄さんは私以外にも、もう片方にも女の子を侍らせていた。
固まっている私と違って、にこにこと愛想よく笑っている。すごい。夜の蝶の皆さんすごい。
私は心から拍手を送った。

すっごい怖い人たちに囲まれて、心臓は相変わらずばくばくしてるんだけど、
時々聞こえる、意外にも優しい響きのナッシュさんの笑い声に、ちょっと別の意味でどきどきする。
逆に、一番大きい人の笑い声は苦手だ。なんかクッパみたい。

不意にナッシュさんがこちらを向いて、じっと私を見下ろす。
無遠慮に顎を掴まれ、居心地悪い視線に耐えかねて目をぎゅうっと瞑る。

「…やっぱ、違うな」
「…」

ふと言われた言葉は英語だった。発音良すぎて、よく分からなかった。
さっきは日本語だったのに。
てか、ナッシュさん日本語上手。すごい。

「…」
「え」

それは、もう自然に。
今からベッドルームに行くように、自然の流れのように、お姫様抱っこされた。
呆然する私なんて気にしもされない。

「ほお、ナッシュ珍しいな」
「まあ。たまには、こういうのも摘まみたくなるだろ」

品のない笑みに、英語が分からなくても、何となく内容は分かった。
一見は私はお姫様抱っこされているように見えるけど。実際は逃げたら許さないとでも言うように、じわじわと痛みが生まれる加減で抱えられる…と言うか、肩を掴まれている。

視界の隅でお姉ちゃんが動く気配がして、そんなお姉ちゃんに気付いたナッシュさんがニタァと意地悪く口角上げる。

「お姉ちゃんの相手はまた今度な」
「ま」
「大丈夫だよ。私は大丈夫だから」

私はお姉ちゃんに被せるように続ける。
お姉さんがナッシュさんに噛みつこうとしたとき、ナッシュさんの目の色が変わった気がした。
そのとき、何となく思った。この人、傷付けることに容赦ないって。
そりゃあ私たちはめちゃくちゃ仲のいい姉妹ではないけれど、
お姉ちゃんの様子に気付いていたのに、のこのこ来てしまった私が悪いのだ。

私の所為で、お姉ちゃんまで傷付けるわけにはいかない。
こっちの大学に通いたくて親に反対されたとき、唯一味方してくれたのはお姉ちゃんだった。
お姉ちゃんの家に転がり込む形で、進学して、恥ずかしいから言わないけど、
それなりにお世話になっているのだ。

「へえ、美しい姉妹愛だなぁ」

嫌味を囁くように私の耳元で言うと、ナッシュさんは心底楽しそうに笑う。
あ、ナッシュさん片方の口角の方が上がってる…。

***

エレベーター、タクシー、ホテルを見事に連れられてしまった。
逃げるタイミングが驚くほどなくて、気付いたら私はバスルームの中に居た。
どれがシャンプーなのか、よく分からない。
一つ一つ手に取ってみるが、…やっぱり分からない。あと、髪の崩し方と、ドレスの脱ぎ方が分からない。

妙に小ざっぱりした顔の自分と目が合う。
うん、こっちの方が落ち着く。
ドレスをもう一度着るのは骨が折れそうだったので、
私はバスタオルを巻いて、ドライヤーで髪を乾かして居た。

温風はなんだか心を落ち着かせてくれる気がした。
と言うか、情けない話私は今までこう言った経験がないので、イマイチ実感が湧かない。
やっぱり、初めては痛いのだろうか。と言うか、酷く抱かれるのだろうか。

もんもんと考えていると、いきなりバスルームの扉が開いた。
酷くイライラしている様子のナッシュさんだった。
私からドライヤーを取り上げて、さっきみたいに無遠慮に私を見下ろすと、
笑うように鼻を鳴らす。

「これじゃ、ガキ抱くのと変わんないな」
「…」

バカにされたのは分かる。けど、英語分からない。
ムッとしている間にも、ナッシュさんは私のことなんて気にせずに、
私は今度こそ、ベッドに運ばれた。

意外にふかふかのベッド…なんて、呑気なことを考えている場合ではなかった。

「…!」
「へえ、意外にデカいな」

今度は日本語。
ナッシュさんはバスタオルに前触れもなく指をかけて、一気に私を開けさせた。
今日会ったばかりの人、男の人、その人の前で裸になる。
そんなの、そんなの恥ずかし過ぎる。
本当に今頃になって、私は自分が今から何をされるか実感が湧いてきて、
顔や耳が熱くなって来た。

「なんだ?今頃になってビビって来たのか?」
「…」

図星。余計に顔を赤くする私を、ナッシュさんは愉快そうに見る。
腕を引かれたかと思うと、胡坐をかくナッシュさんの上に座らされた。
肌に触れるナッシュさんの服の感触に、自分だけが裸なのを再確認してしまうし、
より一層恥ずかしくなるし、もういやだ。

「んぐっ」
「おいおい、泣くのは早くねぇか。
 お前はどこもかしこも、小せぇな。ほら、舌も小さくてみじけぇ」

ナッシュさんの長い人差し指と中指が私の口の中を好きに触れたと思ったら、
舌を挟まれて引っ張られる。
苦しくて、変な声が出て、涙も出て来た。

「日本人は舌が短いから、英語下手なのか?」
「…ん、んむ…」

たった指二本でも、こんなに苦しいものなのか。
口の中の異物感に耐えれず、吐き気に襲われそうになる。
舌を動かしたり、顔を背けようとしても、もう片方の手で後頭部を掴まれて、
結局逃げられない。

「ちゃんと指濡らせねぇと、痛い思いするのはお前だぜ」

ぐっと、喉を抉る勢いで、長い指に舌をおさえられて、苦しい。
苦しくて頭が回らない所為かは分からない。
どうして、私はナッシュさんの指を濡らさないと、痛い思いをするんだろう。

ナッシュさんに対する恐怖よりも、早くこの苦しさから解放して欲しかった。
素直に首を傾げて、分からないと伝えれば、ぐっぐっと動いていた指が止まって、
ナッシュさんの表情も固まった。

初めて見る表情だったが、すぐに涙が滲んで一瞬しか見えなかった。

「…なるほど。汚したくなる気持ちも分からなくねぇな」

やっと、口から指が抜かれて私は勢いよく咳き込む。
聞き取れなかったナッシュさんの言葉を気にする余裕もなかった。

「すっかり冷えちまったな…」
「…」

ナッシュさんはぬいぐるみを抱くみたいに、身体に力の入らない私を抱きしめて、
そのまま押し倒す。
喉や口に残る異物感に気を取られている私は、ナッシュさんの行動にワンテンポ送れて反応してしまう。
遠慮のない触れ方ばかりしてきたのに、意外にも優しく胸に触れるナッシュさんに意表を付かれる。

感触を確かめるように、濡れた指が私の胸に沈んで、ナッシュさんが触れたところが、
やらしく私の目に映る。
両手を広げて揉まれる行為よりも、その行為を見る方が耐え切れなくて、私は脇を締めて
胸元を隠すように手を組もうとするが無駄な抵抗で終わる。
しかも、胸を寄せるような形になった。ナッシュさんは目を細めて、口角を上げる。

「なんだ?誘ってんのか?」
「…」

ナッシュさんは首を横に振っても、気にしない。
訊いて来たのはそっちの癖に。
大きな手で揉まれることが気持ちいいか分からない。
でも、思いのほか温かいナッシュさんの手に触れられ、じわじわと熱が移ってくるようだった。

不意にナッシュさんが乳首に触れる。固くて長い指、人差し指がつんつんとつつくにしては優し過ぎる加減で、何度も何度も刺激を送る。そんな弱い刺激がだんだん腰を浮かせしまうよな刺激に変わる頃には、乳首はぷくりと固くなっていった。

ナッシュさんは変化を見逃さなくて、快感を覚え始める私を楽しそうに眺める。それはまるで、面白い実験材料を手に入れた科学者みたいに不気味な笑い方だった。

そして、胸元に顔を近づけたと思ったら、主張する乳首を口に含む。想像よりずっと熱い舌が乳首の周りを舐めたり、舌先でぐりぐりと押さえたり…初めての刺激に口から出したくもない声がもれそうになる。激しくはないけれど、確実に快感に飲まれていく刺激に、ひたすら唇を噛んで必死に耐えた。

ナッシュさんは私が無駄な抵抗をすればするほど楽しそうで、きっとナッシュさんの目に私は滑稽に映っているんだと思う。両方の乳首を弄ったり、舐めれたり、それだけでも耐え難いのに、ナッシュさんの私と色の違う目に見つめられると身体の奥の方がざわざわと落ち着かなくなる。

ナッシュさんの気が済んだのか、やっと胸への刺激をやめてくれた。ナッシュさんからの刺激はもうないのに、余韻でも残っているのが胸の先がじんじんする。ナッシュさんは躊躇うことなく、私の太もも手をかけて、ぐいっと私の足を広げた。

「や、だッ」
「…上のお口は我慢出来ても、下のお口はだらしがねぇな。なあ?」
「…ひ」

初めて他人に見られて、触れられる。しかも、こんな人に。ナッシュさんは乱暴ではないけれども、優しくもない手つきで私の秘部を擦る。引っかかることも無く、指先で擦られて、自分がどれだけ濡れているのかを嫌でも自覚する。

固い指先がぷつん、と私の中へ入ろうとするが、濡れていても緊張しているのか、恐怖のせいなのか、その指は押し返されることになる。ナッシュさんは指先を動かしながら、気に入らないように眉を顰めて、思案する様子でじっと私を見下ろした。

痛みを感じて私はまた唇を噛む。まだ痛みの方が我慢できる。未知の快楽の方が私にとって怖くて嫌なものだ。

「ちっ、仕方ねぇな」
「…?…え」

ナッシュさんが消えた。いや、消えてはいない。慌てて視線を自分の足の間へ向ける。そこには、私の秘部をな、舐めるナッシュさんが…

「やだ、はな」

ナッシュさんの頭に手を伸ばそうとしたときに、柔らかくでも強い刺激に襲われて、聞いたこともない声が私の口からもれる。自分でも驚いて口をおさえると、ナッシュさんは狙いを定めた獲物のように私を見上げる。

友達の話でしか聞いたことのない、自分の身体の敏感な部分を、ナッシュさんに舐められるだけで、こんな風になるなんて。自分でも触ったことがないのに。他人に無理やり暴かれることがこんなに怖くて、逆らえないものなんて知らなかった。

私が馬鹿みたいに感じているのに、ナッシュさんは一切乱れていなくて、舌先だってとても熱いけど乱暴ではない。抵抗したいのに、出来ない自分も情けなくて涙を流して、与えられる快感を受け取るしかなかった。

「あ、あっ、やっ」

短い呼吸になって、だんだん唇にも力が入らなくなってきた。苦しい。気持ちいい?これが?よく分からない。でも、息することが苦しくて苦しくて、追い詰められて、そして最終的には首を絞められる、ように息が出来なくなって、変な浮遊感を味わった。


「……取り敢えず、やっと一回目だな」

息を乱して、脱力したまま投げ出している私の身体を見下ろしてナッシュさんは舌なめずりをした。口元に付いている液体が生々しい。ナッシュさんは袖で雑に拭うと、私の身体に指を滑らせる。その瞬間に、ぴくりと腰を浮かせてしまった私を見下ろして、ナッシュさんは満足そうに綺麗な笑みを浮かべた。

「おい、まだ寝んじゃねぇぞ?ちゃんと快感を覚えてもらうんだからよ」

prev もどる next
ALICE+