06 やがて日が落ち、態勢を立て直す為、承太郎達は館から離れた。 だが、自身にとっては好機のこの状況をDIOが見逃すはずが無い。 「………」 九龍を連れ、市街地へ降り立つと、車道には多くの車が走っている。 ジョースターの血筋は車に乗って逃走した。 「自動車か…」 たまたま近くに停まっていた1台の車へ触れ、DIOは感慨深げに呟く。 「なかなかのパワーとスピードだ。このDIOが生まれた時代は馬車しか走っていなかった」 「馬車…?」 両腕に無垢なる皇子の首を抱き、九龍が父に訊ねる。 父親が百年も前の時代を生きた住人である事実を、九龍は知らない。 DIOは触れていた車の関係者らしき男の腕を完膚なきまで折り、九龍と共に後部席に乗り込む。 高級そうなタキシードを身に纏った先客は愛想笑いを浮かべながら、やんわりと抗議するが… 「ブツブツ行ってないで前座席へ行け。運転して貰おう…!」 今度はベキンと音を立て、タキシード姿の男の前歯がへし折られる。 「おげぇぇぁぁぁ〜〜っ」 「き、貴様、何者だァ──ッ。ワシに、こ…こんな事して許されると思っちょるのかッ!?」 「もう一度言う…運転しろ」 今度は鼻を掴まれ、バキバキ…と音を立てて砕かれた後、運転席へと投げ出される。 危機を感じた男は堪らず車から降り、DIOから逃げ出すが、何故か逃げられない。 二度の逃走失敗に、DIOの命令に逆らう事は不可能だと男は悟る。 「じょういんぎいん…だって。ね?何かな、じょういんぎいん…」 目の前の凄惨な光景に顔色一つ変えず、見えない何かと戯れている幼子にも、恐怖を感じていた。 一体何なのだ、この親子は… 「軽トラックに追いつくまで飛ばせ。追いつけなければ…殺す」 「はっ、はい──ッ」 「わぁ…」 車が走り出し、九龍は窓の外に釘付けになる。 キラキラ光って、とても綺麗だ。 「楽しいか?九龍」 「…うん」 男の必死の運転で走り続けていた車だったが、車道の真ん中でピタリと止まる。 あちこちからクラクションが鳴り響く道路。 車がまるですし詰め状態だ。 「じゅ、渋滞ですゥ〜夕暮れの帰宅時間帯はギシギシなんですゥ」 「行け」 「い…行けと言われても、これでは……」 無理難題を吹っ掛けられ、男は戸惑う。 だが、人である事をとうにやめたDIOには、人間の常識など関係ない。 「歩道が広いではないか…」 その言葉の意図を悟り、男は戦慄する。 「ほ、歩道!?仕事帰りの人で溢れていますよォォォ!?」 「関係ない。行け」 車道と同じく、歩道も人がごった返している。 こんな中を車で突っ込んだらどうなるか、火を見るより明らかだ。 しかし、命令を拒否すれば男は先程よりもっと痛い目に遭わされるか…殺される。 自分の命と他人の命──… 「きゃああああああ!?」 前者を選んだ男の運転によって、大勢の人間が轢かれていく。 車体の頑丈さや走行可能な速度が並の乗用車と段違いな高級車である事が災いし、辺りは一面、地獄絵図と化す。 「いっぱい…だね。何人、いたのかな」 非現実的な出来事と自身が犯した罪。 そして、この車が停まれば殺されるという宣告。 耐え切れなくなった心は、九龍の無邪気な言葉でとうとう砕け散った。 渋滞を抜け、車間距離の広い道路へと踊り出る。 「…九龍」 「なあに、ダディ」 「ずっと先にいる車に追いつきたいんだ。パパを助けてくれるな?」 前方を指差し、もう片方の腕で自身を抱き寄せる父を見上げ、九龍は微笑む。 「うん…」 一方、ジョセフ達は信じられない速度で現れた高級車の存在に驚いていた。 「なんじゃあ、あの車は!?」 「まさか、あれがDIOのスタンドなのか…!でも…」 館から逃げる直前、DIOのスタンド能力は超高速ではないと感じた。 ならば、これは何なのか──… 何にせよ、このままでは追いつかれる。 「…いたな」 九龍のスタンドを使い、ようやく姿を捉える事が出来た。 …が、世界の射程距離にはまだまだ遠い。 すると… 「…!花京院の…!!」 法皇の緑が車のガラスを挟んでDIOの真横に出現する。 「DIO!喰らえッ!」 「フン…」 花京院の奇襲攻撃を指1本で難なくかわしたDIOだったが… この距離は世界の射程距離外であっても、法皇の緑の範囲内。 今回はDIOのみが標的になり、車は後部席の周囲が損傷するだけで済んだが、もし次に車を狙われたら近付けなくなる。 もっと手っ取り早く、彼らに接近する方法はないのか。 …そう、彼らの足を止める手段。 「──止まれ」 DIOの新たな命令に、男は目を見開き、震えながら後ろを振り向く。 刻々と、男が最も恐れていた、死のカウントダウンが迫っていた… 「さあ九龍、次はパパが投げるこの玩具で遊ぼうか──…」 >>幼児期に色々ショッキングな光景見せられて、主人公は将来歪んじゃうと思います。 |