07
 

「ジョセフ…次はお前だ」

花京院を殺し、ジョセフの方へ向き直ったDIOは継ぎ接ぎのある自身の首を晒す。

「このジョナサンの肉体が完璧に馴染むには、やはりジョースターの血が1番しっくりいくと思わんか?」
「DIOッ!」

息子を早くに失い、孫である自身を育ててくれた祖母が愛した男の身体。
それを、この男は──…

挑発だと頭では理解していても、ジョセフは我慢ならなかった。

「お前は血を吸って殺すと予告しよう」

花京院が命懸けで暴いたDIOのスタンド能力…
厄介な能力だが、『ジョースター』の血を持ち、波紋の力を持つジョセフなら1つだけ勝機がある。


「ど…どうした?打ってこないのか、DIO。わしの血を吸うんじゃあなかったのか?」

殴り掛かってきたDIOのスタンドはピタリと動きを止め、自身の体にトラップを仕掛けていたジョセフは挑発を返す。
互いに用意周到な策士同士、生半可な策は通じない。

「………」

現にDIOはジョセフの服の下に巻き付いた波紋を流したスタンドを見破り、ジョセフはDIOのスタンド能力の欠点を言い当てた。

そして──…

「先程の車の超高速…その子供のスタンドだな?」

DIOの腕に抱かれた子供。
あの写真に写っていた、星型の痣を持つ少年だ。

「フフ…ジョセフ、気付いているのだろう?九龍は、ただのスタンド使いの子供では無い」
「!」

ジョセフが一瞬だけ見せた、図星を突かれた表情をDIOは見逃さない。
九龍の服の襟を下げ、首の痣をジョセフに見せ付ける様に抱き直し、下卑た笑みを浮かべる。


「これは、このDIOの息子!奪い取ったジョナサンの肉体を使って産ませた子供だ!」


「ッ…なんという事を……」

百年も昔に死んだ人間の体をどこまで冒涜するのか、この男は。

亡き祖父同様に、ジョセフは生まれた子供が憐れでならなかった。
生気の無い、虚ろな瞳の子供。
まだ善と悪の区別もつかない幼子を、DIOは一体どう育て、何に利用してきたのか。
考えるだけで恐ろしくなる。


「『隠者の紫』AND『波紋』ッ!」
「くどいッ!波紋なんぞ、触れなくても攻撃は出来るわッ!」

世界に波紋が触れれば、スタンド越しにDIOがダメージを受ける。
だが、DIOは世界で屋根の煙突を破壊し、瓦礫を飛び道具にしてジョセフを襲った。

しかも、幼子の手を汚して…

「九龍。次はこれだ」
「うん…」


ドスドス!ドス!ドス!

「何ィ!?…うげっ!」

そのまま吹き飛ばされ、
街中に落ちたジョセフを、すかさずDIOは追撃する。

すると、そこには双方にとって意外な人物が待ち受けていた。


「ジジイ…」
「じょ、承太郎ッ!」

「いい所に現れた。しかし、まずはジョセフから…」

ジョセフが必死になって孫が世界の射程距離の範囲内に近付く事を制止するのは、DIOにとって好都合。

「隠者の紫!」

承太郎に世界の能力の正体を告げ、まるで苦し紛れの様に、ジョセフはDIOに向けてスタンドを発動させる。
少しでもDIOと承太郎の距離が縮まらない様に。

──防御にわざわざ世界を使うまでも無い。

「九龍」

父の意図を察し、九龍はこちらに向かってくる茨にスタンドを使う。

「…!隠者の紫が動かん!?いや…動きが遅くなっている、だと?」

そこでようやく、ジョセフは九龍のスタンド能力のカラクリに気付いた。
父親と同じく、息子の方もまた、超高速などでは無く時間を操っているのだと。
こちらの方は、『対象物の時間の速さを操作する』

「さて…これだけあれば充分」

DIOの世界によって、時が止まる。
DIOだけが自由に動ける『世界』
他の者は何が起こっているのか、知覚する事も出来ない。

「ジョナサンの孫…ジョセフ。これで、貴様は死んだ!1秒前…ゼロ」

──時は動き出す。
突如、眼前に現れたナイフはジョセフの胸を貫く。

「ッ!!うぐっぐぁぁ…」

その光景は承太郎の怒りを煽るには、充分過ぎる程のモノだった。


「次は、承太郎!貴様だ」
「……DIO」



††††††††


え、あの日の事?
知ってるでしょ、僕あの時、見た目も中身も3歳だよ。

…だからもう、ほとんど覚えてないよ。

確か承太郎とダディが戦ったんだよね。
え?その前?
何かあったの?
覚えてないならいいって…そういうの、余計気になるって言うんだよ。
ま、いいや。

一応、これがあの日の記憶かなーって記憶はあるんだ。
ダディが承太郎達に…
夢なのかな、なんて思ったりもしたけど、あれって現実だったりするのかな。
あーまた!
こういうの、はぐらかしたって言うんだよ。

…という事は、現実だったんだね。

でもさ、何で急にそんな事、訊くの?
あ、ちょっと待ってよ!


──承太郎!


††††††††



承太郎のスタープラチナが激闘の末、DIOの世界に打ち勝ち、全身に亀裂を入れた。

スタンドのダメージは本体である人間にダメージを与える。
吸血鬼とて例外ではない。

つまり──…


「ば…馬鹿なッ!こ、このDIOが…このDIOがァァァァァァ〜〜〜ッ!」

スタンドのダメージが跳ね返り、DIOの全身は縦に真っ二つに裂けた。
吸血鬼の弱点、頭部にダメージを受けたDIOは、二度目の死を迎えたのだ。

「このまま朝日を待てば塵になる。テメェの敗因は…たった1つだぜ、DIO。たった1つの単純な答えだ」

自身も全身から血を流し、それでも承太郎は立っていた。
息を切らしながら、承太郎は語り続ける。

「テメェは俺を怒らせた」



全てが終わった。
…いや、まだ終わっていない。

祖父の遺体がある場所まで戻った承太郎は、取り残されていた人物へと視線を向ける。

「………」

首が無い自身のスタンドに抱かれ、微睡みの中に居る幼い少年。
頭が無ければ、当然、目も無い。
なのに何故か、値踏みされている様な視線を承太郎は感じていた。


>>今も未来も真実を知らない方が幸せ、が多すぎる主人公。

 



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