08 『こちらSPW財団第2号車。ただいまAL NIL通りを北へ移動中。DIOの死体は回収した…繰り返す、"DIOの死体は回収した"』 医療設備が整ったSPW財団の車に回収され、承太郎はジョセフやDIOの遺体と共に車内にいた。 そして、もう1人。 「………」 承太郎は今、守護するスタンドから奪った幼児を腕に抱いている。 守る対象を奪われたスタンドは承太郎を攻撃してくる訳でもなく、周囲をふわふわと浮遊しているだけだった。 『今のところは』承太郎が主に危害を加える気が無いと察したのだろう。 何も知らないのか、子供はすっかり夢の中だ。 その父親、DIOから血を抜き、彼が奪った血を祖父に戻すと、祖父は意識を取り戻した。 やがて車は承太郎が指定した全ての条件を満たす場所に到着した。 他の建物に朝日の光を遮断されず、人気の無い場所。 其所でDIOを、この世から完全に消滅させる。 眠る子供を車内に残し、承太郎とジョセフはDIOの死体を持って外に出る。 「これで終わったな…」 日の光を浴び、全身が灰になって崩れていくDIOを見て、承太郎は感慨深げに呟く。 「DIOには、皆が貸していたのだよ。百年前から大勢の人間があらゆるモノを貸していたのだ」 「戻って来ねえモノが…多すぎるがな」 今回だけでも、多くの犠牲が生まれた。 承太郎と旅をした仲間達も。 「ああ、多すぎるな。そして、大きすぎる…」 承太郎はDIOの子を残した車を見つめる。 DIOが、承太郎達の先祖の肉体を借りて作った子供。 もし母が回復しなければ、今回のジョースター家のスタンド発現の元凶…殺さなければならない相手はDIOではなく、あの子供という事になる。 たとえ違っても、父親を失って今後どう生きていく? その後、車に戻った承太郎達はSPW財団の支部に向かった。 別の車両に乗せられていたポルナレフと再会し、傷の治療を受けた。 手当ての傍らで財団の人間からホリィの回復を聞き、今後の事について話し合う。 一度、DIOの拠点であった館に戻り、調査を行う事。 もう1つは…DIOの子供、九龍の処遇についてだ。 「…ダディ?」 日が落ちると九龍は目を覚まし、己の近くにいた承太郎を父親と間違え、服の裾を引いた。 「……違う。俺はお前の親父じゃない」 「うん、違った」 体格は似ているが全くの別人だと、すぐに九龍は理解する。 「ダディ…いないの?」 「!」 やはり飛んできた問いに、承太郎達は息を呑む。 幼子に父親はもういないのだと、一体どう伝えるのが正解なのか、一行は未だに測りかねていた。 「な、なあ、お前の父親…本当にDIOなのか?」 ポルナレフは自分達の勘違いであってほしいと願いながら、九龍に質問する。 「ダディの事、みんな『DIO様』って呼ぶよ。ダディはDIOって名前なんだって…違うの?」 「…いや、違わない」 九龍の中で、DIOは『DIO』である前に『父』なのだ。 子供の認識を肯定してやりながら、承太郎が思い返していたのは、DIOとの闘いだ。 「………」 恐らく九龍は…DIOに利用されていた。 優しい態度を取りながらも、まるで道具の様に、息子のスタンドをDIOは使っていたのだ。 「──DIO…お前の親父は、もういない。死んだ」 「…え?」 「承太郎ッ!」 「オイ、承太郎!」 真実を話す時は慎重に決めると話し合っていたのに、承太郎の暴挙にも等しい行為に2人は動揺を隠せなかった。 「どうせいつかは知るんだ」 帽子の鍔に隠れ、2人にはその下にある表情を窺う事が出来ない。 ぼんやりとした目で自身を見上げてくる子供に目線を合わせ、承太郎は静かに語りかける。 「責任は取るつもりだ。…お前が平和に生きるなら」 DIOの館の調査を終え、ポルナレフは故郷フランスへ、承太郎とジョセフはホリィ達の待つ東京へと帰る。 九龍の処遇は、ジョセフがアメリカにある自分の家で引き取ると言い出した為、ひとまず彼らに連れられて東京行きの飛行機の中だ。 千葉の成田空港に到着する頃には、日本はちょうど日没の時間帯だった。 「ここ…どこ?」 「ん?ここは日本だ。お前さん、日本は初めてか?」 「わからない…」 「………」 妙な違和感を承太郎は覚えていた。 何故、九龍はいつも日が沈む時間帯に起きているのか。 元々DIOに倣って夜行生活を送っていたのかも知れない。 だが、エジプトと日本の間には6時間の時差があるというのに… 承太郎が思案を巡らせているうちに、ジョースター家に仕えるローゼスの運転する車が、空条家に到着した。 「おかえりなさい!パパ、承太郎!」 「ホ…ホリィー!!」 抱き合う父娘の横で、祖母は孫との久々の対面にはしゃいでいた。 「貴方が承太郎?大きくなったわねえー!それに、若い頃のジョセフそっくり」 「よしてくれ、おばあちゃん」 「性格は似てないわね。……あら?」 孫の逞しい肩を叩こうとして、スージーQはその後ろに隠れる存在に気付く。 大柄な承太郎の半分も背丈が無い小さな子供が、右手に見えない何かを抱え、もう片方の手で承太郎の学ランの布をギュッと握っている。 「…この子は誰かしら?」 >>「お父さん」とかの呼称で呼んでる相手の名前って物心ついてから知った記憶が… |