01

消えるはずの世界
 


「アッ…ん……」

病的な白さの肌、筋肉のついた逞しく均整な体躯。
まるでギリシャ彫刻の様に美しい男の上に跨がり、裸体の女は腰を振る。

「………」

女の喘ぎ声をバックミュージックに、寝台の近くのソファに座る九龍は静かに絵本を読んでいた。

絵本は2匹のネズミの物語。
4冊あるシリーズの中の、1番最初の1冊だ。
森の中でネズミ達が大きなタマゴを拾い、大きな鍋を使って大きなカステラを作る。

そして──…


「───!」

一際大きな声が響く。

弾かれた様に九龍が顔を上げ、寝台の方へ視線を移すと、上体を起こした男は女の首元に顔を埋めていた。
やがて男の口が女から離れると、女は糸が切れた人形の様にそのまま寝台から無惨に転がり落ちた。

「九龍」

寝台から降りた男が指先と口元を紅く染めたまま、九龍に近付く。
閉じた本を膝に乗せ、九龍が男を見上げると、九龍より明るいブロンドの髪が九龍の頬を擽った。
男は太く長い指で九龍の顎を掬い上げ、互いの唇を触れ合わせる。

「……っ…」

その瞬間、感情を宿さない碧の瞳が激情を映す。

「!」

口移しで与えられた『何か』は、いつも九龍の体に力を与える。
液体の正体が、こうして男から与えられる度に転がっている『人だったモノ』から得られる物だと、九龍は何となくだが気付いていた。

「は…ぁ…」

しかし、九龍にはどうでもいい事だった。
何だっていい、充たされるのなら…
唇が離れ、男と九龍の口角は弧を描く。



それは2匹のネズミの物語。

森の中でネズミ達が大きなタマゴを拾い、大きな鍋を使って大きなカステラを作る。

そして──…

「ありがとう、Daddy」

森の仲間達と一緒に、美味しく食べるのだった。


>>これを書く為にぐ○とぐ○を探しに本屋に行ったら1冊目が置いてなかったでござる。
 



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