02 真っ暗な部屋の中。 気付けば書物を読みながら、うたた寝してしまっていたらしい。 遥か昔、闇を生きる住人となり、暗闇でも目が利く体質になったDIOが目を覚まし、最初に見たのはあどけない我が子の寝顔だった。 今から約2年程前… 産まれた子供がこの身体本来の持ち主と星型の痣と瞳の色を除き、似ても似つかない容貌であり、DIOが後天的に得た体質をその子供は微かだが先天的に受け継いでいると知った。 未だ身体はDIOを拒み、本来の持ち主のままで在り続けようとしているのに、何たる皮肉か。 その事実はDIOの好奇心を刺激し、物心のつかぬ子供を手中に収めた。 …産んだ女を父子の糧とした後に。 「うー…」 戯れに九龍の髪を撫でていると、恐らくDIOの指の冷たさを感じ取ったのか、渋い顔の九龍は身じろぎしてブランケットに縋り付く。 だが、DIOの視線は九龍ではなく、彼の傍らに向けられていた。 「………」 九龍を護る様に立つ、首無しの騎士。 「フッ、九龍の父であるこのDIOを敵と見做すか」 「………」 首無しは何も返さない。 かつて実父を死に追いやった経験を持つDIOは自嘲じみた笑みを浮かべる。 「……ダディ?」 「ンンゥ〜?起こしてしまったか」 「おはよう…ダディ…」 九龍が眠りから覚めると同時に、首無しも姿を消していた。 もぞもぞと起き上がった九龍が指で自身の目を擦ろうとする仕種を、DIOは小さな手を掴んでやんわりと制する。 「おっと動くな。目を開けたまま、じっとしているんだ」 「?」 DIOは九龍を膝の上に乗せ、目やにを拭うと九龍を解放した。 碧の瞳は、未だにDIOを捉えたまま、じっと見上げてくる。 自身の血を引く、ただの幼子であるはずなのに、九龍の瞳はDIOに奇妙な既視感を呼び起こす。 『痣』と『瞳の色』だけは──… 東洋人である九龍を産ませた女にも無かった、身体の本来の持ち主の特徴を受け継いでいた。 …ジョナサン・ジョースター。 DIOがかつて唯一、他者に対し尊敬の念を抱いた、強靭な精神と護る覚悟を持つ誇り高き漢。 「なあ、九龍。お前は私の子だ」 「ダディ?」 甘く柔らかな声で囁かれ、九龍はきょとんと小首を傾げる。 ジョナサンに似た色だが、目元はDIOの面影を持つ不思議な瞳。 だが、そこに宿る感情は紛れも無く、『九龍』という人格が持つ意思だ。 「分かるか?九龍」 「うん…九龍のダディはダディ」 たどたどしい子供の返答。 「そう、いい子だ。我が息子よ」 満足のいく解答を出した幼い我が子に、褒美とばかりにDIOは啄む様なキスを降らせる。 「───…」 擽ったそうに微笑む九龍の両腕にはいつの間にか、不気味な首が抱かれていた。 >>DIO様が子供を無条件に愛するとは思わない← |