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杜王町──…

海に近い田舎町の其所は、町の規模に似つかわしくない数の行方不明者や変死者が多数出ている。
変死事件の数は承太郎の捜す死刑囚のスタンド使い、アンジェロが脱獄した辺りから特に顕著だ。



「もし、もしもだよ。ダディが生きてたら…仗助は死んでたって事?」

ホテルの部屋の中、九龍は震えた声で問う。
クッションを抱き、顔が隠れていたので、承太郎からはその表情を窺う事は出来ない。

「………」

約10年前、仗助は原因不明の高熱で約50日間、生死の境を彷徨った。
スタンドに目覚めたのはちょうどその時期かららしい。

九龍と承太郎が知る人物で、仗助と同じく10年前に約50日間謎の病で死にかけ、同じ時期に治癒した女性が1人存在する。

DIOのスタンド発現の影響を受けたジョースター家の血を引く人間の中で、優しく温厚な性格故にスタンドに適応出来ず、死にかけたホリィ。
彼女は、承太郎がDIOを殺す事で何とか助かったのだ。

当時4歳だった仗助の状況はあまりにホリィと似過ぎている。


「ダディが死んだから、仗助は助かったの?」

答えは既に、九龍の中で出ている。

父が死ななければ、助からなかった命があった。
それだけの話だ。


共に過ごした時間が九龍にホリィへの家族の愛を芽生えさせた。
父が死ななければ死んでいた相手。
父の命と引き換えに助かった命。
ふと、その事実を思い出し、どうしようもなく罪悪感に襲われる時がある。

ホリィを、承太郎達を、愛する存在として知らなければ、恐らく彼らの生死に何の関心も抱かなかった。

そんな過去の自分が恐ろしく、また、父親が死んで得たモノに安堵する現在の自分が恐ろしい。
DIOがどんな存在だったとしても、九龍には優しい父であった事は紛れも無い事実なのに…


「九龍」

承太郎は九龍からクッションを奪う。
今にも泣きだしそうな顔が、そこにはあった。

「…お前は何も悪くない」
「……っ…」

何かに苦悩し、罪の意識を抱く。
10年前の自我に乏しい九龍ならば考えられなかった。

承太郎が望んだ、変化だった。

だが、九龍は今、芽生えさせた感情のせいで苦しんでいる。
本当は何も知らないままでいた方が、九龍は幸せだったのではないか。

(いや、これでいい…間違っちゃいない)

悲しむ顔は何度も見てきた。

…それ以上に九龍の笑う顔を幾度も見てきたからこそ、承太郎は後悔しない。
色んな事に泣いたり笑ったり怒ったり…
せめて九龍には、ヒトの心を持ったまま幸せになってほしい。

承太郎の望みは、ただそれだけだ。


「…承太郎はさ、不器用だけど優しいよね」



††††††††


翌朝──…


『…だからですね。その"スタンド"はその男に取り憑いていたっつーか、ただ体の中に入ってただけで、オレに攻撃はしてこなかったスよ』

昨日連絡先を渡したばかりの仗助から、早速電話が掛かってきた。
しかも内容は、あの例のスタンド使いアンジェロらしきスタンドと接触したというモノだ。
九龍は電話機のスピーカーホン越しに仗助の話を聴きながら、風呂上がりの濡れた髪をタオルで拭いていた。

「そのスタンドは何らかの方法で人間の体内に入ってくるタイプだ。これからお前の家に行く。俺が行くまで一切の物を食ったり飲んだりするなよ。水道の水は勿論、シャワーにも便所にも行くな、いいな」
『え?これから来るんですか?』

その焦った声音はこれから学校に行こうとしていたから、という訳では無さそうだ。

『実はまだアンタ達が来た事、お袋に話してないんですよ』

近くに母親がいるのか、仗助は急に声を潜めて話し始める。
事情が事情なので、当事者の1人である母親にすぐには打ち明け辛い。
そして、もう1つの理由…
恐らくこれが、仗助にジョセフの血縁と接触した話を母親に伝える事を躊躇わせる最大の理由だろう。

『うちのお袋、気が強い女だけど…ジョースターさんの事、まだ愛してるみたいで思い出すと泣くんですよ。承太郎さんの顔、お袋が持ってる写真とそっくりだから、一発で孫だってバレますぜ』

「…なんか仗助のお母さん、可哀想」
「………」

ジョセフと長年連れ添い、夫の浮気の事実をつい最近まで知らずにいたスージーQを思うと全面的には味方出来ないのだが…
子供の存在をジョセフに知らせず、独り身のまま16年間育てた仗助の母親には、同情せざるを得ない。


「でも、このままだと仗助の周り危ないって…あれ?」

おかしい、仗助の声が聴こえない。
承太郎も九龍と同様に異変に気付いたのか受話器に呼び掛ける。

「おい仗助!仗助、どうした?」

しばらくして、仗助から応答が返ってきた。
衝撃的な状況報告と共に──…


『もしもし承太郎さんスか?スタンド…捕まえたんですけどォ、コイツどうしますか?』


「用心しろ。アンジェロはお前の家をどこかから見張っているはずだ。瓶の中に閉じ込めたからといって、ヤツのスタンドを甘く見るな」

通話をしながら承太郎は傍らに居る九龍に目で相槌を送る。
九龍は、何だか少し嫌な予感がした。

「俺達が行くまでしっかり見張ってろ、いいな」

これから、寝るトコだったのに…


>>ブラコンな承太郎さん。
主人公もブラコン。


 



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