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最初は何を考えてるのか読めなかった九龍。
そんな九龍の突飛な行動も、2日も経てば慣れる。


「ねえ仗助、ゲームしよ。今日は負けないから!」
「構わねーけど…何か今日お前、元気だな」

いつもならこの時間は眠そうにしているのに。
ふと、仗助が窓の外を見ると太陽が分厚い雲で隠れていた。


「なあ、1つ訊きてぇんだけどよぉー。オレの親父…ジョースターさんってオメーから見て、どんな人だ?」

ゲームをしながら、仗助は九龍に訊ねた。

さり気なく訊くつもりでいたのに、緊張して、つい声が強張ってしまった。
九龍はきょとんとした表情で仗助を見上げ、TV画面には悲しい音楽と共にゲームオーバーの文字が映る。

「知りたいの?会わないのに?」
「いや…そうなんだけどよぉ。今更会う気はねーし、ジョースターさんの家庭にこれ以上迷惑掛けたく無いってのは本音だ。けど…」

母が語るジョセフ・ジョースターではなく、彼の身内から見た『今のジョセフ・ジョースター』を息子として知りたい。
そこに理由など無かった。


「…仗助は、僕と同じだね」

ぽつりと九龍が呟く。

「僕も本当のお父さんがどんな人だったのか、もっと知りたいから」


九龍は寂しげに微笑み、何も無い天井を見上げる。

「きっと良い話だけじゃないって分かってるし、承太郎達は何も言わないけど本当は僕に早くダディの事、忘れて欲しいって思ってるって、知ってるけど…」

…恐らく、それを1番強く願っているのは、承太郎。

でも、忘れたくない。
ずっとあの温もりを覚えていたい。

DIOへの憎しみからではなく、ホリィ達も九龍を家族として愛しているから、未だDIOに心を囚われている九龍の事を心配してくれているのだ。
九龍も彼らを愛している。
だから、父の事を忘れたくなくても、承太郎達を困らせたくない。

けれど、どうして承太郎はあんな物を渡したのだろう。
九龍には承太郎の考えている事が分からなくなっていた。

(言ってくれないと、分からないよ…)


「つーか、難しい事考えずにオメーが父ちゃんの事忘れたくねーって思うなら、忘れなきゃいいんじゃねーの?」

何気ないその言葉に、九龍はハッと目を見開き、仗助を見遣る。
とても単純な意見だった。
色々な事に雁字搦めになっている九龍では思いつけない、簡潔な答え。

「オメーにはせっかく父ちゃんとの思い出があんだからよぉ」
「仗助…」

わしゃわしゃと乱暴に頭を撫でられ、九龍は擽ったそうに笑んだ。



一方、承太郎は庭に出てアンジェロの動向を探っていた。

「こんな家の側まで来て様子を窺ってやがるのに、何もしてこない。奴は一体、何を待っているのだ?」

昨日までは無かった足跡を見つけ、承太郎はアンジェロの狙いについて考え込む。
すると、空から落ちてきた水滴が承太郎の頬を濡らす。
瞬く間に降り出したそれに、承太郎は特に気に留める事なく呟く。

「雨、か…」

だが…
一拍置いて、承太郎はうっかり見過ごしかけていた、とんでもない事態に驚愕する。

「…雨!?」



「んん?何だコレ…おいチビ、これやったのお前か?」

水音に気付いた仗助は九龍に訊ねた。
いつの間にか、台所の水道から水が流れ出ている。
それに心当たりの無い、コンロの上で沸騰するヤカンのお湯。

「まさか。水道の水は危ないから出すなって承太郎が言ってたし」
「だよなぁ、つー事は…」

…その時、勢いよく玄関のドアが開いた。


「九龍!仗助!」
「承太郎!?」

慌てた様子で戻って来た承太郎。
しかし、その頬から流れる血を見て九龍は動揺する。

(どうしよう…承太郎怪我してるのに、僕は──…)

心配よりも先に、無意識に食べ物を見る目で承太郎を見てしまった。


「アンジェロのスタンドが家の中に入った」

予想通りの報告に、九龍と仗助は再び台所を見る。

「外は雨、これで奴は雨の中を自由に動ける。仗助、アンジェロはお前が水を飲むのを待っていたのではない…奴は雨を待っていたのだ」
「それって仗助がこの家から出ないのが読まれてたって事?」
「ああ、悔しいがな」

雨が降り出す前に仗助が水道の水に接触すれば、それはそれでアンジェロの思惑通り。
籠城した時点で、承太郎達は気づかぬうちにとても分が悪い戦いを自ら選んでいたのだ。


「湯気に近付くなよ。奴のスタンドが同化している」

…と忠告を受けても、相手は水蒸気。
一体どこまでが安全な距離なのか全く読めない。

すると、仗助の背後の湯気が不気味な姿へと形を変え、彼に接近する。

「仗助!逃げて!」
「へ?」

九龍は咄嗟にスタンド、無垢なる皇子を発動させた。
対象物の時間の流れを操作する能力。
時を止める能力には劣るが、能力を使える長さはこちらの方が上。
何より、仗助が逃げられない。

「九龍、お前…そのスタンドは…」

何を不思議がるのだろう。
承太郎は九龍のスタンド能力を知っているはずなのに。

「どうしたの、承太郎」
「お前のスタンドはいつから、その姿になった?」


承太郎が指摘したのは、スタンドの外観だった。

首と身体…2つに分かれて、まるで己の父親を反映させた様な姿だった九龍のスタンド。
それが今、完全に首と身体が繋がっている。
少なくとも承太郎が進学の為に日本を離れるまでは、あの状態だった。

「いつからって…ずっとこうだったよ?」
「…スタンドを発動させたのか」

日常でスタンドを使うなと教えていたのに。
呆れて承太郎は溜息を付いた。

「だってー、困った時便利じゃん。ほら、今みたいに!」

屁理屈を並び立てながら九龍が湯気の方向を指差す。
スタンドの捕獲に失敗した仗助が空き瓶を持って憎々しげに湯気を見上げていた。

「グレートですよ、コイツはァ。ビンに捕まえる事が出来ねえ」

まさに『捉えどころの無い』といった所か。
空中を漂う湯気と同化したアンジェロのスタンドは自在に動ける。


「とにかく、湯気だけはどうしようもねえ様だ。さっさとこの台所から出るぞ」


>>割とすれ違ってる承太郎と主人公。
そしてBLDだったならフラグな仗助と主人公。


 



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