18
 

1階にはアンジェロの独壇場となった台所と風呂場。
上は雨に溶け込んだアンジェロのスタンドによって外から屋根と2階の床に穴を空けられ雨漏りと、八方塞がりだ。

「穴かぁ…知ってる。こういうの、損害賠償モンって言うんだよね」
「チビ、お前まだガキなのに難しい言葉知ってんのね…」

風呂からの蒸気で塞がれ、廊下は進めない。

「くっ…パワーの無いスタンドだから甘く見てたが、とんでもねえぜ。水の中に混じる能力というのが、これ程恐ろしく狡猾に迫ってくるとは思わなかったぜ」

愚痴をこぼす承太郎に、九龍はある言葉を思い出す。

「スタンドはそれぞれ能力の適材適所があるから使い方次第。強いとか弱いとかの概念は無い…って昔、誰かが言ってた気がする」

その言葉だけ、九龍の記憶の中に断片的に残っている。
確か九龍自身ではない誰かの問いに、誰かがこう答えたのだ。

「誰が言ってたんだろう…?ま、今はそれどころじゃないけど」

(誰が言ったか大方の予想はつくな。…やれやれだぜ)


「この状況、どう切り抜ける?」
「…切り抜けるってのはチョイと違いますね」

承太郎の問いに、仗助は何かを一瞥してから答えを出した。

「『ブチ壊し抜ける』!早くこっち来なよ、壁が戻りますぜ」

仗助は付近の壁をスタンドで破壊した。
壁の向こうに行けば1階からの蒸気は防ぐ事が出来る。
仗助のスタンドの、治す能力なら壁を壊して通路を作っても、バリケードとなる壁の修復が可能。

「ほい、チビ。こっちだ」

壁に出来た穴の位置は九龍の足で越えるには高い為、向こう側から仗助が腕を伸ばして九龍を抱き上げる。

「あ、ありがと」

承太郎達が移動し終えた頃には修復が進み、壁に出来た穴はほぼ消えていた。

「よし、これでとりあえず蒸気は防…」

だが──…


アンジェロのスタンドは仗助が取る行動を見越して、加湿機を起動させていたのだ。
狙いは、仗助…

「仗助!」
『勝った!予想通りだぜ!壁をブチ破ってこの部屋に来るとおもってたぜ!』

仗助の口から入り込むスタンド。
このままでは仗助の身体が食い破られる…
九龍は先程と同様に無垢なる皇子の能力を使おうとするが、何故か仗助は腕で制止の合図を送った。

「仗助…?」

まさか、もうアンジェロに乗っ取られてしまったのか。
怪訝な眼差しを向ける九龍を横に、仗助は苦しそうに呻きながらスタンドを発動させる。
すると、仗助の口からズルリ…と何かが吐き出される。

「!」

それは先程仗助が見ていた、壁のハンガーに掛けられていたゴム手袋だった。

『ブギャーッ』
「ハアハア…捕まえました。ゴム手袋をズタズタにして飲み込んどいたんですよ、体の中に入ってこられた時の事を予想してね」


スタンドを捕らえれば、こちらのモノ。
空き瓶に捕らえていた時と同じでは生温い。

『ドラララァァァーッ』

仗助は自身のスタンドでゴム手袋を勢い良く振った。

「うぎゃああああああーっ!」

──スタンドが受けたダメージは、そのまま主に跳ね返る。

アンジェロは絶叫マシンが霞む程の衝撃を受け、潜んでいた木の上から飛び上がる。
その光景を窓越しに見ていた承太郎達は、とうとうアンジェロの居場所を発見したのだった。


「見ーつけた♪」
「テメーが」
「アンジェロか」


地べたに這いつくばる、ジョセフが念写した写真と同じ顔の男。

「こういうの、人質…あ、スタンドだからスタ質って言うのかな」
「変な造語を作るな。作っても滅多に使い道ねぇからな」

逃亡を計ろうにもゴム手袋に捕らえたアンジェロのスタンドが仗助の手中にある限り、最早アンジェロに逃げ場は無い。

「ま…まさかオメーら、これからこのオレを殺すんじゃあねーだろうな!?そりゃあ、オレは呪われた罪人だ!だがな仗助ッ!オレはオメーのジジイをブチ殺してやったが、オメーにオレを死刑にしていい権利はねえッ!もしオレを殺したらオメーもオレと同じ呪われた魂になるぜェッ!」

しかし、追い詰められたアンジェロは全く反省する様子は無く、仗助を挑発する。
その言葉を聴いていた仗助の中で、考えは決まった。

「…誰も、もうオメーを死刑にはしないぜ。オレも承太郎さんも日本の法律も、もうオメーを死刑にはしない。刑務所に入る事も無い」
「仗助、後は任せるぜ」

仗助のスタンド攻撃を受け、アンジェロの手が岩の破片と同化する。

「い、一体!?何をする気だ、テメーらはぁぁぁぁ!?」
「永遠に供養しろ、アンジェロ。オレのじいちゃんも含めてテメエが殺した人間のな!」

そう告げると、今度はアンジェロを岩に叩きつけ、何度も全身にスタンドの拳を浴びせる。

「岩と一体化してこの町のこの場所で永久に生きるんだな」
「ひいえええええええ──っ」


岩と全身が同化したアンジェロに、承太郎はある事を問う。

「ところでアンジェロ、喋れるうちに訊いておく。何故、テメーは刑務所の中で急にスタンド使いになれた?」

アンジェロは生まれついてのスタンド使いではない。
何故なら、刑務所に入る前に目覚めていたのならば、この男がスタンドを悪用していないはずが無いからだ。
投獄されるまでのアンジェロの犯罪歴に、スタンドを使ったと思われるものは無い。

「話してやるぜ〜〜チクショオ〜ッ、どうせ『あの人』がオメーらをブッ殺してくれんだからよぉ〜〜っ」

アンジェロは己がスタンドを手に入れた経緯について話し始めた。
突如、刑務所の独房内に現れた学生服の男。
彼が持つ不思議な弓矢に射られ、アンジェロはスタンドを発現させた。
何が起きたか分からないアンジェロに、男はこう説明したという。

『この聖なる"矢"に貫かれ、生きていたという事は即ち…お前は今、ある才能を身に付けたという事だ。それは、嘗て"ディオ"という男が"スタンド"と呼んでいた才能だ』


「オレのスタンドのルーツはこれが全てさ」

承太郎は呆然とする九龍の手を握った。

「コイツの話は…」
「そう!『下らねえホラ話だ、信用なんかする奴はいねえ』スよね?」
「いや、信用する」
「え〜〜っ!」

何も知らない仗助はこの話をでたらめ話だと思った様だが、当時日本の刑務所内に居たアンジェロが知り得ないはずのある情報を知っている…
それだけで承太郎達がアンジェロの話を信じるには充分だった。

「コイツは『ディオ』という名前を言った。10年ほど前に実在したスタンド使いの名だ。DIOが何故、突然スタンドを身に付けたのかずっと疑問だったが、どうやらコイツが今喋った内容に答えがある様だ」

スタンド使いを生み出す道具。
それが、この杜王町に存在する…


>>難しい言葉を知っているのは見た目より年上であるのと同時に外部から与えられた知識や言葉をそのまま喋ってるからです。
(こういうの〜って言うんだよ)
悪く言えば、そこに自分の言葉や感情は無いので、DIOと居た思考停止していた頃の片鱗がまだ残ってます。


 



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