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孵化する未来
 


「…驚いたな。君に子供がいたなんて」

私の『友』は、言葉通りの表情で『私達』を交互に見遣った。


「意外…だったか?」

こうして2人を合わせるのは初めてだった。
そして、彼の反応は正しい。
このDIOが何の理由も無く、家族を持つ事など有り得ないのだから。

「いや、でも君に似ている。特に目元が」
「ありがとう、よく言われるよ」

腕の中の九龍は目の前の青年には興味は無い様で、自らのスタンドの首に虚ろな瞳を向けていた。
コレはそういう子供だ。
しかし、この子供の力が私の探し求める『天国』の道標となる。

「九龍、彼はパパのお友達だ。ほら、挨拶してご覧」
「…こんにちは」



このDIOが弓と矢でスタンドに目覚めたのと同様に、子である九龍も血の繋がりからスタンドを発現させた。

支援者であった東洋人の女との間に偶然出来た子供を、それまで手元に置いておいた理由は、単純に乳飲み子だった九龍が僅かだが吸血鬼の片鱗を見せたからだ。
身体の父親であるジョナサン・ジョースターに似ないばかりか、体質まで私に似るとは…全く哀れな子供だ。

──いや、『乳飲み子』という表現は正しくないな。
何せ乳離れと呼ばれる時期まで、この子供が唯一の食事として食らっていたのは、私と同じ食糧共なのだから、『血飲み子』と云うべきか──…

私が石仮面を被る事で後天的に得た能力を、僅かでも生まれつき持って産まれた子供がどうなるのか興味があった。

遠い昔、赤子を庇う母親に守るべき対象を食わせてやったが、我が子は逆に母親を食らった。
この子供はいつか無垢な瞳で私に問うのだろうか?
自分の母親は何処か、と。
さて、どう答えたものか…

今はまだ、子が親に向ける依存心が必要だ。
いずれ私が『天国』へ向かう日まで、それまでは子供にとっての良い父親を演じてやろう。



「この子のスタンドが私に天国ヘ向かう手段を教えてくれたのだよ」

既に私が天国を目指している事を知っている友に教えると、友はまるで己の立場らしい表現で喩えた。

「成程、親はよく自分の子供を『天使』と呼ぶけれど、君の息子は君を天国ヘ導く為に天から降りてきた、まさに『天の使い』な訳か」

外は冷えるからとダービーが用意した白いコートで、それらしく見えない事もない。
だが、10ヶ月もの間、腹の中で守ってくれた自分の母親を喰らうとは、とんだ天使がいたものだ。


「こんにちは、DIOの天使」

聖職者の卵は、九龍を抱き上げるとそう呼んで微笑みかけた。



──帰り道は雪だった。

エジプトではもう数十年も雪が降っていないという。
そういえば、私もあの地では雪など見た事が無い。
文字通り生まれて初めて雪を見た我が子は不思議そうに空を見上げ、私にこれは何かと訊ねた。

この子供は私が与える物が、世界の全て。
私は九龍に知識や価値観を『与える』事で自我や価値観を『奪い』、支配している。


「ダディはいつも何を書いてるの?」

…と、ここまでノートを書き進めていると、同じベッドで眠っていた九龍が目を覚まし、私を見上げる。

「ん?これか?これはだな…」

暫し考え、私はある事を決めた。

「そうだな、九龍が大人になったら、このノートはお前の物だ」
「九龍の…?」

今はまだ、ノートの…天国の価値はこの子供には分からないだろう。
だがいずれ、近いうちに私が与えるのだろう。
天国を求めるという価値観を──…

ペンを置き、寝癖で剥き出しになった我が子の額に、戯れに唇を落とす。


…さあ、目覚めるがいい。
私が生み出す、支配される者よ。


>>今更のようにDIO様。
これはノート燃やされますわー
以前も触れてますが、DIOが育てていたら主人公は絶対ああいう性格にならなかったろうな…


 



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