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下校途中、仗助は康一と会った。

「よっ、アンジェロ」
「……よっ、アンジェロ」

仗助を真似て岩に挨拶をし、康一は気になっていたある事を訊ねる。

「ところでさ、承太郎さんはどーしたの?」
「ああ…あの人はまだグランドホテルに泊まってるぜ」

スタンド使いを生み出す弓と矢…
アンジェロの件は片付いたが新たな危険因子の情報を知った承太郎は杜王町に残る事にした。

(つーか、マジかよ…)

あの日、アンジェロを倒し、承太郎達がホテルに帰ってしまう前に訊いてしまった話が、仗助の頭から離れない。



「あの…承太郎さん、ちょっといいスか?」

承太郎は先に九龍を車に乗せ、仗助と話を始めた。

「DIOって奴の名前が出てから何かチビの様子ヘンなんですけど、一体DIOって何者っスか?」
「DIOは…九龍の実の父親だ。アイツが3歳くらいの時に死んだ」
「ち、父親ぁ!?」

そう言われて、仗助は九龍と交わした会話を思い出す。
九龍が家族に訊ねる事を躊躇い、悩む様な父親だ。
何か事情があるのだろうとは思ったが…

(こりゃ複雑そうな予感…って、あれ?)

ふと、仗助はある違和感に気付く。
承太郎が語ったDIOの話がどうも噛み合わないのだ。
約10年前に存在した故人のスタンド使い、九龍の父親…
この2つの間には、矛盾が存在する。

「承太郎さん…おかしくねぇですか?そのDIOがチビが3つの時に死んだ父親って、10年前ならアイツまだ生まれてもねーでしょーが」
「………」

「仗助、お前にはアイツが何歳に見える?」

承太郎は静かに問い返す。
まるで何かを、確認する様に。

「そりゃあ、小学校低学年くらいでしょ?7…いや8…」
「…14だ」
「そうそう14…って、ええぇえええ!?」

答えを出す前に返ってきた正答に、思わず仗助は目を見開く。
もうフザケないで下さいよー、と笑い飛ばそうにも、承太郎の目があまりにも真剣で乾いた笑みしか浮かばない。

「マジ…ですか」
「俺が17の時、九龍は3歳のガキだった。この杜王町に来る直前に14歳の誕生日プレゼントもやった。原因は分からねぇが、アイツの時間はまるで自身のスタンド能力と同じ様にゆっくり進んでやがる」
「………」

根拠となる話を聞かされても信じられないが、承太郎の真剣な態度に仗助は信じるしかなかった。

しかし──…


(今年14って事はオレと2つ差だろ?つー事はさぁ…)

あの時は子供の挨拶だからとギリギリスルーした、ある記憶が今になって鮮明に蘇る。

(オ、オレのファーストキス〜!)



††††††††


ほぼ同時刻、承太郎と九龍は東方家を訪れていた。

『うるさいわね、新聞なら間に合ってるって言ってるでしょ』
「………」

呼び鈴を鳴らしてもインターフォン越しに一方的に断られ、会話する余裕も無い。

「こういうのが本当の門前払いってヤツだね」
「されちゃあ困るんだがな」

それでも承太郎が呼び鈴を鳴らし続けると仗助の母、朋子が怒りながらとうとう出てきた。

「誰よ!?うちは父親が脳溢血で死んで後片付けやらこれからの事で忙しいのよ。後日にしてくんないッ!」

先日仗助の言っていた通り、気の強そうな女性だ。
九龍はそんな印象を抱く。
ジョセフの妻、スージーQはお茶目でどこか抜けている所があるが、この人はしっかりしてそうだ。
妻と違う面に惹かれ、ジョセフは浮気をしたのかも知れない。

「…ハッ」

一方、朋子の方は承太郎を見て何かに気付く。

「あ、貴方、は…」
「?」
「ジョセフゥ〜〜ッ!」

そう叫び、朋子はかつての不倫相手の孫に勢い良く抱き着いたのだった。

「承太郎も浮気?」
「んな訳あるか」


「ジョセフ──ッ、遂に戻って来てくれたのねッ!待ってたのよッ、ず──っとッ!ジョセフッ!」
「………」

言葉通り、彼女は本当にジョセフを待っていたのだろう。
独身のまま、16年仗助を育てたのだから。

「お父さんが死んで本当に悲しくって心細かったのッ!こんな時に来てくれるなんて、ジョセフ好き好き好き好き好き好き好き好き──っ!」

弱音と愛を叫ぶ朋子に、九龍は同情を抱く。

「…がっかりさせる様だが、俺はジョセフ・ジョースターではない」
「え!?あっ、そ…そういえば随分若いわ!」

承太郎の言葉にようやく我に返り、朋子は冷静に承太郎を見た。

「間違えるか?普通あのジジイと…」
「昔はちょっと似てたかも」

弟相手に承太郎は愚痴る。
ホリィやスージーQからはよく似ていると言われ、不本意ながら自覚していたが、まさか老人と間違えられるとは思ってもいなかったのだ。

「やれやれ、俺はジョセフの孫で空条承太郎という。仗助に会いに来た、いるかい?」
「………」

しかし、朋子は承太郎をぽーっとした目で見つめたまま、反応が無い。

「仗助はどこかって聞いてんだが?」

惚けた朋子にズイと詰め寄り、承太郎は問う。

「えっ!あっ!仗助は、まだ学校から帰って…ません」
「そうか、じゃあ今晩また来る。行くぞ」
「え…もう帰るの?」

九龍の手を引き、踵を返す承太郎に朋子が残念そうに声を掛ける。

「そう…貴女のお父さんだが」

承太郎は思い出した様に振り向き…

「え?」
「気の毒したな。ジョセフ・ジョースターがもし、この町に居たなら、これから起こる危機から必死にアンタを守るだろう…しかし、ジジイはもう歳だ。この町に来させる訳にはいかない。俺はジジイの代わりだ」

そう告げると、承太郎は車を発進させる。

助手席に座る九龍は車を降りる際に助手席の上に置いてきた資料を手に取り、自身の膝に乗せた。
その様子を横目で見ながら、承太郎は呟く。

「早いとこ、この『弓と矢』を破壊しなくてはいけねーぜ」

資料の中の写真に写る人物。
弓矢を持つ老婆は九龍でも覚えていた。
DIOの側近であったエンヤ婆だ。

アンジェロから弓と矢の話を訊き、承太郎はSPW財団から資料を取り寄せた。
『DIO』『弓と矢』、この両方に少しでも関わりがある物を…

DIOが承太郎の先祖と死闘を繰り広げた時には、DIOはスタンドに目覚めていなかった。
承太郎の推測では、エンヤ婆の持つ弓と矢がDIOにスタンドを発現させ、彼との血の繋がりから九龍が、DIOが奪った肉体の血の繋がりから承太郎達がスタンドを発現させ、12年前の騒動に至ったのだろう。

だが、DIOもエンヤ婆も既にこの世にはいない為、DIOとアンジェロからスタンドを引き出した弓と矢の関連の真相は不明だ。
…とはいえ、今となってはそんな事はどうでもいい。
1つだけ、はっきり分かるのはスタンドを目覚めさせる物がこの町に存在する。

何としても見つけ出し、破壊しなければならない。
DIO以上の野心を持つ悪党が強力なスタンド能力を得てしまう前に…


>>純愛タイプには大打撃なファーストキス。

 



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