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杜王グランドホテルにはプライベート・ビーチが存在する。

日傘を差して砂浜で遊ぶ九龍を見守りながら、承太郎がベンチで新聞を読んでいると、黒い帽子とコートの男が『偶然』、背中合わせのベンチに座った。

「『空条承太郎』さん…ですね?私は、SPW財団の者です」

小声で話し掛けてくる男は『偶然』SPW財団に務めているらしく、承太郎にこっそり社員証を見せてきた。
こんな芝居を打つのは理由がある。

「貴方に直接伝言を伝えに参りました。電線のある所での会話、及び電話や電報では危険だという事ですので」

そう、電気を操るスタンド、レッド・ホット・チリ・ペッパーは電気を使う電話などを盗聴する事が出来る。
先日、電話を使って承太郎に警告し、昨日もまた仗助を襲撃した様に、レッド・ホット・チリ・ペッパーのスタンド使いは承太郎達の事を強く警戒している。

「内容を申し上げます。『明日の正午、杜王町港に到着する予定。ジョセフ・ジョースターより』…以上です」
「………」

用件だけ伝えると、男は去っていき、入れ違いに九龍がバケツを持って戻ってきた。

「承太郎、これってヒトデで合ってる?」

バケツの中身を見せながら九龍は問う。

「ああ、ヒトデだな。…ところで九龍、大人しく聴け」
「?」

「ジジイがこの町に来る」



次の日──…

何も無い野原のど真ん中で仗助と億泰が言い争っていた。

「何で野郎の事をオレに黙ってたあーッ!?」
「………」

いや、仗助が一方的に億泰に責め立てられていた。
レッド・ホット・チリ・ペッパーは億泰にとって兄の仇なのは周知の事実。
仗助は無言で罰の悪そうな表情を浮かべる。

「俺が仗助に黙ってろと言ったのだ」

するとそこへ、承太郎と九龍が到着した。

「承太郎さん!九龍君!」
「こういうの、やれやれだぜって言う状況だよね」
「電気の通ってる街中じゃあ、ヤツの話をするのは危険だ。こんな野原に集めたのも話を聞かれない為だ…」


「億泰ゥーオレだってよぉー、チリ・ペッパーにゃあ完全に頭に来てる!」

ようやく、仗助は口を開く。

「チリ・ペッパーはオレ達がいるから、まだ目立つ騒ぎを起こさねーだけで、その気になったら簡単に頭に来た人間の命を電線の中に引きずり込めるって事さ!弓と矢でブッ刺すのはもちろん、もう既に誰かがそーなってるかも知れねェ。早いとこヤツの『本体』を見つけ出さなきゃあなあ──っ!!」
「でも…ど、どうやって本体を見つけ出すの?仗助君…?」

仗助達は相手の顔を知らない。
あちら側は用心深く、仗助達を警戒して動いている為、アンジェロの時の様にはいかない。

「その方法を考える為に集まったんだろ?承太郎さん…」

しかし、承太郎は首を横に振る。

「……いや、少し違う。見つけ出す事は出来る。『見つけ出す事の出来る人物』が今日の正午に杜王町の港に到着するからだ」
「見つけ出せる?レッド・ホット・チリ・ペッパーの『本体』を捜し出せる人物だと!!」

「今日の正午って、あと2、30分だよ!?」

あまりにも突然過ぎる話に3人は驚き、康一は咄嗟に腕時計で現在時刻を確認し、告げる。


「スタンド使いかよ、そいつ!?」

仗助からの指摘に承太郎は頷き、その人物について3人に簡潔に説明する。

「『隠者の紫』といって、不安定だが念写を使えるスタンドだ。電気が通った物を使った探索能力にも長けているからヤツを捜し出せる!ただ、その男はかなり年齢を取り過ぎていてな…今はとても闘える体力とスタンドのパワーは無い」
「アンジェロの写真もそのスタンドで撮れちゃったんだよ」

九龍の言葉に、仗助は承太郎達と初めて会った時の出来事を思い起こす。
あの時見せられた写真は、本来は顔の分からない仗助の姿を撮るつもりが仗助と同じ町にいたスタンド使いのアンジェロに引き寄せられ、偶然撮れてしまったらしい。
とはいえ、目的の人物が写らなかった写真自体はピンボケも無く実物を撮影したかの様にアンジェロの姿が鮮明に写っていた。


だが、仗助が気になるのは──…


「歳を取り過ぎてるって、そいつ何歳スかァ?それに『今』って承太郎さん達の古い知り合いスか?」
「ああ…とてもよく知っている男だ。昔は歳の割に結構マッチョな肉体をしていたが、今は見る影も無いがな。80、いや…まだ79歳、だったかな…」
「79ゥ!!クソジジイじゃあねーかよッ!」

何も知らない仗助のツッコミに、思わず九龍は吹き出す。

「ぷっ、クソジジイ、だって…」
「九龍君?」

更に承太郎は続ける。

「…足腰は弱くなって杖を突いている。2年前、胆石除去の手術もしたし、白内障も患った。歯は総入れ歯で、Tボーンステーキが食えなくなったと嘆いていたよ。頭もボケ始めている」
「オイオイ〜っ、ポストとお話が趣味っつーんじゃあねーでしょおーねぇ──っ?ソイツッ!勘弁してよぉ〜」

…と嘆きながら、仗助はある単語に反応する。

「『ステーキ』?そいつ外国人スか?」

戦前生まれの老人にしては随分ハイカラな嗜好だ。
もしかして日本人ではないのかと思い、仗助が訊ねると、承太郎は頷く。

「こっちに来るのだけは止めてたんだがな…。『弓と矢』の事を『ジジイ』が知ったら、勝手に杜王町に向かって来たという訳だ、やれやれ」

承太郎の口振りは心底呆れている、といった感じだ。
しかし、彼の生命がどうなっても良いとは思ってなどいない。

「ジジイを護る為にお前らに集まってもらったのだ!もし、ジジイの存在をチリ・ペッパーに知られたら、奴はジジイを殺すだろう!チリ・ペッパーにとっちゃあ、『本体』を探されるのが一番恐れている事だからな」


「ちょ…ちょっと待って…」

「その正午に杜王町の港に着く『おじいさん』て、もしかすると…」
「……?」

恐る恐る訊ねる康一と対照的に、仗助と億泰は不思議そうな表情で康一を見る。

「たっ、大変だ仗助君!承太郎さんと九龍君の知り合いの79歳で外国人のスタンド使いと言ったら!」
「え?何?なんだぁ?」

そこでようやく仗助だけは何かに気付き、ハッと表情を変える。

承太郎達は何故、この杜王町に来たのか…
何故、承太郎達だったのか…
その理由を、仗助は初めて2人と出会った時に聞いたではないか。

「えっ!まっ、まさかッ!」


『確かに…聞いたぞ……』


その時、1台のバイクが承太郎達の前に現れた。
バイクと、バイクから出現したスタンドの姿には、仗助達3人は見覚えがあった。

「レッド・ホット・チリ・ペッパー!!?」
「馬鹿な!何故この野原にヤツが!?」

電流を通してレッド・ホット・チリ・ペッパーに盗聴されない為に電線の無い場所を選び、本体が直接盗み聞きしに来ても分かる様に見晴らしの良い場所を選び、携帯電話など電気を使う物を身に着けないで此処に集まった。
だが、この徹底ぶりは明らかに仗助達が自分に不利益な情報を話し合おうとしているのだと確信を持ったレッド・ホット・チリ・ペッパーの本体は、億泰がこの場所に来る為に使ったバイクのバッテリーにスタンドを潜ませたのだ。

『"正午"に"港"だとォ?このオレを探し出せる老いたスタンド使いだとぉ〜〜っ。その老いぼれは――ッ!港に到着と同時に必ず、殺すッ!』

捕まえる事も、ダメージを与える事も出来ず、レッド・ホット・チリ・ペッパーは姿を消した。


「承太郎、逃げられたよ!どうするの、このままじゃジョセフが殺される!」
「ジョセフ?そいつが助っ人なのか!」

この場で老人の正体に気付いていないのは最早、億泰だけだ。

「ジジイの事を知られてしまった。つまり…仗助の父親の事を…!!」


>>ジョセフ来るよーと聞いた時の主人公の反応はご想像におまかせします。

 



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