28 ──創作者という存在は、常に『非日常的な何か』に飢えている。 それは出来事であったり、物であったり、時に者…ヒトである。 この青年、岸辺露伴もまた、『非日常』に飢えた創作者の1人だ。 漫画家という職業は不規則な生活になりがちだとよく言われる。 速筆な露伴がスケッチブック片手に、平日10時の開店時間と同時に行きつけの書店に来店したのは、別に徹夜をした訳でも無く、規則正しい生活を送っても就業時間や出勤日といったものに囚われない専業漫画家故だ。 この書店を気に入る理由は単純明快。 漫画や画集、漫画を描く時の資料といった露伴が好んで読む書物だけでなく、漫画を描く上で描かせない画材もそこらの寂れた画材店以上に取り揃えている大手チェーン店だからだ。 この岸辺露伴を満足させるとはなかなかやる、褒めてやってもいいぞ、と露伴なりの最上級の評価の証として、サイン色紙をくれてやったのはつい最近の話。 お陰でどこからか(まあ、大方あの自慢したがりな雇われ店長からだろう)ある男子高生に人気漫画家岸辺露伴がこの街に住んでいる情報が漏れ、興味深い体験を持つ少年とクソムカつく少年と阿呆な少年に出会い、興味深い経験をしたのだが… しかし利き手を負傷し、1ヶ月も休載する羽目になったのはいただけない。 あのクソったれ仗助め… そんな訳で、この休業期間…といっても速筆故に普段と変わらないが、羽を伸ばして街の様子をスケッチしたり、仕事道具を補充したりしている、が。 (あれは…) まさか、行きつけの店で興味深い存在に出会えるとは思わなかった。 レジ横のシャープペンの芯が置いてあるコーナーに立つ、西洋人っぽい子供。 こんな時間に此処に居るという事は観光客か何かだろうか。 灰色がかった薄い茶色の髪はふわりとウェーブを描き、ミルク色の肌も相まって美しいカラーバランスを生み出していた。 その色素の薄い髪と肌に映える青みがかった緑のアーモンドアイは長い睫毛に縁取られ、少し伏し目になるだけで儚げに憂いを帯び、見る者を惹きつける妖しげな魅力がある。 釣り上がった眉とツン、と尖らせた薄紅色の唇が気の強そうな印象を与えていたが… 何かを見つけた瞬間に瞳は輝き、顔は綻び、あどけない子供へと変わった。 その間、たった数秒。 だが、その数秒で露伴の脳内には新しいキャラクターの構想が生まれていた。 (あの子供を漫画のモデルにしたいッ!) レジで買い物を済ませ、店を出て行く少年を慌てて追い掛けた。 「君ッ!」 「はい?」 フリルのついた日傘を開こうとしていた少年が振り向く。 見知らぬ人間に呼び止められた理由を自身が何かを落としたのかと思っているのか、顔は露伴を見上げながら、少年の手はポケットの中や首から掛けたペンダントへと動く。 「君を漫画のモデルにしたい」 口を開くと同時、露伴は手に持っていたスケッチブックを少年に向けて開く。 「?」 その瞬間、少年の体のあちこちが本のページの様になり、少年は意識を失う。 露伴のスタンド、天国への扉-ヘブンズ・ドアー-の能力だ。 少年の体、子供の割に随分と分厚いページを捲り、露伴はこの少年の情報を読み始めた。 名前は空条九龍…空条? どこかで聞いた事があるな。 まあ、いい。 それより続きだ。 生年月日は1985年4月……ん? 1985年…14年前だと!? いいぞ、実に興味深い! エジプトで父やその部下達と暮らす。 父は吸血鬼、後に承太郎達に教えられた事だが石仮面を被り、吸血鬼となった父はジョセフの祖父の身体を奪って百年の時を越えて蘇った。 父は身体を自分に馴染ませる為に多くの生き血を吸った。 それは『僕』の食糧でもある。 「…何て事だ」 露伴は驚愕した。 恐れではなく、歓びに。 「コイツは素晴らしいぞ…序盤から最高潮じゃないか!」 †††††††† 「ジョースター達は…自分の娘、あるいは母親の命を救う為に自らの命を捨ててもいいと、心の奥底から思っている」 (ダディ…?) 微睡みの中、聴こえる言葉。 「しかし、その馬鹿げた事が結構重要なのだな。ダービーの奴は忠誠を誓うと言っておきながら、このDIOの為に死んでもいいという覚悟が出来ていなかったという事だ」 ああ、そうか… 九龍は1人納得した。 『大丈夫、覚悟出来てる人間は凄く強いんだって』 どこかで聴いた事のある言葉だと思っていた。 それは、父からの受け売りだったのだ。 (うん、そうだね…) 自分の命を投げ出す程の強い覚悟を『重要』だと語る父に、九龍は同意する。 「だから、後ほんのちょっとという所で勝利が掴めない…ダービーには、負けた理由が永久に分からんのだ」 あの時は九龍も父の言葉の意味が分からなかった。 けれど、今なら理解出来る。 強い覚悟を持つ人間の強さ、何かを守りたいと感じる心を、九龍は知っている。 幼く、父から与えられるモノを何も考えず、ただ甘受していた頃の九龍では無いのだから。 ようやく…ほんの少しだけ、父に追いつく事が出来たのだ。 (…あれ?) しかし、九龍は奇妙な違和感に気付く。 (違う、これは…この声は…) いつも本を読み聞かせてくれた、心地の好い父の声では無い。 この声は、この人は…九龍の父では無い! 「!」 その事実に気付いた瞬間、九龍の意識は完全に覚醒し、パチリと瞳を開く。 「此処は──…」 目を覚ました九龍は見知らぬ部屋の中に居た。 何かに座っている。 起き上がろうとするが… 「え…?」 金縛りに遭った様に手足が動かない。 混乱する九龍の足元から、見知らぬ男が起き上がった。 「ああ、ようやく起きたのか。寝顔のスケッチばかりじゃ退屈だからね」 そう語る青年の声は、先程の父の言葉を話していた声と同じモノだった。 頭にギザギザした形状のヘアバンドをつけた、承太郎より若く仗助より年上くらいの男。 だが、完全に知らない訳では無い。 九龍が起きる前の1番最後に覚えている記憶… 書店で買い物を済ませ、ホテルに戻ろうとした時に話し掛けてきた人物だった。 「貴方は…?」 DIOもヴァニラ・アイスも、もうこの世にいない。 今ではあの時の父の言葉を知る者は九龍只1人しかいない筈なのに、何故、知っている? 「だが、その前に…」 問いを無視して、男の手が九龍に近付く。 「君の経験…この貴重な資料は貰うよ」 ベリッと何か紙の様な物が千切れる音が響く。 「あ……」 その音と同時に、九龍の意識も再び途切れた。 >>事案発生の裏側(笑) 主人公ファザコン拗らせすぎィ! |