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民家に到着した3人だったが、呼び鈴を押しても予想通り反応が無い。
警戒しながら中に踏み込むと、早速承太郎が手掛かりを掴んだ。

「これ、何?ゴミ?」

承太郎が指差した先、床に落ちている小さくて黒い、楕円の物体を見て九龍が訊く。
九龍の疑問に答えながら、承太郎は胸ポケットからペンを取り出す。

「鼠の糞だ」
「うえー」

答えを知り、苦々しげな表情を浮かべる九龍の隣で、承太郎はペン先で糞を解してじっくり観察を始めた。

「げっ、またー!今度は何してるの?」
「糞の内容は…草や穀物では無く『肉』だな。俺達が追っている鼠の可能性が高い」
「承太郎のそういうトコ、デリカシーが無いって言う…」

研究者気質な人間にありがちな、本来なら異性にモテそうにないデリカシーに欠ける言動だが、これで妻子持ちの現在でも女性から熱い視線を向けられるモテ男なのだからルックスの補正力とは恐ろしい。


他にも落ちている糞を目で辿ると、この糞を排泄した鼠はある方向に向かった事が分かる。
足跡が残らない以上、重要な手掛かりには違いない。
違いない…しかし少々汚い道標を辿りながら、九龍の中では自身らの行動とあるモノが重なった。

「こういうの昔、絵本で見た事がある。白い石とパンだったけど」

果たして鼠に人間の少年並の知能があるかは謎だ。

「…こっちの部屋に向かっているな、調べるぞ」

この時、承太郎と九龍は気付いていなかった。
台所からの異音に関心を持った仗助が別行動を取った事に──…


「あれ、仗助?」


ふと九龍が後ろを振り返った時には、もう仗助の姿は無かった。

「開けるぞ」

仗助の不在を構う事なく僅かに開いたドアのノブに手を掛け、隙間から部屋の内部を窺いながら承太郎が告げる。

鼠は既に承太郎達の侵入に気付いている、というのが承太郎の考えだ。
なので今更、気配を隠す必要は無いが、鼠はこの扉の向こうで承太郎達を待ち構えている。
今、仗助の合流を待ってこのタイミングを逃せば、鼠に逃走されるかも知れない。

「………」
「………」

無言で合図を送り、扉を開く。

「!」

その瞬間、承太郎はいきなり九龍を廊下の床に突き飛ばす。

「やれやれ、早速お出迎えか」

──承太郎の呟きを、九龍が聴く事は無かった。


スタープラチナ ザ・ワールド!


「…承太郎!いきなり何なの!?」
「奴のスタンド攻撃だ」

九龍が顔を上げると、承太郎のスタンド、スタープラチナが承太郎の前に立ち、針の様な物を摘まんでいた。
その真正面、窓枠には耳の欠けた鼠と砲台に似た形のスタンドが鎮座している。

しかし──…

「くっ…」
「承太郎?」

痛みに呻く声。
九龍が視線を移すと、突然、承太郎の右手が溶け出した。

「承太郎!?」

カツン…

何かが、落ちた。
九龍はその音に反応し、再びスタープラチナを見る。

「な…!」

針を摘まんでいたスタープラチナの右手が、本体である承太郎同様に溶けている。
スタンドが受けたダメージは、本体に跳ね返る。
ならば、これは…

鼠のスタンドが今度は九龍を狙い、針を発射する。

「!」

九龍は自身のスタンドを発動させ、針の『時間』を遅らせる。

「九龍、針に触れるんじゃあないぞ」
「分かってる。こうなるのヤダからね」

九龍は針を避け、スタンド能力を止めると、針が床に突き刺さる。
針の周囲の床が…溶け落ちる。

「うわー…」


その時──…


「承太郎さんッ!チビッ!何してんスかッ!ここっスよッ!」


向こうから聴こえる仗助の緊迫した声に、2人は目の前の鼠と睨み合いながら状況を整理する。

「どういう、事?」
「さあな。だが、とりあえずこちらを片付けてからだ」

だが突然、鼠は窓枠から外に逃げ出した。

「あ、逃げた!」

「承太郎さんッ!台所っスよッ!鼠!やりましたぜ!始末しましたッ!」

ワンテンポ置いて聴こえる仗助の声で、承太郎はその理由を悟る。

「恐らく、仲間がやられた事に気付いたな。行くぞ」
「え、でも鼠は?」



「もう何やってんスか!肝心な時にいねーんスからよォ〜。オレ、もう心細かったっスよ〜」

承太郎が台所に向かうと、まさに戦闘後といった様子の部屋の中心で、仗助が出迎えた。
この家の住人は予想通り鼠の毒牙に掛かっていたが、生きてはいる様だ。

「…どうやら、日没までに追跡しないと厄介な事になるな」
「え?」

浮かれる仗助の前に、溶けた右手を出した。

「仗助、承太郎!あっち!あっちに逃げた!」

そして、遅れてやって来た九龍の言葉。

「もう1匹いるぜ。今、攻撃されたんでな…」

混乱する仗助は、承太郎の説明でようやく事態を理解する。

「もう1匹ですってッ!?何でもう1匹いるんスかッ?」
「わからん…」

承太郎は自分の手を観察しながら、冷静に話す。
針を調べようと不用意に触れる好奇心は仗助には無かったのか、仗助の方に目立った怪我は無くて九龍はホッと胸を撫で下ろした。

「人間1人なら5〜6発も刺されりゃあドロドロだな。すまないが、早いとこ治してくれるのを期待してるんだが…」
「そ、そうでした…」

だが、こっちの義兄はこれで懲りて欲しいものである。


クレイジーダイヤモンドによる治療が終わり、もう1匹の鼠の謎について話していると、承太郎の携帯電話に着信が入った。

「もしもし、空条承太郎だが…」
『承太郎さん!連絡しようと何度もコールしてました!』

慌てた様子の声に、承太郎はすぐ異変を悟った。

「追跡中だったので電源を切っていたんだが、何かあったのか?まさか音石の事か?」
『あ…そうです!音石明は鼠を"2匹"射っていた事を隠していました!』

やはり…
すかさず承太郎はある事を確認する。

「確認するぜ。3匹や4匹じゃあ無くて、"2匹"に間違いないな?」
『"2匹"です!薬で自白させましたから間違いありません…』
「へ?」

今、自然過ぎてあっさり聞き流す所だったが、とんでもない発言が飛び出て、他人事でない九龍は思わず身震いする。
一歩間違えば、九龍は研究材料にされ兼ねない危うい立場なのだ。
正直、SPW財団の闇を知りたくなかった、というか聴きたくなかった…

しかし、今は目の前の問題の方が重要だ。


「やれやれ、音石明…やってくれたな」

3人が玄関から外に出ると、広大な田園地帯が広がっていた。


>>この場面のSPW財団、サラッと違法行為を使う怖い裏側が見えますよね…

 



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