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「落ち着いて動け。虫食いのスタンドの攻撃は俺達に見えないスピードでは無い…その発射地点を見逃すな。奴の潜んでる所を見つけるんだ」


とりあえず仗助は近くの岩陰に身を潜める。

「ん?」

そこで、草の中に何かを見つけた。

加工された木の板だ。
何故こんな所に木の板が落ちているのか。
不思議に思い、仗助は手を伸ばした…

バッシィン!

「うぐうっ!!なっ、なんだこりゃあ〜っ!」

木の板に触れた瞬間、バネ仕掛けの何かに勢い良く指を挟まれ、仗助は混乱する。
しかも、その木の板をよく見れば──…

(ネズミ捕りだとぉ!?)

なんと、排水口の前で自分達が仕掛けた罠と同じ物ではないか。
まさか、鼠が仕掛け返したというのか。

「仗助!」

その隙を狙い、鼠がスタンドで仗助を狙撃してきた。
九龍が気付いた時にはもう遅かった。

「なっ!?」

針が仗助の首に突き刺さる。

(間に合わない…!)

無垢なる皇子は『既に起きてしまった事』の前では無力だ。


間一髪、針の毒が回る前に承太郎がスタープラチナで時を止めて針ごと仗助の首の肉を抉り取る。

「おおおおお!?」
「仗助!?」

突然噴き出した血に、仗助は首を押さえた。

「慌てるな、絆創膏でも貼ってろ。あと、正確な位置じゃあないが、奴の居場所が分かった」

そう言って、承太郎がある方向を指差す。
一方で首を抑えたまま、仗助はがっくりと肩を落とした。

「鼠の野郎も承太郎さんもどっちもスゲェ!…けど、今回マヌケなイメージになってるのオレだけ?」
「そんな事、無い……よ、多分」
「フォローになってねぇよ、おチビ…」


(僕も、針が刺さった時にもう駄目だって諦めてたからな…)

毒が身体を侵さなければ、まだ間に合う。
咄嗟の判断力では、やはり承太郎には敵わない。


承太郎と九龍も岩陰に潜み、鼠の動きを待つ。

「…何も起きないね」

しかし、鼠が再び行動を起こす気配は無い。


「やたら撃つと、正確な位置を俺達に特定される事を知っているのだ。このまま夜になれば逃げればいい…したたかな野郎だぜ」

こちら側にも夜に目が利く九龍がいるとはいえ、日が落ちれば不利になるのは変わらない。
睨み合い、時間を浪費する事で優位に立つのは鼠側だ。

「ネズ公を褒めてどうすんスか?何か行動を起こしましょうぜ」
「よく言った、仗助」

その瞬間、まるで仗助の言葉を待っていた様な表情を見せる。

「!?」

すると、何を思ったか突然承太郎が立ち上がり、鼠が潜む方向に歩き始めた。

「え?承太郎ッ、何してんの!?危ないよ!」
「いくらスタープラチナで止められるっつっても連続して撃ち込まれたら全部避け切れるんスかぁ!?」

だが、承太郎は歩みを止めない。

「だから、撃ち込ませる為に奴に近付くんだ。針を撃ってきた位置を仗助、お前が見つけて、奴を狙撃するんだ。九龍はそっちに飛んできた針を任せる」

鼠が潜む方向に近付きながら、承太郎は2人に作戦を告げる。

「仗助…お前がやるしか無いんだよ。俺は奴の針が1発や2発命中してもお前のスタンドで治してもらえるが…お前は自分自身を治せない」
「でも、もし間に合わなかったら、承太郎が!承太郎が死んじゃうよ!」

承太郎がスタープラチナで止められる時間はそう長くない事を九龍は知っている。
もし、避けるのが間に合わなかったら?
もし、仗助が治すのが間に合わなかったら?


『ジョースター達は…自分の娘、あるいは母親の命を救う為に自らの命を捨ててもいいと、心の奥底から思っている』


その時、九龍の脳裏に過ぎったのは、父の言葉だった。

何かを成し遂げる為に自分の命を捨てられる覚悟。
承太郎は、仗助への信頼の為に自分の命を賭けた。
仗助も以前、祖父の仇を捕える為に自らの命を投げ打った。

『馬鹿げた事だが…しかし、その馬鹿げた事が結構重要なのだな』

(でも…)

何よりも尊い、強い覚悟。
九龍は覚悟を持つ者の強さを認めている。
けれど、命を投げ出す事だけは、どうしても受け入れられない。
何かの為に命を捨てる…その価値観だけは、理解出来ない。

…解りたくない。

『ば…馬鹿なッ!こ、このDIOが…このDIOがァァァァァァ〜〜〜ッ!』

(…死んだら、それで終わりじゃないか)



††††††††


「野郎…俺が躱すのを計算して、岩で針を反射させたというのか…」

針が刺さり、承太郎の腕と脚が溶ける。
それでも尚、承太郎は歩き続ける。

「承太郎さん!」
「奴をしっかり狙え!攻撃してくる時、必ず仕留めろ!」

仗助は敢えて鼠ではなく、鼠が隠れる岩を撃つ。

「やはり見たな…外せば必ずこっちを狙ってくると思ったよ。今度は的が大きい…確実に狙えるぜ」

ドギュウゥゥーン

方向転換する為に一瞬の隙を見せた鼠を、仗助は見事に射抜いたのだった。


「今回はマヌケじゃあ無かったぜ。プレッシャーを跳ね返す男、東方仗助と呼んでくれっス!」
「音石明が招いたスタンド鼠…人間が招いた自然破壊、てな感じで複雑な気分だが、仗助が頼りになる奴だったので、やれやれ一安心といった所か…」

「………」

狩りは終わった。
しかし、九龍は険しい表情で覚悟を持つ男達を見つめていた。


>>誰にも気付いて貰えない様なある一言の台詞を入れる為だけに、「狩り」に行こう!を入れたのですが、予想外に主人公と承太郎の関係に突っ込めました。
その為、前後の数話は当初の予定と微妙に内容が違います。
主人公が持つ価値観は設定として存在したのですが、改めて書くと…
こんなのが承太郎みたいな人と居たら、そりゃ不安にもなるわ(汗)


 



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