05
 

「新しい友達、仲良くしてね…」

ダービーから数度目の交換を経て渡された新たな人形を持ち、九龍は自身の分身である異形の頭部に挨拶をした。

「うん、よろしくね…」

所謂、子供のごっこ遊びである。

しばらく遊んでいると、日が完全に昇り、九龍はふあ…と小さな欠伸を漏らす。
九龍にとっては就寝の時間が近付いていた。



††††††††


「───…」

声が…聴こえる…


「ジョースター達は…自分の娘、あるいは母親の命を救う為に自らの命を捨ててもいいと、心の奥底から思っている」

まだ半分意識が夢の中にある九龍は薄ら目を開く。
父が部下のアイスに何かを語りかけていた。

「しかし、その馬鹿げた事が結構重要なのだな。ダービーの奴は忠誠を誓うと言っておきながら、このDIOの為に死んでもいいという覚悟が出来ていなかったという事だ」

言葉の羅列は、未だ夢なのか現なのか曖昧な意識の九龍には、子守唄でしかない。
ただ、父の穏やかで低い声は心地好いと…

「だから、後ほんのちょっとという所で勝利が掴めない…ダービーには、負けた理由が永久に分からんのだ」


──何か大切な事を話してるはずなのに。


その後、再び眠りに落ちた九龍が次に目覚めたのは、ガオン!という大きな音とほぼ同時だった。

「!」
「…安心しろ、壁に穴が空いただけだ。怖いモノは何も無い」

跳ね起きた我が子に言い聞かせると、DIOはその小さな身体を腕の中に収める。
九龍本人は気付いていないが、異変に飛び起きた時から九龍のスタンド、首無しの人型が発動していた。

「ダディ…」

九龍が抱き着いた、目の前の肉体は相変わらず冷たい。
けれど、赤子の時から馴れ親しんだ体温は九龍に絶対的な安心を与える。


「ダディ、どうしてお家が揺れてるの?」

大きな穴を残し、いつの間にかアイスがいなくなっていると気付いた後…
今度は館のどこかから似たような音が引っ切り無しに聴こえ、壁を通して震動が伝わってくる。

「それはだな、今日此処に客人が来ているのだ。音が近いという事は…客人がこの階に近付いてきているのだな」
「ふうん…」

客人とは、『ジョースター』なのだろうか。
今日まで父や父の部下から幾度もその名を聴いてきた人物。

でも──…

(…どうでもいいや……)


視線を彷徨わせたまま、九龍は手の届く高さまで下りてきた太い首に腕を伸ばす。

「ん、ふ…」

今日は戯れの口づけ。

「さて、そろそろジョースター御一行を出迎えに行ってやろうじゃないか」

だが、九龍はまだ知らない──…

沈みゆく太陽が再び昇る時…
九龍の運命が大きく変わる事を。



幼い我が子を抱き上げたまま、DIOは階段を下りる。
覚悟を持つ、DIOの宿命の血を引く男達。


「フン、ポルナレフか。久しぶりだな」

しかし、残念ながらDIOの元に1番最初に辿り着こうとしていたのはジョースターの血族では無かった。

「お出ましかい…遂に会えたな、DIO」

逆立てた髪が特徴的な容姿の男。
あちこちから血を流し、歩き方もぎこちない…まさに満身創痍といった風体だ。

九龍は彼を知らないが、どうやら父の顔見知りであるらしい。

「おめでとうポルナレフ。妹の仇は討てたし、極東からの旅もまた、無事ここまで辿り着けたという訳だ」
「ケッ、祝いに何かくれるっつーなら、テメーの命を貰ってやるぜ」

DIOがスタンドでその能力について何も知らないポルナレフをからかって遊んでいると、ピシリ…とポルナレフの背後の壁に亀裂が走る。

「ヌウウ…!」

一拍も置かず音を立て、崩壊した壁から陽光が差し込む。

太陽の光に当たれば、九龍は不調だけで済むが、DIOは命を奪われる。
間一髪、光が届かない階段の影に隠れたDIOはそのまま上の階へと逃げる。

だが、その僅かな時間に交わされた会話を聴き、九龍は理解した。

「ジョ…ジョースターさん!」
「安心するんじゃ、ポルナレフ」

崩れた壁の向こうから現れた大柄な男達。


あれが『ジョースター』だという事を──…



「DIOッ!」
「今のがDIOだなッ!」

互いの姿を見たのはジョースター側も同様。

「ジョースターさん、陽が沈みかけています。急がないと…」

一行の中の、サングラスをかけた青年が自分達が壊した壁から差し込む夕日を見て、冷静に語る。
空は赤と青が混ざり合い、太陽はオレンジ色に輝いていた。

……日没は、近い。

「とにかく今、言える事は、DIOが太陽の光には弱いって事だけじゃ」

不死の肉体を持つDIOを殺すには、太陽の光を浴びせるかジョセフが持つ波紋の力をDIOに流し込むか、もしくはDIOの頭を粉々に破壊するしかない。
しかし、太陽の光を浴びせる以外の手段は、スタンドだけでなく吸血鬼の能力で生身も強いDIO相手に、やすやすと上手くはいかないだろう。


それと、もう1つ…

この旅の本来の目的について、承太郎達は階段を登りながら話し合っていた。


「DIOは子供を抱いている様に見えた。ポルナレフ、君はどんな子供だったか見たのかい?」
「ああ、ありゃDIOそっくりだった。奴のガキかぁ?綺麗な顔だが不気味だったぜ…」

ジョースター家の先祖、ジョナサンの肉体を奪ったDIOがスタンドを発現させた事で、ジョースター家の血を引く者も次々にスタンド能力に目覚めた。
本来ならばスタンド能力を制御しきれない者も例外ではなく、現在は命の危機に晒されている。

止める手段は、スタンド発現の大本となった人物を消す事であるのだが…

「おいジジイ。DIOじゃなく、奴のガキの方が原因という可能性は?」
「……無いとも言い切れん。杞憂であってほしいのじゃが…」

以前見た写真の通りであれば、子供は2、3歳。
もし、こちら側に危害を加えてこない普通の子供だったら、命を奪うのは余りに忍びない。

「…やれやれ、本当に杞憂であってほしいぜ」


>>タマゴが先かニワトリが先か的な

 



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