39 「じょ、承太郎さん!」 スタンドと睨み合っている承太郎に、康一が後方から声を掛ける。 「君はもっと離れてろ…今度こそバラバラに分解してやる」 承太郎はスタンドから一切視線を逸らさない。 それでも康一は構わず本題を切り出した。 「い、意見を言いたいんです…スタンドは遠くから操作するタイプは決して強力なパワーでは動けない。で、でも、コイツのパワーは…」 スタンドは強いパワーを持つ程、まるで代償の様に動かせる射程範囲が狭くなる共通の性質を持つ。 しかし、パワーが無いスタンドはパワーの代わりに本体から離れても活動出来る距離が伸びる。 「…だから?」 「だから!?この建物の近くに奴が潜んでアイツを操作しているのは間違いないッ!僕のエコーズは射程50メートル、犯人を探せます!」 傍で声を張り上げられ、2人の会話を黙って聴いていた九龍は思わず耳を塞ぐ。 だが、承太郎はスタンドと睨み合ったまま、康一の推論をあっさりと否定した。 このスタンドはあまりに動きが単純過ぎる、故に遠距離操作のスタンドで犯人はもう承太郎達の様子を詳しく探れる場所にはいないのだと。 …とはいえ、遠距離タイプにしては人1人の身体を跡形も無く消滅させる程のパワーは不自然だ。 遠距離タイプと推測する根拠は幾度も戦いを重ねた承太郎の経験のみ。 只の高校生だった承太郎が母を救う為に身を投じた歴戦を知らない康一が、自身の意見を否定されて不満を感じるのは、当然の結果だった。 「………」 「康一…?」 今のは、康一のスタンドのエコーズだ。 犯人が上着を奪ったドアから出て行った。 (こういうの、納得いかないから自分の目で確かめるってヤツなのかな…) 姿は見ていないが、上半身に着ている物の色…何より、先程まで見ていた上着を所持して行動しているという特徴がある。 近くに居るならば、探し出すのは比較的簡単な筈だ。 あれだけのパワーを持つスタンドが目の前に存在する以上、犯人はスタンドからの攻撃に対しては丸腰同然の状態でもある。 玄関の扉を出て、上空に上がり、エコーズの追跡は続く。 そこで康一には予想外の結果が待っていた。 「いた!あいつだッ!でも、おかしいぞ…と、遠すぎる…エコーズの射程外だッ!」 見つけ出した犯人は康一の予想に反し、追手を気にせず店の方を振り向く事なく、エコーズの射程外を歩いて逃走していたのだ。 予想外の事態に康一は困惑する。 すると、今まで承太郎と睨み合っていたスタンドが急に方角を変え、康一と九龍が居る方向に飛び掛かる。 「康一!」 「ハッ!」 犯人の探索に気を取られていた康一は、一足先に逃げた九龍の声でようやく事態に気付いた。 「分かったぜ、思った通りだ。ソイツは『体温』を探知して自動的に追撃してくるスタンドなんだ」 1番最初に狙われたのは、店主。 それも熱いコーヒーの入ったカップを持つ『手』だった。 熱いコーヒーを飲んで体温の上がった店主の頭が標的となり、店主の身体を跡形も無く消して、ようやく承太郎達に標的が移った。 そして今、予想外の事態に興奮している康一が狙われ、人よりも体温の低い九龍が別の方向に逃げても相手にもされない。 「『自動操縦』…それがこのスタンドのカラクリか!エコーズを出して身を守れ、康一君!」 しかし──… 「エコーズを呼び戻すのが間に合わない〜ッ」 「康一〜!」 「やれやれだぜ」 スタンドを破壊する事が出来ない以上、時を止めるだけではもう間に合わない。 敵スタンドはより熱を持つ方向を狙う。 時を止め、スタープラチナは爆発で壊れた窓枠の木片を拾い、高速で擦り合わせる。 時が動き出した瞬間、スタンドは摩擦で発火した木片へと方向を変えた。 「やはりな。温度の高い方を優先的に探知して追撃するのか。しかし…」 炎に向かうスタンドの軌道上に承太郎は居た。 「え、承太郎…?」 「人間の体温の温度で爆発するのなら、コイツは──…」 咄嗟にスタープラチナで自身を庇うも、スタープラチナの硬さより敵スタンドの爆発のパワーの方が上だった。 「承太郎さ──ん!!」 …何が、起きている? 「あ…ああ……」 目の前には、爆発に巻き込まれ、血を流して倒れる承太郎。 「うわあああああ!ぼくのせいだッ!僕が犯人を追ったからだ!」 聴こえるのは、康一の嘆く声。 「…っ」 鼻をつく、理性を溶かされてしまいそうな程に濃い、甘い香り。 「じょう、たろう…?」 『どれ、このまま承太郎の死体を確認して血を吸い取っておくか…吸い取る血が残っていたならな』 『ば…馬鹿なッ!こ、このDIOが…このDIOがァァァァァァ〜〜〜ッ!』 今まで夢の様に朧げだった声だけの記憶が、今ならはっきりと思い出せる。 あれは、現実だった。 『このまま朝日を待てば塵になる。テメェの敗因は…たった1つだぜ、DIO。たった1つの単純な答えだ』 スタンドに亀裂が入り、真っ二つに裂ける… ダメージが跳ね返った本体もまた、スタンド同様に血を噴き出して死んだ。 それは、今この場で起きている出来事とよく似ていた。 死んで、しまう… 承太郎が死んでしまう… 「承太郎っ、嘘…承太郎っ!承太郎!」 あの時は分からなかった感情が、恐怖が九龍を襲う。 「いや…死んじゃやだ…承太郎」 『やだ!置いてかれるのは、もっと嫌!』 泣きながら、脳裏を過ぎるのは、自身の言葉。 「置いて…行かないで…」 何故、自分が孤独を嫌っていたのか、ようやく九龍は己の深層心理に気付いた。 九龍は目の前の惨状に気を取られて忘れていたが、敵はまだ九龍達を狙っていた。 承太郎が身を呈して作り出した火種を消し、次の標的は再び康一に移る。 「九龍君ッ!承太郎さんを連れて逃げよう!」 未だ取り乱したままの九龍の手を取り、康一が訴える。 「承太郎…承太郎が…」 「逃げて、助けを呼ぶんだ!仗助君を!仗助君ならきっと承太郎さんの怪我を治せる!」 「!」 承太郎を引きずり、家の中に続くドアに向かいながら康一が告げた名に、九龍はハッと顔を上げて反応した。 「じょう、すけ…」 「行こう、九龍君!」 敵のスタンドはすぐ近くまで迫っていた。 「仗助君に知らせたい!時間を稼がなきゃ!」 2人は意識の無い承太郎を運びながら、ドアを閉めたり廊下の電灯を全て点けたりしながら奥の部屋へと向かう。 康一の狙い通り、スタンドは九龍達ではなく電灯へと突撃し、爆破しながら進む。 「承太郎さんの言う通りだ。体温より高熱に優先的に向かって攻撃していく…この隙に逃げるんだ!」 >>忘れていた記憶って1つの事を思い出すと芋づる式に出てくるので、たまに忘れたままで良かった事まで思い出してしまったり。 DIO様=芋… |