41 自身と対峙しているこの男が、スタンドの本体──… 「コイツが…うおおおお!」 康一は激昂し、男にエコーズを飛び掛からせた。 しかし、もう1体の人型スタンドが立ち塞がり、エコーズを圧倒する。 「な、何で…スタンドは1人1つなのに!こういうの、反則って言うんだよ!」 「君達の相手をしていた『シアーハートアタック』は、この『キラークイーン』の左手から発射した追撃爆弾だ。だから先程のダメージは私の左手だけにある」 自身のスタンドのカラクリを説明しながら、男は承太郎を抱き締める九龍の手をうっとり見つめる。 「君、男の子だけど綺麗な手をしているね」 唐突に気持ちの悪い事を言われ、九龍の肌が粟立つ。 「私の理想より小さいが、そうだな…君は私の好みの手に育つまで、手元に置こうか」 「そ、そういうの、変態って言う!変態ッ!」 「…その生意気な口は塞いで、ね」 エコーズはキラークイーンに背中を踏み付けられ、見動きが取れなくなっていた。 一方でこのダメージが跳ね返り、更に先程負った傷を背中に持つ康一も、マトモに動けない状態だ。 「正直、ここまで苦戦するとは思わなかったよ。ところで、ハンカチかティッシュ…持ってるかね?」 「持ってない…何の事だ?」 「じゃあ、私のを使いたまえ」 康一の返事を訊くと、男は自分のティッシュをポケットから取り出し、地面に投げ捨てた。 その直後、いきなり康一の顔面を殴る。 「鼻血がいっぱい出るだろ?それを拭く為に。…これから君を嬲り殺すからな」 男は自身のスタンド、キラークイーンでエコーズを踏み付けたまま、自身は康一を甚振り始めた。 「康一ッ!」 「来ちゃ駄目だ、九龍君!君が来たら承太郎さんが…ッ、ぶぐっ」 康一の制止の言葉は、頭を掴まれ、アスファルトの地面に叩きつけられた事で掻き消される。 「あと1分したら、キラークイーンで吹き飛ばしてやる」 「…まえの…」 地面に頭を押し付けられたまま、康一は何かを呟き始めた。 「名前…は、『吉良吉影』…だ」 「!?」 その言葉に男はあからさまに動揺して腕の力が緩み、康一を解放した。 行動が、康一の言葉を真実だと物語っている。 「きら…よしかげ?」 「………」 身体を起こそうとし、失敗した康一の下から財布と…何かのカードが現れる。 男はそれを拾う。 「わ、私の『免許証』、いつの間に私の財布を抜き取った!?」 康一は男に嬲られながらも、闘いを諦めてなどいなかったのだ。 しかし、男の名前を知る事が出来ても、絶体絶命の状況は変わらない。 「『キラークイーン』!この指先はどんな物質だろうと、爆弾に変えられる…そして、それに触れたモノは爆破される」 「康一ィイイ──ッ!」 キラークイーンの拳が康一を貫く。 もう見ているだけでは居られないと、九龍は疲労し、貧血になった体で戦いの場に駆け出そうとした。 だが──… 「!」 何かが九龍の腕を強く引く。 「何ッ!?……あっ」 振り向いた九龍は、自身を引き止めた正体を見て、目を見開く。 「じょ、承太郎…っ」 それは、今まで気を失っていた承太郎だったのだから。 「承太郎…良かった…」 九龍はふらつく足で承太郎の元に歩み、抱き着いた。 承太郎が目覚めた安心から今まで張り詰めていた神経が緩み、意識が遠ざかっていく。 「よく耐えたな、九龍。後は俺に任せろ」 意識を失った九龍を地面に寝かせ、承太郎は立ち上がる。 自分の代わりに戦い続けた勇者を救い、元凶をブチのめす為に──… 一方──… 「さて、君の場合、胸の学生ボタンを『爆弾』にして…吹っ飛ばすか」 宣言通り、キラークイーンの指がボタンに触れようとした、まさにその瞬間。 「康一君…君は、精神的にはその男に勝っていたぞ」 男の声に、吉良はハッと後ろを振り向く。 間一髪、キラークイーンが拳を受け止める。 拳の主はスタープラチナ。 九龍が巻き戻した時間は元に戻り、承太郎とスタープラチナは既に満身創痍の状態に戻っていた。 しかし、それでも承太郎には充分だった。 「良い時計だな。だが、もう時間が見れない様に叩き壊してやるぜ…」 「えっ!?何…ッ」 時を止めたスタープラチナの拳がキラークイーンを殴り、ダメージは吉良に跳ね返る。 「よく見たら、やれやれ…趣味の悪い時計だったな。だが、そんな事はもう気にする必要は無いか。もっと趣味が悪くなるんだからな…顔面の形の方が」 スタープラチナの連打がキラークイーンの顔面を襲う。 …スタンドが受けたダメージは本体に跳ね返る。 キラークイーンの本体である吉良の顔もまた、ボコボコに変形していく。 どうやら、キラークイーンの顔は左手のシアーハートアタックの頑丈さは持ち合わせていないらしい。 「ぶげああっ」 スタープラチナに殴り飛ばされ、倒れる吉良。 ──勝敗は、決した。 「よく頑張ったな。尊敬するぜ、康一君…成長したな」 承太郎は気を失っている康一を称えながら、満身創痍であった自身も、再び気を失って倒れた。 「オイ康一っ、どこだ康一!?」 そこにようやく、仗助と億泰が辿り着く。 「コ、コイツは一体…何があったんだァ〜?」 倒れている3人を発見し、2人は慌てて駆け寄る。 「こ、こりゃあ大変だっ!!」 「康一っ!承太郎さんッ!おチビっ!」 九龍に外傷は無い。 仗助は承太郎と康一の傷をクレイジーダイヤモンドで修復し始めた。 だが、2人は気付く。 3人の他にもう1人… 見知らぬ男が血を流して倒れている事に。 意識を取り戻した男には逃走されてしまったが、仗助達はこの男が『敵』だと勘付いた。 傷を治し、遅れて意識を取り戻した承太郎と康一と共に逃げた男を追跡する。 「チビの奴、目ェ覚まさねーけど、大丈夫なんスか!?」 「…ああ。貧血だからな」 貧血では、クレイジーダイヤモンドでは治しようが無い。 「俺が手遅れにならない様に、ずっとスタンドを使い続けていたらしいからな。あんな日当たりがいい場所で…やれやれだぜ」 「殺人鬼の名前は吉良吉影!住所は杜王町浄禅寺1の28、年齢33歳!」 後を追いながら、康一は3人に戦いの最中に奪い取って見た免許証の情報を伝える。 吉良はもう承太郎達が視認出来る所にはいない。 唯一の手掛かりは吉良が仗助達を撒く為にシアーハートアタックを残す際、自ら切り落とした左手だ。 クレイジーダイヤモンドによって吉良の身体に修復されようとしている左手は、吉良の身体を求めて飛んでいく。 「ヤツはよぉ〜……かって…」 (声が…聴こえる…億泰?) 億泰が夢に出てくるなんて、珍しい。 それに、何だか揺れている気がする。 微睡みの中にいた九龍は不思議に思い、目を開けた… 「承…太郎…?」 目を開けると真っ先に、広くて白い背中と、帽子を被った後ろ頭が見えた。 「よお、ようやく目が覚めたのかよ。ハァー、スゲー焦ったぜ…」 「仗助!億泰も!」 皆が走りながら、何処かに向かっている。 九龍は走る承太郎に背負われた状態だった。 …揺れの正体はこれだったのか。 「あっ、犯人!犯人は!?」 「今、ソイツの後を追っている。吉良吉影、だろ?」 仗助達が居る… それだけで、安心する。 力強く感じる。 同じ安心でも、父と居た時とは違う。 DIOは何にも負けない圧倒的な強さがあった。 しかし、仗助達は…生き物としてはDIOより弱いだろう。 でも、仗助達がくれる安心には温かさがある。 彼らの為にも決して挫けない、という決意を九龍に与えてくれる。 「この中だぜ、ヤツはよぉ〜。このビルの中に入った」 吉良の左手は、見覚えのあるビルの閉ざされた扉の前に張り付いた。 「ここ…見た事ある」 愛と出逢うメイクします──… 看板に書かれた文字を見て、九龍は先日のジョセフの言葉を思い出す。 『さっきボタンの事を訊きに行った店の隣に"エステシンデレラ"という名前のエステの店があっての』 そこは、『エステシンデレラ』がテナントとして入っているビルだった。 >>やりたい話はこれで全部書けたので、次の話で承太郎達が船に乗っていても驚かない。 |