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1999年4月──…



TRRRRR…

「はいはい、今出るから待ってってば!」

広い家の中を響き渡る電話の音。
九龍は電話のある居間まで全速力で駆ける。

TRRRRRRR…

バンッ!

「はい、もしもし!空条です!」

間に合った…
滑り込む様に受話器を取り、息を切らしながら電話の向こうに話し掛ける。


「──九龍か?」


受話器から聴こえる、低くて迫力のある懐かしい声。
間違いない、この声は──…

「…承太郎!?ッ、承太郎!」
「やかましい、聴こえてる」

数年前までこの家で生活し、現在はアメリカに住む空条承太郎その人である。

「どうしたの?ホリィはね、今ご近所のおばさん達と出掛けてるんだよ。後でかけ直そうか?」
「いや、いい。用があるのは…九龍、お前の方だ」
「?」



「こういうの、隠し子って言うんだよね」

本人は今の今まで知らなかったみたいだけど。


冷たく言い放つ九龍は、受話器の向こうの人物同様に呆れ返っていた。

先日、承太郎が同じくアメリカに住むジョセフの将来の遺産周りを整理していたところ、驚くべき事実が判明した。
なんとジョセフにはホリィの他にもう1人、子供がいたのだ。

「ねえ承太郎、今いくつ?」
「28だ」
「ホリィの弟、今年で16だから、承太郎が11くらいの時に浮気してるって事だよね」
「………」

お互い、『どうすれば子供が出来るのか』とっくに知っている年齢の為、あまりの生々しさに寒気すら覚える。

「相手、女子大生だったってさ、自分のお父さんより年上って事だよね!よくそんなのと不倫したね!ジョセフ気持ち悪ッ!」

特に、多感な思春期真っ最中で隠し子と歳も近い九龍は強い嫌悪を抱く。

「とにかくだ、一度その隠し子とやらに会いにこれから日本に向かう。そこにいるスタンド使いの死刑囚も気になるからな。お前も来い」
「…僕も?」



「承太郎ー!」


入国手続きを終え、承太郎が空港のロビーに向かうと、相変わらず小さい『義弟』が笑顔で出迎える。

「久しぶりだな、九龍」
「承太郎も、元気してた?」

それにしてもさぁ、と九龍はぼやく。

「このまますぐM県行くなんて…こういうの、ハードスケジュールって言うんだよ。本当に帰らないの?」
「何だ?忘れ物でもしたのか?」
「そうじゃないけどさ…」

例の隠し子が住んでいるのは、M県S市杜王町。
久々に日本に来たというのに、承太郎は家族にも会わず九龍を連れてこのままM県に向かう気でいる。
そのストイックぶりに、承太郎がアメリカで新たに築いた家庭の事が少し心配になる九龍だった。

承太郎は、何も言わなくても他者が自分の考えている事を理解すると思っている節がある。

それは愛情に対しても同様。
産まれた頃から家族だったホリィは、本音を語らない承太郎の事をよく理解しているが…


(他の人はちゃんと伝えないと分かんないんだって、承太郎分かってないよね…)

九龍自身、今回、何故この隠し子騒動に巻き込まれる羽目になったのか、未だに説明がなされていないのだ。



仙台空港に到着した2人だったが──…

「ふあ…」

時刻は昼過ぎ。
相変わらず太陽の光に弱い九龍は欠伸を漏らす。

だが、これからバスに乗り換え、S市に向かわなくてはいけない。


「ああ、そうだ」
「うわっ!」

急に立ち止まった承太郎の巨体に正面から衝突し、九龍は反動で尻餅をつく。
差し出された手を九龍が非難の目で見つめると、すまなかった、と一言詫びを入れながら承太郎は優しく九龍を起こした。

「眠気も覚めた所で、お前に渡したい物がある。誕生日だったろ?」
「えっ、なになに?プレゼントくれるの?ありがとう、承太郎!」
「フッ、現金なヤツだな」

ついさっきまで膨れっ面だったというのに。
すっかり機嫌を直した九龍に、承太郎は自然と笑みを零した。

「…コレだ」

そう言って承太郎が取り出したのは、やや細長い四角形の化粧箱だ。
形状から恐らく、中身はネックレスかペンダントであろう。
化粧箱を受け取り、九龍が開くと、やはり中身はペンダントだった。


ただ1つ、九龍の予想外だったのは、ハート型のペンダントトップには片方の側面に蝶番が付いている事だ。

「知ってる。こういうの、ロケットって言うんだよね。写真とか入れるんだって…」

この中に、と九龍がペンダントトップを開くと…

「!」

既に中には先客がいた。

「っ、承太郎…!」

九龍は戸惑いの表情で承太郎を見上げる。
その姿を見て、承太郎は不意に昔を思い出し、感慨に耽る。


共に暮らし始めたばかりの10年前はまるで人形みたいに無表情で、こんなにコロコロ表情が変わる事は無かった。
九龍を変えたのは、九龍に家族の愛情を教えた両親の影響が大きいだろう。

しかし、どんな父親であろうと、時間の経過でどんどん記憶が薄れていても、承太郎がそれを望んでいても…
九龍が承太郎達には隠しながらも、今も亡き父親に肉親の愛情を抱いていると、承太郎は知っている。

「承太郎、いいの…?」


ペンダントの中に、承太郎はDIOの写真を入れていた。



††††††††

──電車内にて


「コレ、こっちにも写真入るみたいだね」

「こっちはホリィの写真を入れよう」
「オイ、やめろ」
「じゃあ、承太郎の写真を…」
「気色悪いからそれもやめろ」


>>7話でちょっと出てきた元気な主人公。
もしDIOが生きていてDIOの元で育ったら違う性格になってます。


 



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